小学生の頃、東京生まれ、東京育ち、というのがひどく不満だった。生まれ育った世田谷が嫌いだったわけではない。ただ、父方の祖父母とは同居、母方の祖父母は代々木、親族のほとんども皆東京のどこかに住んでいて、夏休みになっても遊びに行くところがない。従兄弟姉妹たちや父の会社の同僚の家族と海にでかけたりはしたけれど、それはそれで楽しかったけれど、そういうことじゃないんだよなぁ。夏休み明け、クラスメートたちが田舎での出来事を楽しそうに話しているのがほんとうに羨ましかった。両親どちらとも東京出身なのだから、致し方のないことだとわかっていても、それを何か不当なことのように思っていた。後年、『おもいでぽろぽろ』をはじめて観たとき、小学校五年生のタエ子の気持ちにはいたく共感したものだ。
じゃあ、田舎に住みたいのですか、と聞かれれば、ちょっと返答に窮する。田舎暮らしの大変さをほんとうは何もわかっていないから。でも、住んでみたいのはどんなところですか、と聞かれれば、イメージがないわけではない。山と川と海の近くに住みたい。しかも都市生活の利便性を適度に供えた中小都市がいい。やたらに贅沢な要求だ。これらの条件をすべて満たしている場所を知っているわけでもない。それに、山川海といったって、いろいろだし。
今住んでいるストラスブールにはリル川が流れている。自宅がある地区はその支流に囲まれている。ここ数年、目に見えて水質が浄化している。これは市の政策と市民運動の賜物だ。街の中心部の川べりの遊歩道から見上げる「下から目線」の景観はとても美しい。縁あってこんな綺麗な街に住めて幸せだと思う。ライン川も直線距離にしたら2キロほどだ。フランス側のヴォージュ山脈は見えないけれど、ライン川の向こう側にはシュヴァルツヴァルトの山並みが見える。しかし、海からは遠い。とても遠い。北方のイギリス海峡も南方の地中海も500キロの彼方だ。
海が見える場所でないと生きていけないというほど海に恋い焦がれているわけではないけれど、定年後、死ぬ前に一度でいいから、海の近くの街の海の見える場所に住んでみたい。
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