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「雨族」
断片78- 化石の夢-①
どこにもない時間、どこにもない国、どこにもいない人々
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どうせ、はじまりも、おわりもない。だから、はじまりとおわりを切り取って作るんだ
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いつか、どこかで、いつでもなく、どこでもなく、化石は夢を見ていた
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化石の夢は、虹の粉の舞う夜明けのメリーゴーランドみたいに、ぐるぐる始まりも終わりもなく、回り続けていた
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誰でもない者が、パッと引っつかんで千切りとった化石の夢は、こんなものでした
充分、生きた。
そうエスペラントが思ったのは、30才を過ぎてから、28時間後だった。
細かい放射性物質の舞う、暑い夏の昼下がりだ。
空には輪郭が緑がかった赤い太陽が、ふらふらふらふら上下左右に位置を決めかねており、青や黄色に輝く星々も、少し動揺して、ゆれ動いていた。
エスペラントは断崖に建立された35万階建て住居の27万6千7百541階のバルコニーから海を見下ろしながら、そう思った。
そう思うには、やはり、それなりの理由というものがあった。
簡単に言えば、エスペラントには、もうやりたい事が何ひとつ無くなってしまったのだ。
エスペラントは、ぶつくさと、居間でうたた寝をしている友人のロゴスに向かって、誰に言うとでもなく、ジッと夕陽を見つめながら、つぶやいた。
「僕の30年間は、とても不完全なものだったさ。もっとも完全に不完全だったとは言えまいがね。
とても不完全だったと感じる事は、とても苦しかったと感じる事に等しいよ。
他の誰かさんの事は知らないが、少なくとも僕にとってはね。
ああ、もう充分だと思える程、不完全にやりたい事は全てやりつくしてしまったよ。
や~れやれ。
もう何にも、やりたい事なんてないや 」
「何をやったんだって?俺には、エスペラント、お前が何かをやったなんてのを一度も見た覚えがないけどな」
と、籐の揺り椅子で、ゆらゆらマリファナを燻らしている、いかめし顔に膨れ上がったロゴスが突然言い放ったので、エスペラントは驚いた。
「やあ、ロゴス。聴こえたかい」
「ちゃんとね。さあ、君は何をやりつくしたってのか、聞かせてくれよ」
エスペラントは宙吊りになったバルコニーから降りてきて、ゴムの木でいっぱいの居間に入って行った。背中には、海の金色のかけらが映っていた。
彼は、ゴムの木の林をくぐり抜けて、ロゴスの近くの黒曜石のテーブルの上に座り込んだ。
そして、考え深げに、エスペラントは身体をまるめて頬杖をつき、両耳をひくひく動かした。
それを見て、ロゴスは
「ほう。しぶってるな。問題ありか?」
と細目にして聞いた。
「いや。話してやるさ。僕の30年間に訪れ、通り過ぎていった、どろんとした不完全な出来事の全てを。
いいかい。
僕は、やりたい事を全て不完全に通過しちゃったんだよ。
そこんとこを、その膨らんだ頭でちゃんと認識しておいてから聞いてくれよ。
そして、これから、僕は静かに余生をおくるんだからね 」
と言って、エスペラントは無限記号の腕組みをして、金だらいに両足を突っ込んだ。
かくして、エスペラントの、その不完全にやりたい事を全てやったという 30年間の、お話がはじまった。
まるで、オンボロの8ミリ映写機が映し出すように、雨降りで、ブレたり、音が消えたり、セルロイドが燃えはじめたり、して、とつとつと、いっきに、乱暴に、30年間は語られた。
語られた30年間は、やはり、ちぐはぐで、ど~しようもなく完成不能のジグゾーパズルみたいに描かれていった。
ズザザザザザザザザザザザー!
断片78 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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