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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

2018年版「誰もが泣いて喜ぶ冠婚葬祭その他諸々スピーチ集」第21回

2018-01-16 11:45:08 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.281




○業績優秀者表彰式/本人のあいさつ



今回、業績優秀者のひとりとして表彰を受けました湘南地区担当外商の吉川です。

ただいま本部長より過分のお褒めを頂戴いたし、恐縮の至りであります。さきほど本部長が指摘されましたように、当社の新製品投入が遅れたために、非常な逆境に立たされた1年でした。

*1そこでどうしたか。私なりの戦法をご紹介しましょう。

第1は「見込み客の確保」です。つねに5件の見込み客を持ち、うち2件の契約を実行するやり方を続ければ、1年のうち4ヶ月は1件の契約しか取れなくても、年間20件の契約が取れるようになります。

第2は、「自社製品の物語を売る」ことです。ボルボやフォルクスワーゲンやポルシェならずとも、どんな車にもロマンや技術や独特の思い入れがあります。

他社が価格を武器にするならば、わが社は製品の物語と哲学を売りまくればいいのです。その結果がたまたま出せたのが昨季であったと思います。

*2今期も自分流に全力で頑張りますので応援宜しくお願い致します。

○ アドバイス
* 1普通ならばライバルの前では絶対に教えない販売ノウハウをあえて公開しているこの販売員は凄い。自分の戦法を仲間にも共有させることによって販社全体の売上に貢献しようとする前向きな姿勢を、トップはさらに高く評価するだろう。

* 2 話者の関心は、すでにより高い目標に注がれていることに注意しよう。


アリストテレスの「ニコマコス倫理学」読みて「音楽には中庸が大事」と語るキリレンコ 蝶人




レフ・トルストイ著中村融訳「アンナ・カレーニナ(上)」を読んで

2018-01-15 20:47:01 | Weblog


照る日曇る日 第1025回


むかし「戦争と平和」を読んでこの偉大な作家が描きだすロシアの雄大な自然と大地、そしてそこを舞台に生きる人々の喜怒哀楽、それをうわばみのように飲みつくす歴史と戦争の雄渾な描写に驚嘆したことがありました。

この「アンナ・カレーニナ」も、すぐに読もうと思って1989年に3冊の岩波文庫を買ったのですが、そのまま書斎の奥でつんどくとなり、遅まきながら28年ぶりに読みはじめたという体たらくであります。

私は毎日20冊を読むという歌人、奥村晃作氏にならって常に同時並行していろんな本を読むことにしているのですが、そうするとこの文豪と言われた大作家の文章が最近の内外のどの作家のそれよりも胸にまっすぐ届くことに驚かされました。

トルストイの文章は「幼年時代」「少年時代」でもそうでしたが、音楽家で言うと直球を豪速球で投げてくるベート-ヴェンに似た明快さがあるのですね。癖のある変化球を多投するドスト氏との大いなる相違です。

そのロシアのベトちゃんを、私は中村白葉か米川正夫選手の翻訳で読みたかったのですが、残念ながら入手できませんでした。しかしこの中村融選手のほんやくを通じても、原文の背後に眼光鋭く睨みを利かせている大作家の、突如愛に落ちた人間への洞察が隅々まで行きわたっていることを感知できるのでした。

どうして人は愛に落ちてしまうのか、そして愛に落ちたアンナとウロンスキーの初めての情交がすっぽり欠落しているのはいかなる次第によるのか分かりませんが、それがトルストイ流であり、彼の時代の文学と検閲の流儀によるものなのでしょう。

さ、今日は前置きだけでお時間が参りました。どちらさまもご機嫌よろしゅう。
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。


 目上からの年賀状には返事を出せと言いたれど目上ってなにと返す息子である 蝶人

2018年版「誰もが泣いて喜ぶ冠婚葬祭その他諸々スピーチ集」第20回

2018-01-14 10:37:23 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.280




○ 永年勤続表彰式における本人のあいさつ

本日は私のような者のためにこのような晴れがましい席を設けていただき、うれしいやらはずかしいやらでドキドキいたしております。

*1また先ほど社長より身に余る過分なお褒めの言葉を頂戴いたしまして、心より感謝いたしております。

私は今から25年前に中卒で鹿児島から上京し、集団就職でこの会社に入れていただきました。はじめは会社の寮におりましたが、昭和53年にローンでマンションを購入。そこから毎日1時間45分かけて東京湾の片隅に建っております当社の配送センターに通勤。来る日も来る日も段ボールを運んでいるうちに、いつのまにやら25年になってしまったというのが正直なところです。

