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「雨族」 断片78-化石の夢-①:kipple

2011-04-01 19:44:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片78- 化石の夢-①

どこにもない時間、どこにもない国、どこにもいない人々
   ↓
どうせ、はじまりも、おわりもない。だから、はじまりとおわりを切り取って作るんだ
   ↓
いつか、どこかで、いつでもなく、どこでもなく、化石は夢を見ていた
   ↓
化石の夢は、虹の粉の舞う夜明けのメリーゴーランドみたいに、ぐるぐる始まりも終わりもなく、回り続けていた
   ↓
誰でもない者が、パッと引っつかんで千切りとった化石の夢は、こんなものでした


充分、生きた。

そうエスペラントが思ったのは、30才を過ぎてから、28時間後だった。

細かい放射性物質の舞う、暑い夏の昼下がりだ。

空には輪郭が緑がかった赤い太陽が、ふらふらふらふら上下左右に位置を決めかねており、青や黄色に輝く星々も、少し動揺して、ゆれ動いていた。

エスペラントは断崖に建立された35万階建て住居の27万6千7百541階のバルコニーから海を見下ろしながら、そう思った。

そう思うには、やはり、それなりの理由というものがあった。

簡単に言えば、エスペラントには、もうやりたい事が何ひとつ無くなってしまったのだ。

エスペラントは、ぶつくさと、居間でうたた寝をしている友人のロゴスに向かって、誰に言うとでもなく、ジッと夕陽を見つめながら、つぶやいた。

「僕の30年間は、とても不完全なものだったさ。もっとも完全に不完全だったとは言えまいがね。

 とても不完全だったと感じる事は、とても苦しかったと感じる事に等しいよ。

 他の誰かさんの事は知らないが、少なくとも僕にとってはね。

 ああ、もう充分だと思える程、不完全にやりたい事は全てやりつくしてしまったよ。

 や~れやれ。

 もう何にも、やりたい事なんてないや 」


「何をやったんだって?俺には、エスペラント、お前が何かをやったなんてのを一度も見た覚えがないけどな」

と、籐の揺り椅子で、ゆらゆらマリファナを燻らしている、いかめし顔に膨れ上がったロゴスが突然言い放ったので、エスペラントは驚いた。

「やあ、ロゴス。聴こえたかい」

「ちゃんとね。さあ、君は何をやりつくしたってのか、聞かせてくれよ」

エスペラントは宙吊りになったバルコニーから降りてきて、ゴムの木でいっぱいの居間に入って行った。背中には、海の金色のかけらが映っていた。

彼は、ゴムの木の林をくぐり抜けて、ロゴスの近くの黒曜石のテーブルの上に座り込んだ。

そして、考え深げに、エスペラントは身体をまるめて頬杖をつき、両耳をひくひく動かした。

それを見て、ロゴスは

「ほう。しぶってるな。問題ありか?」

と細目にして聞いた。

「いや。話してやるさ。僕の30年間に訪れ、通り過ぎていった、どろんとした不完全な出来事の全てを。

 いいかい。

 僕は、やりたい事を全て不完全に通過しちゃったんだよ。

 そこんとこを、その膨らんだ頭でちゃんと認識しておいてから聞いてくれよ。

 そして、これから、僕は静かに余生をおくるんだからね 」

と言って、エスペラントは無限記号の腕組みをして、金だらいに両足を突っ込んだ。

かくして、エスペラントの、その不完全にやりたい事を全てやったという 30年間の、お話がはじまった。

まるで、オンボロの8ミリ映写機が映し出すように、雨降りで、ブレたり、音が消えたり、セルロイドが燃えはじめたり、して、とつとつと、いっきに、乱暴に、30年間は語られた。

語られた30年間は、やはり、ちぐはぐで、ど~しようもなく完成不能のジグゾーパズルみたいに描かれていった。



ズザザザザザザザザザザザー!




断片78     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)



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