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ミステリ感想-『聖者が街にやって来た』宇佐美まこと

2019年01月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
歓楽街と市街が入り乱れる再開発地区で、亡き夫の遺した花屋を営む小谷桜子。
娘の菫子が市民ミュージカルのヒロインに抜擢されるが、賑わいを見せる街の片隅では、ストリートギャングと連続殺人事件が跋扈していた。


~感想~
おそらく作者がこれまでで最もミステリらしさを念頭に置いて描かれた作品。が、作者の本領はここには無かった。

細かく張られた伏線や回収の手際、数々の事件が次第に連関して行き、一つの大きな流れを形作る手腕は流石ながら、キャラ造形、設定、事件その他ほとんどがあまりに物語のために都合が良すぎるのがネック。
この物語を描くために逆算して作られたとしか思えないほど、というか確実にそのためだけに作られた存在ばかりで、それこそガッチガチに台本を練られた舞台劇のようで、何もかも人工物に見えて仕方ない。
本格ミステリにおいてそれは基本的に悪いことではないのだが、作者の良いところがほとんど消えてしまったのは確かで、残ったのはもはや執念すら感じるほどどの作品にも必ずあるエロ描写と、そつなく物語をまとめる腕だけ。結末もリアリティに乏しく、大半の悪人・元凶が放置されたのも残念だった。

他の凡百の作家の新作ならば、ある程度の満足は得られただろうが、2018年度(このミス期間)に傑作を連発した宇佐美まことの新作としては、一段も二段も落ちてしまう、物足りない一冊だった。


19.1.9
評価:★★☆ 5

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