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ミステリ感想-『エンデンジャード・トリック』門前典之

2022年01月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
人気旅館の脇に建てられた不釣り合いなキューブハウス。
その周辺で多発する様々な密室事件と、人喰い熊の噂。
迷宮入りした事件の謎に建築探偵・蜘蛛手が挑む。

2020年本ミス10位

~感想~
プロローグからいったい何人の少女が会話しているのかわからない(※たぶん2人)不安定な描写で笑った。
その後もセリフに鼻をすする音が入ったりと別の意味で不安を煽りながら、島田荘司なら雰囲気たっぷりに伝奇的に仕上げるだろう密室事件が概要だけであっさり語られ、あっさり迷宮入りし、あっさり5年後へ。
蜘蛛手と宮村コンビの捜査が始まり、冒頭の目次に書いてあるから言っても構わないだろうが、新キャラ全員が殺される胸熱の展開が待ち構える。
リアルタイムで詳しく書いてるだけで、前半パートと同じくとんとん拍子にテンポ良く人が殺されまくり、あっという間に解決編へ。
読者への挑戦状もあるが、その書きぶりと、途中であからさまに不自然だったパートから逆に犯人がわかる大ヒントになっており、そっちのトリックはいささか残念だったものの、この作者に期待する方のトリックは抜群で、一読の価値はあるだろう。
とはいえすごく良く出来てるところとものすごく雑なところが混在しており、ネタバレにはならないと思うが終盤に出てくる「闇医師界ではよくあること」というパワーワードが、この作品の強引な力業さ加減と良い意味悪い意味両面での適当さを象徴していると思う。
「闇医師界ではよくあること」で本格ミステリの顛末を済ませるな。というか闇医師界を現実のものとして出すなw

作者は2001年に鮎川哲也賞を受賞した際に「乱暴な言い方ですが、奇想の世界を構築するためなら、他の要素を犠牲にしても構わないとさえ考えています。その考えの善し悪しは別にして、限られた時間をそれだけに固執した作家がひとりぐらいいてもいいのではないか、とも考えています」と述べているが、その姿勢に1ミリたりともブレはなく、この心意気と時に垣間見せる思わず笑ってしまうような大仕掛けこそが魅力であり、今後も応援していきたくなる。

また意味深だが本編には一切出てこないタイトルだが、多くの人が指摘する通り、やはり2020年に今さらアレやコレをメインに引っ張ってきたことこそが「エンデンジャード(絶滅危惧)トリック」なのだろうと思うし、その意気や良しと大いに買いたい。


21.1.13
評価:★★★ 6

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