内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「日記」という意志 ― たまゆらの記(五)

2014-12-27 12:12:15 | 随想

 その人は、数十年にわたって、毎日、ただの一日も欠かすことなく、日記を付けていた。集文館の赤い表紙の小型三年活用新日記を愛用していた。一日八行、その日の出来事が時系列に沿って、簡潔に記されている。旅行にも携行し、旅先で付けていた。あるいは、旅先でのメモを基に後で当該日付に普段と同じように記入していた。
 死の八日前の十二月十四日、三十九年前に亡くなったその人の夫の命日まで、その日記は自筆で丁寧に記されている。とても綺麗な楷書を書く人だったが、自筆での最後二日間の字は、若干乱れている。ずっと日記用として使っていた夫の形見のパーカーのボールペンは手に持つのにもう重すぎたのだろう、その二日間は軽いフェルトペンで記されている。その後、死の四日前の十八日まで、娘に口述筆記させ、日記を継続している。
 その最後の日記に記されているのは、主治医の往診、介護用ベッドの搬入、娘婿の来訪、見舞客五名の名前、友人が持参してくれた自作のブリザードフラワーについて「素敵!」、排便・排尿の記録。「おむつ着用」、この一言で日記は途切れている。







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