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ミステリ感想-『望み』雫井脩介

2018年04月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
自宅をモデルハウスとして公開し、妻と二人の子供と暮らす建築家の石川一登。
ある日、高一の息子が外出先から戻らず、気を揉んでいるうちに付近で少年の遺体が発見される。
失踪中の息子の関与が明らかとなり、一家は煩悶する。息子は加害者か、それとも被害者なのか。

2016年このミス13位、文春9位、山田風太郎賞候補


~感想~
各種ランキングでランクインしたものの全然ミステリではないが大変面白く読めた。
まず驚いたのは上達ぶり。デビュー作「犯人に告ぐ」は構成はもちろんのことネーミングセンスからしてやばいという、筆力云々ではなく色々と残念だったが、ここまで腕を上げていたとは。

あらすじを見ればマニアなら多くが歌野晶午「世界の終わり、あるいは始まり」を思い出し、同時に問題作というか欠陥作のアレをも想起するだろうが心配ご無用。本作はきっちりと最後まで描き切ってくれる。
というか本当になんだったのアレは。改めて自分は「セカオワ」がこの世で一番嫌いなミステリだと再認識した。

それはともかく本作は、息子が殺人事件に関わり、その真相が明らかになるまで、といういたって単純な構図ながら、石川家の息詰まるような日々を丹念に描き、ここしかないという結末まで駆け抜ける、一気読み必至の良作である。
天祢涼あたりならここに本格ミステリ的な、(これは褒め言葉だが)ある意味で台無しなトリックを仕掛けるところ、奇をてらわずに、しかし納得の行く決着を迎えたのは好感だった。

また興味深いのは夫婦の意見の対立で、自分は妻の意見に終始腹が立って仕方なかったが、おそらくこれは男性目線だからで、女性読者なら夫の意見にはらわたが煮えくり返ることだろう。このあたりの描写の上手さには、個人的にデビュー作を全く評価していなかっただけに、上達ぶりに舌を巻かされた。
このミス・文春ともに上位にランクインしたが、ミステリファンのみならず、多くの読者に受け入れられるだろう。


18.4.7
評価:★★★☆ 7

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