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「雨族」 断片3-「究極ペット」Ⅰ~-詳細に!-だらだらと余計な事まで、長く細かく-:kipple

2007-10-05 00:24:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


                「雨族」
     断片3-「究極ペット」Ⅰ~-詳細に!-だらだらと余計な事まで、長く細かく-


自殺しようと思った。

何も起こらない日常への反抗とは何かを起こすことである。
無理矢理にでも日常性俗俗惰性生活からの脱皮を計らねばならない。
そう思っていたが、僕には何も起こせなかった。
ひたすら日常に埋没し、暗い穴のなかにどんどん落ちて行った。
僕は、ずっと憂鬱で、闇に沈んでいたが、ごく親しい人以外の他人には絶対に見破られまいと、のほほんと見えるように振舞った。
そして、ごく親しい人たちを自己を正当化するために攻撃するようになった。

僕は幼い頃、世界は自分の存在によって形態づけられていて、僕が目を閉じてしまえば世界は一瞬にして消滅してしまい、僕は虚空を掴んで苦笑いをしているんだと本気で信じていたんだ。
そして、その頃の純真な僕から、現在の僕、ダンボールから僕の形を切りとって、どろどろした絵の具を、ぶっかけたような惨めな僕に至った。
真っ暗な気持ちだ。真っ黒の僕だ。

闇が今まで明るかった、このアパートのこの部屋の鉄格子入りの窓の外の風景の上に、べったりと藍色のセロハンを貼りつけたように静かにやってきた。
僕の部屋の中は放送が終了した昔のTV画面のように灰色だ。
それは夜でも昼でも変わりようの無い永久に無表情な世界なのだ。
でも僕は今、幸福なのだ。たとえ惨めであれ、僕はコレを求めたのだ。いやバチが当たったと言う方が正確かもしれない。
とにかく自分自身がこうなるように持って行ったのだ。
それは自分の中でどこかで望んでいた事なのだろう。だから望みが叶って幸福だと思うのだ。

光が僕の笑い顔を照らすんだ。月の光だ。
都会だというのに月は薄ぼけていず、くっきりと輪郭を持っていた。
僕は自殺した3人の少女の事を考えた。
自殺した親友の事を考えた。
そして、いよいよ明日の朝、今度は僕が自殺しようと思うんだ。
もともと僕には自殺願望があったのかもしれない。
いや逆で自殺したくないために他人に止めてもらいたい為に自分が自殺を肯定し、いかにも自殺しそうにみせかけていたのかもしれない。

僕が、このアパートに引っ越してきたのは、ついこの間。
2007年8月14日、金曜日。気が狂ったように暑かった。
元々ここは数ヶ月前に死んだ僕の親友のキトン君が借りていた。
窓には鉄格子が嵌っている。
でも、ここは収容所でも重度精神病院でも刑務所でも無い。
窓に鉄格子が嵌っているのには、それなりの訳があるんだ。
要するにキトン君が、この窓の外側にある手摺に紐を結んで飛び降りて首吊り自殺したので、大家のキップルさんが、“もう自殺禁止”ってな意味で嵌めたのだ。
“もう”と言うのは何やら、この窓から飛び降りて首吊り自殺したのは、キトン君が初めてでは無いらしい・・・キトン君の前にも、まだ空き部屋だった、この部屋に、3人の少女が夜中、忍び込み、3人揃って、この窓からぶら下がったらしい・・・どうやら、この部屋は、スゥーっと暗くなっちまったヤツを呼び込み、もともと潜在的にあった死への願望を引き出してしまうらしい・・・そして、それは僕により、確実に実証されたのだ。
魔のスポットというヤツかも知れない。
明日の朝、僕は、死のうと思う。
ここ数日、暗い想念が思いっきり膨らみ続き、もう、どうにも止まらない。
僕は明日の朝、死ぬ事にした。

このアパートの名前は「きっぷる荘」。
築推定40数年なのだが、幾度かリフォームを繰り返し、まあまあ住めるようになっている。
見た目も木造で古臭さは否めないが一応部分的に鉄筋コンクリで補強してたり、何度も薄青のペンキを重ね塗りしてあったり努力のあとは伺える。
大家のキップルさんが最近がんばってデジタル時代の若者のためにと各部屋にケーブルを引き込んでくれたのでTVもNETも自在だ。
1本引き込んで後はハブで複数の部屋に分けてLAN接続でもすればよいと思うのだが、大家のキップルさんは、そういう事は知らないみたいだ。
大家のキップルさんは“1人、1人、1本、1本”と言って、こだわりを見せる。
もしかしたら実は知っていて1人につき1本のケーブル、否、1部屋に1本という事に何か意味があるのかもしれない。
でも僕には関係ないことだ。
それは大家のキップルさんの勝手だから。
それによって家賃が高くなるとか、そういう問題があるんなら別だけど。
ここは格安なんだ。
敷金も礼金も無しで、今月分から月の末日に現金で大家のキップルさんに渡せばよい。

アパートは3階建てで部屋は全部で10ある。
1階ごとに3部屋づつあって残りの1部屋は屋上に大家のキップルさんがシュールなダリの絵みたいな小屋を鉄板や廃材を駆使して作って1人で住んでいる。
変わり者だな。
で、僕の部屋は202号室、2階の真ん中。
入るとキッチンルームがあって六畳ほどのフローリングで、その奥が八畳の日本間畳敷きに続き、襖を開けると六畳の薄青の絨毯敷きとなる。
絨毯敷きの部屋が鉄格子の窓のある部屋で突き当たり、細長い構造だが横にトイレとユニットバスが付いている。
古いくせに何だか無理矢理なんだ。
大家のキップルさんの性格からすると、ケーブルの引き込みのように、あとから付け足し付け足しを繰り返しているに違いない。
ちなみに空き室は無い。
けっこう、こういう古いヘンテコなアパートに住むのが御洒落だという輩が居るのだから世の中不思議なものだ。この時代に。

