goo blog サービス終了のお知らせ 

小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『悪の教典 下』貴志祐介

2014年09月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
高校で教鞭をとる傍ら、次々と己の障壁に成り得る相手を殺していく蓮実聖司。
だが文化祭の前日、些細なミスから犯行が露見しかける。
蓮実は即座に決断を下し、凄惨な殺戮劇の幕が開いた。


~感想~
ユニバーサルメルカトル図法再び。
上巻のサイコパスな日常から急転直下、些細なミスから決断を強いられた蓮実がバトル・ロワイアる下巻。
ピンチらしいピンチもほとんどなく「沈黙のハスミン」とでも呼ぶしかない俺つえーなキラ様無双が延々と続き、単純にエンタメと表現するのがはばかられる胸糞の悪い描写の連発にはドン引きするしかない。そりゃAKBの誰かも映画版の試写会で御立腹するわ。
このミス&文春W1位にふさわしいトリックやどんでん返しなどというものは当然のごとく存在せず、それどころか意外性を演出した(らしい)場面は仕掛けられた瞬間に細工が丸わかりで、しかもそれが解決にあたってなんら寄与しないという無意味っぷり。
そして最後はチート設定の厨二キャラなハスミンがどうしてこんなことを知らないんだと首を傾げるしかない、お手軽な雑学で決着がついてしまうのもなんともはや。
「黒い家」「硝子のハンマー」「新世界より」と読んできたが、この作者には意外な展開や驚く逆転劇を描くつもりがさらさらないのだとしか思えない。
また「問題があれば、解決しなければならない。俺は、君たちと比べると、その際の選択肢の幅が、ずっと広いんだよ」という蓮実のセリフは詠坂雄二の傑作「遠海事件」に登場するサイコパス・佐藤誠を思い出させ、「遠海事件」の見事なトリックも同時に想起させてしまい、翻って見て本作の物足りなさをどうしても感じてしまう。上巻のサイコパスな日常は面白かったのに……。

ノベルス版から書き下ろしの、蛇足どころか資源の無駄としか言いようのない掌編2つにはあえて触れないこととしても、これが2010年のミステリ界を代表する作品に選ばれたのは「独白するユニバーサル横メルカトル」以来の悪夢ではなかろうか。作者が貴志祐介でなければせいぜい20位以内にランクインがいいところだったはずだ。
ミステリという言葉が広義のエンタメと同義になって久しいが拡大解釈にも程があると個人的には思う。
なお文庫版の解説は、映画版のカントクを務めた三池崇史が壮絶なネタバレをかましているので、くれぐれも先に読まないことを勧める。


14.9.22
評価:★★☆ 5