内的自己対話-川の畔のささめごと

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日本は「敗レテ目覚メ」たか、「救ワレ」たか ― 吉田満『戦艦大和ノ最期』より

2023-12-05 07:41:29 | 読游摘録

 島薗進氏の『日本人の死生観を読む』(朝日選書、2012年)は、「無残な死を超えて」と題された第5章で『戦艦大和ノ最期』の著者吉田満の死生観について詳しく論じている。そのなかに、沖縄特攻作戦をめぐっての艦上での将校間の激しい議論を最終的に治めた臼淵磐大尉の言葉に言及した節がある。『戦艦大和ノ最後』のなかの臼淵大尉の言葉については、鶴見俊輔も講談社文芸文庫版『戦艦大和ノ最期』(1994年)の解説で詳しく言及している。
 私自身、大尉の言葉を初めて読んだとき、胸を強く突かれた。『戦艦大和ノ最期』の当該の一節をその前後を含めて引用する。

痛烈ナル必敗論議ヲ傍ラニ、哨戒長臼淵大尉(一次室長、ケップガン)、薄暮ノ洋上ニ眼鏡ヲ向ケシママ低ク囁ク如ク言ウ
「進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ 負ケテ目ザメルコトガ最上ノ道ダ
日本ハ進歩トイフコトヲ軽ンジ過ギタ 私的ナ潔癖ヤ徳義ニコダワッテ、本当ノ進歩ヲ忘レテイタ 敗レテ目覚メル ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ 今目覚メズシテイツ救ワレルカ 俺タチハソノ先導ニナルノダ 日本ノ新生ニサキガケテ散ル マサニ本望ジャナイカ」
彼、臼淵大尉ノ持論ニシテ、マタ連日「ガンルーム」ニ沸騰セル死生談義ノ一応ノ結論成ナリ 敢エテコレニ反駁ヲ加エ得ル者ナシ

 このとき、臼淵大尉は二十一歳であった。彼とて、沖縄特攻作戦が拙劣をきわめた作戦であり、戦果なく全滅の可能性が高いことは重々承知していた。その上での上記の言葉である。彼とともに、この作戦によって三千数百名の若者たちの命が失われた。
 臼淵大尉がそう望んだように、日本はほんとうに「敗レテ目覚メ」たか。ほんとうに「日本ハ救ワレ」たか。今の日本の種々の出来事を見聞きするにつけ、私はこれらの問いに答え得ず、うつむいてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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