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ミステリ感想-『幻の女』香納諒一

2022年02月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
弁護士の栖本は5年前に突如として姿を消した不倫相手に再会。
彼女は仕事の依頼を栖本の留守番電話へ残し、その夜に命を落とした。
独自に調査を始めた栖本は、彼女の隠された過去に迫っていく。

1998年日本推理作家協会賞、このミス6位


~感想~
まずつかみが抜群。
偶然の再会から電光石火で女は死に、未練を断ち切れないどころか未練たらたらの栖本は、仕事を放り出して独自に彼女の過去を探る。そして早速突き当たる大きな疑問から次第に明らかになっていく、幻の女の過去を探る調査は実に読ませる。
ハードボイルド風味だが栖本は頭脳は優秀なものの腕っぷしは全然のため、たびたび痛い目に遭うが、不屈の闘志で喰らいついていく。そしてある解決にたどり着くが、ここからが日本推理作家協会賞の面目躍如。名探偵さながらの閃きで真相を暴き、残された謎の全てを一掃してみせるのだ。

この世は実質的に裏社会が牛耳っており、裏社会なくては世界は回らない、この世には義理も人情も美談も一つもありはしないのだと語る世界観はあまりに現実味が無さすぎて任侠映画の観すぎだろ、日常生活で義理や人情や美談を見かけることいくらでもあるだろとドン引いてしまうが、実はそれも作者が「九割九分九厘までは、世の中はせちがらいものだというふうに落ち着けていって、最後の二行で、だけども自分には大切にしているものがあるんだと主人公に実感させよう、何かを大事にしている人間であってほしいと願いつづけていようと決め、そこに向かって書いていった」と語る通り、手の内で転がされているだけである。

解説によるとウィリアム・アイリッシュ「幻の女」をもちろん下敷きにしているそうだが、未読でも全く問題なく、分厚いページ数を感じさせない重厚な一作である。
それにしても名のある作家は道中いろいろ不満があってもラストシーンは綺麗に着地させて、すっきり読み終えさせて来るなあと感心する。


21.1.29
評価:★★★☆ 7

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