カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第十話  新妻の敵

2008-09-14 16:11:20 | Weblog
作久間浪之助率いる三津林達の部隊は、武田軍が包囲した堀枝城の南側にいた。
「三津林君、この城は、すぐに落ちるだろうな。」
「なぜそう思いますか?渡名部さん。」
「ここの城主は、気が小さいんだ。」
「本当ですか?」
「たぶん・・・。」
丘の上の木の陰に隠れて三津林と渡名部は、遠くに見える堀枝城周辺の戦況を眺めていた。
「三津林とやら、武田はこれからどうすると思う?」
作久間浪之助だった。
「これは作久間様。私のような者がお答えすべきことでしょうか?」
「家康様から、御主は予見が出来ると聞いておる。考えを言ってみよ。」
「はい、武田の本隊は刑部ですので、ここが落ちれば合流して三河へ向かうでしょう。」
「三河の何処じゃ?」
「野駄城でしょう。」
三津林は、自分の日本史の知識から答えを出した。
「そうか、ならば先回りをして奇襲を掛けよう。味方ヶ原の仕返しをしてやるぞ!」
「は、はい!」
三津林と渡名部は、作久間について行った。



浜奈城下の足軽長屋では、愛美が近所の女達と話をしていた。
「愛美さん、判らないことがあったら聞いてちょうだい。」
隣の足軽茂助の妻、およねが言った。
「ありがとうございます。」
「これ食べてちょうだい、今は食べ物も少ないから。」
団子のようなものを渡してくれたのは、向う隣の長屋に住むお初だった。
「ありがとうございます。」
戦国時代の生活に慣れていない愛美にとっては、ありがたい世話を焼かれていた。
その光景を長屋の外れの陰から見ていた女がいた。
「ちょっと、待ちなさい。」
その女は、通り掛かった長屋の女に声を掛けた。
「あっ、お良様。」
長屋の女は、驚いたように立ち止まった。
「あの女は?」
「あ、はい、あの娘は、新しく長屋に来た三津林と言う足軽さんの嫁御で、愛美と言います。気さくで可愛くていい娘ですよ。」
お良は、キッと長屋の女を睨んだ。
「あら、そう。まだ私の所には、挨拶が無いわね。」
「あ、あの、まだ来たばかりで何も判らないみたいで・・・。」
「ふん!」
そのままお良は立ち去った。そして長屋の女は、顔を青くして愛美たちの所へ走って行った。
「ちょっと、ちょっと大変よ!」
「どうしたの?お富さん。」
「今、あそこでお良様にあったの。それで愛美さんのこと聞かれて、私には挨拶が無いって帰って行ったわよ。」
およね達は、不安げな顔をした。
「どうしたんですか?お良様って・・・?」
「お良様っていうのは、足軽大将の奥方様で・・・それが・・・。」
およねは、言葉に詰まった。
「どうしたんですか?」
「あのね、お良様って、あなたのような綺麗で可愛い娘をとても目の仇にするの。ご自分より目立つ女は許せないって性分なのね。」
「そうよ、出来る限りお気に触らないようにしなさいね。」
そう言うと、およね達はそそくさと帰って行った。



