NTTドコモが独自のアプリや携帯電話端末の値下げで反転攻勢をかける。
KDDI(au)やソフトバンクが扱う米アップルのスマートフォン「iPhone」に顧客を奪われ、ドコモの回線乗り換え(MNP)は大幅な転出超が続く。
価格戦略を駆使するほか、翻訳アプリなど新サービスを次々追加し、回復につなげる。
●顧客流出を半減
ドコモは、5月にメールの文面を自動的に翻訳するアプリの提供を始める。
日本語を英語、中国語、韓国語に変換するほか、これらの3言語を日本語に翻訳できる。「変換速度や精度は非常に高い」(ドコモ広報部)と、音声サービス「しゃべってコンシェル」に次ぐ人気アプリに育てる。
現在は運用を中断している通訳電話も6月をメドに再開し、今年度内には対応する言語を従来の英・中・緯の3カ国に加えて仏、伊など計10カ国語に増やす。
こうしたサービスは、いずれもネットワーク経由でシステムを使うクラウドコンピューテイングで、大容量のデータ通信を伴う。
ドコモは現行の第3世代携帯電話(3G)に比べ約5倍の通信速度があるLTE技術を使った高遠携帯電話サービス「Xi(クロッシイ)」を国内で先駆けて連用し、クラウドコンピューティングを活用したアプリを利用しやすい環境下にある。
店頭でのスマートフォンの販売価格も大幅に引き下げる。今まで平均2万-2万5000円だった同社のスマートフォンの平均単価を今年度は実質的に2-6割値引きして1万-1万5000円とする。
スマートフォンの端末料金を実質的に値引きする「月々サポート」の総費用は、2011年度の389億円から12年度は6倍の約2400億円に増える見通し。
ドコモの山田隆持社長は、「今回の値下げでドコモのスマートフォンの平均単価はKDDIやソフトバンクなど他社と同レベルにしたい」と話す。
こうしたアプリの開発や端末の実質的値下げを通じて、ドコモは昨年度約80万件あった他社への顧客流出を半減して40万件程度に抑えたい考え。スマートフォンの販売台数も前年度比47%増の1300万台を目指す。
●激しさ増す競争環境
ただ、通信会社間の競争環境は厳しさを増している。
KDDIは3月から固定通信サービスとセットで契約した場合にスマートフォンの通信料を1480円割り引くサービスを始めたほか、ソフトバンクは今秋にLTEを使ったスマートフォン向けデータ通信サービスを始める。
また、ドコモの顧客流出の原因となったiPhoneの販売力は依然として大きく「来店客のほとんどが最初にiPhoneに関心を示す」(都内携帯電話販売店)との声があるほど。
ドコモは13年3月期の連結純利益を前期比20%増の5570億円、売上高は5%増の4兆4500億円と増収増益を見込んでいる。iPhoneに対抗できる製品・サービス群をどれだけ投入できるかに成否がかかっている。
【記事引用】 「日刊工業新聞/2012年5月2日(水)/3面」