おっと言っておかなけりゃ、いけない。
僕は引っ越してきたのは1人だが、1人で住んでいるわけじゃない。
ある女性と一緒に、この暑い夏を過ごしている。
ある女性というのは、元々、ここに死んだキトン君と一緒に住んでいたキトン君の姉のナオだ。
ナオは風俗で一生懸命に白い体操着にブルマの女子高生の仕事をしている。
ちなみに僕はプータローでキトン君もバイトは時々してたが、まあプータローだった。
僕は死んだキトン君の親友だったので何度も、ここを訪れた。
当然、何度かキトン君の姉であるナオと顔をあわせたわけだ。

おっと、もう1つ言っておかなけりゃ、いけない。
僕たちは人間ではない。
幽霊だ。
え?っと思う?しょうがないから当たり前の事を簡単に説明しておかなきゃな。
僕は親切だから。
幽霊ってのは人間より上位の世界の存在なんだ。
だから僕たち幽霊のやる事為す事、また姿や音や匂いや気配やらなんでもかんでも人間たちは絶対に知覚できない。
逆に僕たち幽霊サイドからは、人間たちのやること為す事は全部お見通しだ。
それが上位って事だ。
たまに人間の中に幽霊を見たとか写真に写ったとか感じたとか言ってる人がいるけど全部、ウソだと思う。
絶対に人間には幽霊の存在を認識できないんだ。
それこそ奇跡でも起こらなきゃ人間が幽霊を見たり感じたりできるわけが無い。
1次元の存在は2次元の存在を感知できないし2次元の存在は3次元の存在を絶対に感知できない、絶対の法則だ。
逆に3次元の存在は1次元も2次元も認識できる、そういう事だ。
知らないだろうから、いっちょうもう1つ親切心で言っておくと、人間が死ぬと僕たち幽霊になる。
すなわち上位の世界に移行するんだ。
じゃあ僕たち、幽霊の世界の上位は?幽霊が死んだら何になるかって?知るわけないじゃん。
だってそれが僕らより上位の世界なら分かる訳は無い。絶対。

え?幽霊は死なないだろって?あー頭が固いと言うか。
幽霊だって死にます。ちゃんとね。
キトン君は死んだんだ。
幽霊が死ぬと何になるかは分からないけどね。
とにかく僕はちゃんと幽霊として生きている。
大家のキップルさんもね。
言っておくけど、人間の世界から、ここのアパートは見えないよ。
幽霊の世界からは人間の世界の諸々は全部見えるけどね。
どういうふうにって?ま、大口叩いたけど、実際はよくわからないよ、立体的な外郭だけしかね。
じゃぁ3次元の世界の人間が2次元の世界の存在や1次元の世界の存在をちゃんと説明できる?
点や線はちゃんと認識出きるけど、その世界の中まで入って中の存在を確認するなんてのは無理だろ?
超微粒子を物凄い高倍率の電子顕微鏡で見たって3次元は干渉してきちゃうからよくわからないんだよ、そんな感じだ。

とにかく僕は幽霊で僕の世界は幽霊の世界で人間の世界の上位にある。
人間の世界は3次元の世界から点や線を認識できるようには、諸々の外郭だけは全部見えてるわけだけど、実は幽霊の世界が干渉してきて、よく分からないので僕が死ぬ前に誰だったとか、そーいう細かい事はよく分からない、OK?だめ?
じゃ何故、人間が幽霊を見たとか言うのを知ってるかって?わかるんだよ!1次元とか2次元とかってのは例えだよ。
基本的に話が違うんだ。
いいかい?じゃあ面倒くさいけど説明すると、こうね、ぐっと頭の芯を凝らすと重なって見えるんだよ。
ぐっと頭の芯を凝らすと重なって聞こえるんだよ。
人間たちの世界の諸々がね。
薄ボンヤリと。
もっともっと頭の芯をぐっと凝らすと、ハッキリ見えてくるけど誰もそんなこと重要じゃ無いし、気にしないから、ようやんないけど。
はっきり言っておくよ。
とにかく、僕たちは幽霊で、この世界は幽霊の世界で、人間の世界は僕たち幽霊の世界の下位の世界だから、人間の世界からは僕たち幽霊の世界は、どうやったって見えない、聞こえない、感じれない。

僕たち幽霊と人間の世界の違いの話はこれで、もう止めだ。
この話は、幽霊の世界の話なんだからね。
え?幽霊なのに1人とか言うのは、おかしいって?1幽って言えっていうのかい?いくらなんでも、そりゃないぜ。
死んだ人なんだから1人とか2人とかでいいのだ。
で、最後に言っておくが幽霊の世界と人間の世界は上位と下位の差だけで他はいっさい変わらない、人間が死ぬと幽霊になって、この上位世界に来て幽霊となって生きる。
僕らはミンナ生きていて地球は回っていて空は青くて夜は暗い。
もう質問は無しだ。

とにかく、僕は、明日の朝に死ぬ事にしたんだ。

「実はね、この部屋には出るんだよ。死んだ幽霊が化けてでるんだぁぁぁああ~!ヒュ~ドロドロ~!いっひっひぃぃいい~っ!」
と、大家のキップルさんは、笑いながら本当にマジに怖い事をいう。





断片3     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)



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