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ミステリ感想-『冬季限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信

2024年05月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
小鳩くんは小山内さんと下校中に車にはねられる。手術を終え朦朧とする小鳩くんの枕元には、ひき逃げ犯を許さないという小山内さんのメッセージが。
ひき逃げ事件には3年前、中学時代に二人が出会い、そして追った事件といくつもの共通項があり…。
これは高校生活の終わり、小市民の時代の終わりのエピソード。


~感想~
小市民シリーズ完結編。
前作にしてシリーズ番外編「巴里マカロンの謎」は小鳩くんも小山内さんもいつになく推理にキレがなく、読者には自明の真相に気づかない二人にやきもきさせられたが、本作にはこのシリーズに求めるものが全部入りである。
そのうえ二人の出会いやまだ未熟ながらも実に二人らしい中学時代の捜査も描かれ、そして3年間の月日で変わってきた二人の関係も丹念に描かれと、もう捨てるところのない「それだよ読者が求めているモノは!」と興奮気味に叫びたくなる逸品である。
肝心の真相は丹念に描かれた分わりと気づきやすく、中盤にはもう仕掛けや構図はほぼほぼ見破れてしまったが、それで評価を下げるわけはないし、そんなことよりも読みどころははるかに多い。ラストシーンに至ってはあまり使わない「エモい」という言葉を進呈したいほど。さすがにもう覚えてない15年前のセリフも解説の松浦正人がきちんと拾ってくれていて助かった。
シリーズを追ってきた人は当然読むだろうが、こんな素晴らしい完結編が待っているのだから、夏アニメから入る未来の読者にもぜひシリーズをはなから読んで欲しいと願うばかりである。

ここからは無為の愚痴だが、「可燃物」程度で三冠取りかけられるともう今年のこのミスは「ボンボンショコラ事件」一択である。
安定して80点以上を叩き出しコンスタントに年に数作書け投票しとけば安牌な国民的作家がいたらもう年間ランキングは終わり。宮部みゆきの頃は「もう今さらランキングに宮部みゆきはいいでしょ。でも模倣犯を出されたら1位」という気概を持つ投票者たちだったが今は安牌しか切らない。
「可燃物」で20年楽しんできたこのミスは死んだ。文春はとっくに死んでる。本ミスは首の皮一枚つながってる。早ミスはそもそも生まれてすらいない。


24.5.3
評価:★★★★ 8
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