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ミステリ感想-『虹を待つ彼女』逸木裕

2018年06月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
プログラミングしたゲームに偽装を施し、ドローンで自らを射殺させたことで一部でカルト的人気を博す水科晴。
AIプログラマーの工藤賢は、水科晴をAIとして蘇らせようと調査を進めるうちに、彼女自身に次第に心惹かれていく。

2016年このミス16位、横溝正史賞


~感想~
いろいろと粗いが新人賞らしい熱の籠もった力作。
まず主人公の工藤が魅力ゼロの月君みたいなキャラで、オール4くらいの器用貧乏なパラメーターなのに謎の自信に満ち溢れ、他者を利用することしか考えていないサイコパス気質。
そのくせこれといった目標もなく漫然と生きる半ニート気質で、劣勢になると相手を傷つけるためだけに捨て台詞を吐いていくDQN気質もありと、とことん感情移入を拒む。

だが物語の面白さは抜群で、美人コミュ障プログラマーの謎めいた半生とその最期に迫るうちに純愛ルートに入った工藤が、ストーカー気質も獲得して後先あまり考えずに卑怯な手で突き進み、ドツボにはまっていく過程は非常に読ませるもの。
中盤で早くも水科晴のパートナーの正体が明かされ、工藤のストーカーぶりが加速し、読者の望み通りに次々と酷い目に遭うのも痛快。終盤にかけての展開は膨らんだ期待値を超えることはなかったし、結末の意外性や目を見張るトリックなどは皆無だったが、抜群のストーリーテリングで一息に読ませる力はあり、全編にわたってデビュー作ならではの熱意が感じられ、この作者は今後さらに上達していくだろうと思わせるには十分だった。

今年メフィスト賞を受賞した「毎年、記憶を失う彼女の救いかた」のキャッチコピーである「すべての伏線が、愛」という言葉がよりふさわしい、たとえ歪んでいたとしても、愛しかない作品である。

余談だが工藤はプログラマーとしても自称一流の腕を持つはずなのに(以下ネタバレ→)なぜゲームを解析しようとしなかったのか不思議でならない。あれか。自力で解かなければ気が済まないゲーマー気質なのか。


18.6.8
評価:★★★☆ 7

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