カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

「戦国に散る花びら・・・外伝」   第二話  出会いの河原

2009-09-29 14:59:11 | Weblog
奥三河の長信濃城から援軍の要請が家康のもとに届いた。
家康は、さっそく家臣に対して援軍の支度をさせた。
茂助達三津林家の面々も援軍に加わることになり準備をしていた。

「茂助、無事で帰ってきて下さい・・・。」
身重の美有に挨拶に来ていた茂助に、美有が言葉をかけた。
「どうか私の心配などなされず、奥方様は元気な子をお産み下さるよう、ご自分のお身体のことだけお考え下さい。」
美有は、その言葉に下を向いた。
「さっ、お休み下され・・。」
まだ美有は、下を向いたままだ。
「あの方は、帰ってこられますか?」
「勿論でございます。あの方は今まで何度となくこうした事でも無事帰って来られました。・・・さ、お休み下され奥方様。」
茂助は、美有を寝かせ、侍女に美有の身の回りの世話に気を配るよう、改めて指示して支度に戻った。



その頃、長信濃城を取り囲んでいた武田勝余利の陣では、諸将との評定が開かれていた。
「今攻め込めば、尾田の軍勢も間に合わず、簡単に落ちましょうぞ!」
「いや、家康はもう援軍を出しているかもしれぬ!」
「なーに、家康軍ごとき、我山方隊が蹴散らかしましょうぞ!」
「それは、我らの仕事でござる!」
「いや!我ら原隊が先鋒ですぞ、土谷殿!」
武田軍の意気は上がる一方だった。
「お屋形様!」
そこへ数名の兵が、縄で縛った武者を従えてやって来た。
「お屋形様!敵兵を捕らえました!」
「何!敵兵だと!・・・何処でじゃ!」
「長信濃城へ戻ろうとしておりました。」
「そうか、何か伝えようとしておったな!」
「高阪、この者どうしてくれよう?」
勝余利は、参謀の高阪に尋ねた。
「おそらく援軍の使者でしょう。この者に援軍は来ないと伝えさせ、降伏をうながしましょう。」
「うむ、力攻めをして兵を減らすより良いだろう・・・。」
「はい、それではこの男を城から良く見える河原にはりつけにしましょう。」
一同は評定を終え、支度に向かった。



家康本隊は、尾田軍と合流するため、奥浜奈から南側を通って三河に入った。
茂助達の加わった先発隊は、奥浜奈の北側から三河に入り、ひそかに長信濃へ向かった。
「大窪様、我ら数名で武田方の部隊位置を調べて来ましょう。」
「そうしてくれるか、本隊が尾田様と着陣するまでに良い場所を知らせたい。」
先発隊の将、大窪貞竹は家臣の草野匡次に偵察を委ねた。
匡次と数名が月夜の中、潜んでいた山を下りて行った。その中に茂助もいた。

長信濃城は、豊瀬川を堀の替わりにしていて、攻め手もうかつには攻め込めない。
武田軍は、城を取り囲むように五ヶ所に砦を築き機を見ていた。
匡次達は、東側の砦の背後から砦の規模や諸将の位置を調べて回った。
北側の河原に差し掛かった時だった。
「何者だ!」
茂みの中の人影に向かって匡次が小声で言った。しかし返事がない。
「私が行きます。」
茂助が刀を抜いて少しずつ近づいた。小さくなっているのは、確かに人である。
そっと近づくと、茂助は気づいた。
「そなたは、おなごか?」
茂みに震えて座りこんでいるのは、女のようだった。具足など付けていないが、変わった格好をしている。・・・だがやはり女だ。
「長信濃の者か?」
女は頷いた。
「どうしてこんな所に?・・・城から抜け出して来たのか?」
女は、首を振った。
「茂助、何者だ?」
「ここの者らしいのですが・・・?」
と言いつつ、言葉が止まった。
「どうした茂助?」
月明かりに照らされた女の顔を見て、茂助は目を閉じた。
「このおなご、何処かで見たような気がして・・・。しかし思い出せません。」
「まあ良い、敵勢に驚いて隠れていたのであろう。・・・茂助、我らはこのまま偵察に行く、お前は、そのおなごを大窪様の所へ連れて行け。」
「は、はい。」
匡次達は、そのまま進んで行った。



匡次達と別れた茂助と女は、大窪達先発隊が潜んでいる山に向かった。
「名前は何と言う?」
茂助は、歩きながら小声で聞いた。
「・・・。」
「口がきけぬのか?」
茂助がそう言うと女の口が開いた。
「ここは何処ですか?」
「長信濃だとお前が言っただろ?」
「言ってません、頷いたけど・・・。でもここは長信濃じゃないみたい・・・。」
女は、辺りを見回しながら茂助についてきた。
「変わった格好をしておるが、何か神事の衣裳か?」
そう言って茂助は、ふと思った。
「そなた、三津林様をご存じないか?」
三津林も変わった格好をしていたのを思い出したのだ。
「みつ、ばやし・・・?」
「知っているのか?」
「何処かで聞いたような・・・?」
「知っているなら思い出してくれ、何処かで会ったのか?」
女は首を振った。
「知り合いにはいないんだけど、私の記憶の何処かにその名前が・・・、でも判らない・・・。」
「そなた名前は・・・?」
茂助は再び聞いた。
「久留美です。」
「久留美!?」
何処かで聞いた名前だと茂助は思った。しかし茂助も思い出せない。
その時だった。茂助達の前に数人の武具を身にまとった男達が、茂みを掻き分け現れた。
「何者だ!」
「・・・・」
茂助は、女の手を掴んだ。


             ・・・・つづく。


     ※ この物語はすべてフィクションです。
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