木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

得られる利益と立法目的

2013-01-16 17:03:14 | Q&A 憲法判断の方法
Fさまからご質問いただきました。

「目的」と「得られる利益」 (F)

はじめまして、学部生のFと申します。
『急所』の明快な論理とユーモラスな具体例に、いつも心躍らせております。

さて、比例原則でいう目的の正当性の「目的」と、
狭義の比例性の「得られる利益」は同じですか?それとも異なりますか?

私はこれまで、「目的」とは「都市の美観風致」や「国民経済の発展」など
抽象的な目標をさし、「得られる利益」とは「歌舞伎町において
ビラ貼りを禁止することによって歌舞伎町からビラがなくなり、
その結果これだけ綺麗になった」など具体的な結果をさすから、
両者は全くことなると考えていました。

ところが、『急所』p16では、厳格審査では「目的の正当性」審査は
「狭義の比例性」審査に吸収され、「目的の重要性」という基準を満たせばよい、
とあります。上述の私の理解のとおりであれば、
抽象的な目的が人権の価値を上回っていても、
狭義の比例性を満たさないことがありうるはずです
(例えば、抽象的な美観風致が10000ポイント、
営利的表現の自由が5000ポイントとして、
歌舞伎町のビラをなくしても1000ポイントぐらいしか綺麗にならないとするなら、
目的は重要だが得られる利益は失われる利益よりも少ないはずです)。

従いまして、「目的の正当性+狭義の比例性→目的の重要性」という定式が
成り立つのは、「目的」と「得られる利益」が
まったく同一概念だからではないかと考えるようになりました。

しかし、目的審査で「歌舞伎町を1000ポイント綺麗にすることは~」などと
具体的に論じているものは見たことがありませんし、
狭義の比例性審査で「美観風致という利益は~」と論じては
利益衡量があまりにアバウトになると思われます。

このような引っ掛かりを覚えるのは、
私がどこかで概念的な誤解をしているためだと思われ恐縮なのですが、
宜しければご教授願います。



確かにおっしゃる問題は、かなりテクニカルで難しいです。


まず、最初のポイントですが、
狭義の比例性に言う
「得られる利益」は、
「立法目的」と同義とされ、

比例原則の天秤にのっけて良いのは、
立法目的として構成できるものに限られ、

付随的・偶然的利益は参入してはならないとされます。

例えば、この窃盗犯は、未解決の殺人事件の真犯人なので
こいつを処罰すると、殺人罪の処罰にもなる、というようなことを
比例原則で「得られる利益」にカウントしてはならないのです。
(あくまで窃盗としての重大性が問題になる)

次に、歌舞伎町の事例ですが、
違憲審査の枠組みでは、
①「町を1000ポイントきれいにする」という目的と
②「町を10000ポイントきれいにする」という目的は
異質な目的だと評価されます。
(追及程度が違うと、違う目的審査になる)

この場合、まず、
この規制が②目的だとしたら、確かに
京都の伝統的風致地区の規制とは関連性があるが、
歌舞伎町の規制については関連性がなく、
他方、①目的だとしたら、歌舞伎町の規制とも関連性があるが、
こちらはさほど重要な目的とは言い難いと評価する、
といった感じになります。

このように、追及程度が違うと異質な目的となる
というのが違憲審査基準論での重要なテクニックです。

このあたりは昨年、司法試験の問題を素材にみっちり書いたとこなので、
昨年1月の記事をごらんになってみてください。

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2 コメント

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Unknown (F)
2013-01-17 13:30:55
なるほど、たいへんよくわかりました。
昨年の記事も拝見し、さらに比例原則と違憲審査基準の関係性の理解が深まりました。

ありがとうございました!
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>Fさま (kimkimlr)
2013-01-20 07:34:17
どうもありがとうございます。
がんばってください。
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