元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

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「冷たいようだが、マリー」:kipple

2010-11-01 00:44:00 | kipple小説

冷たいようだが、マリー


冷たいようだが、マリー

戻って来ても何も無いよ だから戻ってこない方がいいよ

冷たいようだが、マリー

そのまま時空を彷徨っていなよ たぶん誰も君を覚えてないよ

君と僕が好きだったモノは、全部無くなっちゃったよ

新宿のカトレアも、色つきの火が出るマッチも、もうとっくに無いし

冷たいようだが、マリー

戻ってきてほしくないんだ だって僕はもう50過ぎてんだ

君はまだ、18才のまんまだろうし あれから、もう32年

かつての友人たちもとっくにバラバラさ 皆、自分の人生を生きるのに必死さ

冷たいようだが、マリー

戻ってこない方がいい 君のご両親、死んじゃってるし


1978年、夏 君は言ってたね

“昔の東京に戻らないかなぁ~、夕暮れの公園に紙芝居屋さんがいた頃に
 子供の頃の夕陽ってさ、もっとずっと濃くて、もっとずっと心に染みたよね”

2010年、夏 君の好きだったモノは何一つ無くなった

でも、僕は相変わらず、バカだからね ひょっこりと、君が戻ってくるような気がしてね

毎日毎日そんな気がしてね 気づけば世界はすっかり変わって 50過ぎのオッサンだ


冷たいようだが、マリー

戻ってきても僕しか待ってない 薄汚い50過ぎの僕しか

冷たいようだが、マリー

戻って来ないでくれ! たぶん君は32年間待ってた僕なんか相手にしない

こんな薄汚い50過ぎの僕なんか嫌に決ってる

君は、このすっかり変わった世界にすぐに馴染んで大好きになり

若い奴と恋に落ち 18才のまんまの感性できっと見た事も無い今の世界を謳歌する

そうだ そうに決まってる だから

冷たいようだが、マリー

戻ってくるな! もし戻ってくるのなら、僕を殺してくれないか?

2人で暮して、2人で遊ぶのはもう無理だから、僕を殺してくれないか?



1978年 夏 大学の記念塔の天辺に君と僕は上った

ビールを飲みながらどんどん上って、2人ともウルトラに御機嫌だった

天辺に着くと君は窓を大きく開けて言った

“あたしたちは自由なんだからぁ!ほぅら!空だって飛べるわ!”

そして、君は本当に窓から身を乗り出して空を飛んだ

アッと言う間だった 君は一瞬、夕暮れの空に舞い上がり スゥーっと落ちて行った

僕は今でもハッキリと覚えている

君が飛ぶ時に振り返って僕に向けたクシャっとした感じの笑顔を

余りにも明るく眩しく輝いていた、あのリアル天使のような笑顔を

忘れられないんだ 僕は死ぬまで忘れられないんだ

いとおしくて いとおしくて あの時の笑顔の君をギュッと抱きしめたくて

あの頃のようにギュッと抱きしめたくて あの頃のように

マリー 君の死体は見つからなかった



冷たいようだが、マリー! 冷たいようだが、マリー!

あの記念塔の天辺から落ちて 助かるはずはない 死んでくれ

僕と一緒に死んでくれ!


君が落ちて行った、あの大学の記念塔はとっくに解体され他の場所に新築された

32年前の大学の記念塔の跡は、今はただのさら地

僕は衰弱しきった身体をズルズルと引き摺ってやってきたんだよ

かつて、君が飛び降りた大学の記念塔のあった、このさら地に

僕はやっと分かったんだ やっと分かったんだよ 君のクシャッとした笑顔の暗号が

その意味が そのシグナルをやっと摑んだ 32年後の今さっき

僕は君が消えた後の世界が大嫌いで 32年後に限界がきて、もう耐えられない

さあ、マリー やってくれ


僕が、信じられない程、あの時とそっくりな夕暮れ空を見上げると

ピカッと何かが空中で光った   マリー!

ああ!マリーだ!マリーが空中から飛び出して物凄いスピードで落ちて来る

あの時の18才のまんまだ!あの余りにも明るく眩しく輝いていた笑顔のマリーだ

マリー!外すなよ!ここだ!そうそう僕にそのまま激突してくれ!

マリーは僕に向かって落ちてきて、猛スピードの中、溢れんばかりの笑顔で両腕を広げ

僕も、いとおしくて いとおしくて 視界はどんどん 涙とマリーの笑顔でいっぱい

さあ、おいでマリー! と、両腕を広げ あの頃のように  ギュっと抱きしめ合った


グシャ!



マリーと僕の顔は激突し、一瞬にして、2人の首の骨は折れ、身体も潰れ、内臓も混じり合い、血まみれで、クシャクシャで
2人の視界は、どくどくと勢いよく流れ出す血に染まり

血も混じりあい、骨も絡み合い、そうして、2人で死に際に、2人の血で染まった夕暮れ空を見た

“ほら、マリー!見てごらん!僕らが子供の頃の夕暮れ空に戻ったよ!”

“ほんとだー!赤がずっと濃くて、子供の頃の夕暮れの公園みたいね!やったぁっ!”

“マリー!実はさ、俺、子供の頃、紙芝居屋さんになりたかったんだぁ”

“いいじゃぁ~ん!一緒にやろうよ!リアカーひいて!”

“なぁマリー、俺さ、駄菓子を買わない子供にあっち行けとか絶対に言わないんだ!ちゃんと駄菓子を買わない子供にも最初から最後まで紙芝居をみせてやるんだ!”

“じゃさ!kippleは紙芝居に専念して!あたし、駄菓子売るから!ソース煎餅は20枚重ねで、たぁ~っぷりとソース塗っちゃうわよ!5円でいいわよね!”

“おう!いいとも!”

“それに、おふはやっぱりチクロ入りの紫のおふよね!2本で5円!”

“当然!”

“あー、何だか楽しくなってきた!やろやろ!紙芝居屋さん!今すぐにやろ!”

“なぁ、マリー!俺の一番やりたい紙芝居って何だか分かる?”

“そりゃぁー分かるわよ!「黄金バット」でしょー?”

“当ったりぃ~!!” 





                 HAPPY END


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)



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