ごっとさんのブログ

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祝 大村先生ノーベル賞受賞 続々

2015-10-22 10:26:41 | 時事
前回大村先生が土壌から分離した、放線菌の生産物としてアベルメクチンを見出し、これが線虫に対して良い活性を持つことから、アメリカメルク社において化学修飾し、イベルメクチンが生まれたことを書きました。

当社がアベルメクチンを生産するという話がありましたので、実際にこの化合物がどんなものかサンプルをもらって調べてみました。他のマクロライド類と同じように、非常に脂溶性(油に溶ける性質)が高く、水には全く溶けません。分子内にいろいろな官能基がありますので、化学修飾には向いている化合物ですが、やや酸に弱い性質を持っていました。たぶんこのあたりの安定性を増したのが、イベルメクチンのようです。

当初イベルメクチンは、牛の線虫感染症治療薬として開発されました。アメリカは酪農大国ですが、この多数の牛が線虫に感染し、最悪の場合死亡するというのが問題になっていました。この特効薬となったのですが、メルク社の開発方針は素晴らしいものでした。前述のようにこの薬は油に溶けやすい性質を持っていますので、経口剤つまり飲み薬は簡単にできます。しかし多数の牛に飲ませていくことは、いろいろ問題が多いようでした。そこであえて経口薬ではなく、注射薬として開発したのです。

このように水にまったく溶けない薬物を、注射剤にするのはかなり難しいことになりますし、イメージとして牛に一頭ずつ注射するのも大変なような気がします。しかし実際はインジェクション(注射)装置ができ、それを並べておく下を牛が歩くだけで、一定量の約液を注入できるというシステムを作りました。この装置のおかげで、何千頭という牛も比較的簡単に摂取できるようになり、イベルメクチンが爆発的に売れたわけです。

その後の研究で、人間の風土病、アフリカなどの河川盲目症にも効果があることがわかり、人への応用が始まったわけです。特にイベルメクチンをWHOを通して、こういった風土病の地域に無償提供したことが、ノーベル賞受賞の重要な要素になったようです。そのほか人のカビによって起きる疥癬にも効果があることがわかってきましたので、そういった方向にも使われるようになりそうです。

しかし私はこの業績のすばらしさは、やはり牛の感染症を治療し、酪農の安定化に貢献したことだと思います。こういった本当に社会の役に立つものを開発した事が、ノーベル賞の対象になったというのは嬉しいことです。私が所属していた財団主催で、先生の受賞祝賀パーティーを開催するように働きかけるつもりですが、まあ難しいかもしれません。