日が暮れかかってきた頃、愛美は長屋に一人で食事の支度をしていた。
板間に貰った団子のようなものを木の器に載せて置き、土間で火を焚き鍋で湯を沸かしていた。
「こんな葉っぱみたいなのしかないわ・・。」
その時扉が開いた。
「どちら様ですか?」
「足軽大将阿下隆作の妻お良よ、よろしくね。」
「あっ、はっ、はい、私は、三津林慶大の妻、愛美と申します。よろしくお願いします。」
皆が噂していたお良だったので、愛美も驚いた。
「あら、丁度夕げの支度してたのね。良かったらこれ食べてちょうだい、山で採ってきた茸なの美味しいわよ。」
お良は、持ってきた包みから茸を出し、愛美に渡した。
「今度は、私の屋敷にお寄りなさい。それじゃ・・・。」
「あ、ありがとうございます。」
お良はそれだけで出て行った。
皆が言うよりいい人じゃない・・と愛美は思ってしまった。
愛美は、さっそく貰った茸を千切って鍋の中に入れた。
「松茸かな?」なんて思いながらお椀に茸野菜汁を入れ、板間に上がり座った。
「先生、あっ、あなた、お先に頂きます。」
手を合わせてから団子を頬張った。
「うん、美味しい!」
続けてお椀の汁をキノコと一緒に一口飲んだ。
「ううん、イマイチかな・・・。」
少し経った時だった。
「ううううっ!」
突然、お腹に激痛が走り、目の前が暗くなり、愛美はお腹を押さえて這いつくばった。
「おうえええっ!」
愛美の顔は苦痛で歪み、勢いよく胃の中のものを吐き出した。
「ううっ、苦、しい・・・。だ、誰か・・・。」
外へ出ようと板間を進もうとしたが、手足が痺れて動かない。
「あ、あなた、た、たすけ・・・。」
もう声も出なくなり、身体は震え、意識も薄れ始め、伸ばした右手だけが、助けを求めていた。
「愛美、ご飯食べよ!」
勢いよく扉を開けて入って来たのはさゆみだった。しかし板間の光景を見て驚愕し、持っていた包みを土間に落とした。
「あ、愛美っ!」
慌てて板間に上がり、愛美の上半身を自分の膝の上に抱き上げた。
「どうしたの、しっかりして、愛美っ!」
身体を震わせ、白目を剥いてしまっている愛美を見て、さゆみは思わず涙を流した。
「だ、誰か来てええっ!」
さゆみが叫ぶとしばらくして人が来た。
「どうしたの?」
およねだった。
「おい、どうした!」
続けておよねの夫武三が入って来た。
「あ、愛美が死んじゃう!」
およねと武三も、愛美の所へ駆け寄った。
「いったい、どうしたんだ?」
「私も判らない、ここへ来たら愛美が倒れてたの・・。」
「あんた、これっ!」
およねが、汁がこぼれているお椀の中を指した。
「毒茸だ!」
「ええっ、嘘っ、愛美が死んじゃう!」
「全部吐かせよう!水、水だ!」
武三は、外へ出て行き、入れ替わりにお初が入って来た。
「どうしたの?・・あっ、愛美さん!」
「毒キノコ食べちゃったみたいなの!」
「どうして毒茸があるのよ!愛美さん出かけてないのに・・・。こんなの山に行かなきゃ無いはずでしょ!」
武三が、水を入れた桶を抱えて帰って来た。
「飲ませるぞ!口を開けろ!」
さゆみに代わって武三が愛美を抱え、およねが愛美の口を両手で開いた。そこへお椀に汲んだ水を何杯も無理矢理流し込んだ。
「ぶうぉへっ!、ぐえへっ!」
「そうだ、吐け!吐くんだ!」
愛美が吐くたびに、また水を口へ流し込んだ。しかし意識は戻ってこない。
「ここじゃ、寝かせられない。榊原様のお屋敷へ連れて行こう。」
「うん、それがいいわ、薬もあるし・・。」
「愛美!死なないで、お願い、愛美!」
武三が愛美を背負って、榊原の屋敷へ急いで運んだ。およね、お初も泣いているさゆみを連れて後を追った。



「放て!」
待ち伏せした崖の上から、武田軍の隊列に向かって、作久間隊の弓足軽達の矢が放たれた。そして武田軍の兵の何人かが倒れた。
「敵だっ!」
三津林達が大きな岩を崖から落とした。一部の隊列が乱れ、怪我をする兵もいた。
「上だ!上にいるぞ、討てえ!」
馬に乗った武将が足軽達に指示をし、矢を放ったり、他の部隊がなだらかな方から崖を駆け上がって来た。
「よし、引けい!」
作久間の号令で、三津林達の作久間隊は、山の反対側へと逃げた。一部の武田兵に追いつかれたが討ち取り、全員無事逃げ切ることが出来た。
武田軍は、それ以上追って来ず、そのまま三河方面へと進んで行った。

再び佐久間隊は、武田軍の最後尾を確認出来る所に潜んでいた。
「渡名部、仔細を城へ伝えて来てくれ。我らは、引き続き武田を追う。」
「はっ。」
渡名部は、伝令として浜奈城へ戻ることになった。
「三津林君、無事なことを愛美ちゃんに伝えてくるよ。」
「ありがとうございます。じゃあ気をつけて。」
「お前もな。」
そんな言葉を交わす二人だったが、勿論城下で、愛美が生死の境をさまよっていることなど知る由もなかった。
                    
                    つづく
               
               ・・この物語は、すべてフィクションです。  

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