ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代
「雨族」
断片45-園の内側、赤い空
1.ポルターガイスト
『うすら寒い』
・・・
「爽快です。」
洪水の様に押し寄せる光の向こうのどこかから、はっきりと声が聞こえた。
あまりにも厖大な光量のために私は自分が立っている場所を正確に見定める事ができなかった。
それより、いったい、私は立っているのか、それとも寝そべっているのか、それさえも正確に把握する事ができなかった。
「爽快です。」
再び、パッサリとキャベツを真っぷたつにするような切れ味の良い声がした。
私は質問してみた。
「質問に答えてくれるかい。」
この質問は相手にある程度の動揺を与えたようだった。
それが、どんな種類のどんな形の動揺だったかは、まったく分からない。
とにかく相手は何かの狙いを外されて、戸惑いを見せた。
それというのも、圧倒的な光の中にポッカリと古い井戸のような穴が口を開けたのだ。
穴は斜め右前方に突如として姿をあらわした。
それと同時に大量の光は、ドクンドクンと脈打った。
私はなんとなく私の姿勢が分かってきた。
私は、うつ伏せになって光の床に寝そべった形で光に包まれていたのだ、たぶん。
私は穴をよく観察した。
穴は、ちょうど私が通り抜けるのに必要なだけの広さを有していた。
そして、よく分からないが、どうやら穴の向こうは海のようだった。
穴いっぱいに、さざ波をたてている海面のようなものが見えるのだ。
しかし、いったい海面は、その穴から、どのくらいの距離をもって隔てられているのか、私にはまるきり分からなかった。
穴に密着しているようにも見えるし、何100メートルも離れているような気もするのだ。
そこで私は、時折、白く光るさざ波の大きさに注目してみる事にした。
しかし、それも、あまり私の観察に役立たなかった。
穴いっぱいに現れるさざ波もあれば、目に見えぬ程、小さなものもあるのだ。
私は、幼い頃に見たランプの灯を思い出した。
夕暮れから薄闇をへて、夜に至るまで、祖父の家の軒先に吊るされたランプの灯は、小さくなったり大きくなったりした。
子供の頃の私には、時の変遷と、人間によってともされた「作られた光」に対する不定形な錯覚に、異様な程の幻想性を感じさせられたのだ。
さて、私のする事といえば、もうひとつしかなかった。
その穴に身を投じるのだ。
「爽快です。」
また、あの声がした。
私は、こう言って、オルフェが鏡に飛び込むように穴に入った。
『「プラーグの大学生」という映画を観たことがあるか?』
断片45 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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