*2私のモットーといいますか、人生訓は「一日作さざれば一日食わず」というもので、かつて中国の唐代にいた百丈懐海という禅僧の言葉だそうですが、非常に気に入りまして、実際にいまでも、配送センターでの午前中の作業がうまく行かなかったときは、昼食は抜いています。

これからも今まで通りマイペースで頑張りますので、何卒よろしくお願い致します。


○ アドバイス
* 1 こういう席では、社長は褒め過ぎるくらいに褒めるものだ。お言葉はかたじけ  なく頂戴しておこう。そして謙虚に感謝の辞を自己流に述べよう。
* 2 このモットーは、道元や西田幾多郎の座右の銘でもあった。自分の生活信条の一端を、晴れの場面で紹介するのも悪くない。


  馬鹿と云うてもいろいろあるけどトランプの馬鹿さ加減は世界随一 蝶人



レッドフォード2本立て

2018-01-13 14:18:38 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1271、1272



1)レッドフォード監督の「普通の人々」をみて

普通の人という言葉は普通だが、しかしてその実態ほど普通ならざるものはない。
サザーランドはおおむね普通ならざる異様大仰の役どころが多いが、1980年製作のこの映画では、きわめて懐の深い大人の役を演じて心に残る。いっぽう妻(メアリー・タイラー・ムーア)はあまりにも普通ならざる極端に位置づけてしまったのは、ちと行き過ぎではなからうか。ハットンは儲け役。
できれば色々あった3人が仲良く腕をまわして座り込むところでパッヘルベルのカノンが聞こえてくるようにしてほしかったずら。


2)レッドフォード主演監督の「モンタナの風に抱かれて」

1998年製作のいかにもレッドフォードらしい健康的で理想主義的な作品。馬を癒す能力を持つカウボーイ、レッドフォードが、親友と愛馬を事故で失った娘を精神的な危機から救い、娘の母親を愛するようになるが、けっきょく結ばれずに終わる結末はほろにがい。



    蜻蛉の足袋靴履いた選手たち箱根駅伝のスタートを切る 蝶人


自由律詩歌その29

2018-01-12 14:23:15 | Weblog


ある晴れた日に 第492回


しみしみしみ

しむしむしむ

しめしめしめ

しもしもしも

しやしやしや

しゆしゆしゆ

しよしよしよ

しらしらしら

しりしりしり

しるしるしる

しれしれしれ

しろしろしろ

しわしわしわ

しをしをしを

しんしんしん

すあすあすあ

すいすいすい

すうすうすう

すえすえすえ

すおすおすお

すかすかすか

すきすきすき

すくすくすく

すけすけすけ

すこすこすこ

すさすさすさ

すしすしすし

すすすすすす

すせすせすせ

すそすそすそ

すたすたすた

すちすちすち

すつすつすつ

すてすてすて

すとすとすと


  五反田のカフェ・エクセルシオール美女多く友との話も上の空なり 蝶人


家族の肖像その28~これでも詩かよ第230回

2018-01-11 10:16:18 | Weblog


ある晴れた日に 第491回



ハッピーニューイヤーてなに?
新しい年おめでとうということよ。

お父さん、すっばいのすは2酸化炭素の酸だよ。
そうだね。よく知ってるね。

お母さん、ちゃんと責任とってってどういうこと?
ちゃんとけじめをつけるってことよ。
セキニン、セキニン。

お父さんさん、ぼく、ゴタゴタいやですお。
お父さんもいやだよ。

遺憾に堪えないってどういうこと?
とっても残念だ、ということよ。

お母さん、交わるってなに?
交際することよ。

お父さん、ぼくさん、信じますよよ。
なにを信じるの。
お父さんとお母さん信じますよ。
そうなんだ。
信じるはにんべんにいうでしょ。
そうだよ。

我が輩ってなに?
私は、っていうことよ。

メールってなに・
パソコンでピッと伝えるものよ。
そう、そうですお。

お母さん、今年「どんと晴れ」見ました。また見ますお。
見てくださいね。

法事って人が死んだとき?
そうだよ。
ホウジ、ホウジ。

お母さん、すこやかってなに?
丈夫で元気なことよ。

お母さん、一晩中ってどういうこと?
夜の間中ずっとのことよ。耕君一晩中痛かったの?
大丈夫ですお。

お父さん、今年で「べっぴんさん」終わるんだね。
残念だね。
残念ですお。

お母さん、ぼく高田馬場好きだお。
そう。じゃあ行きましょう!
タカダノババ、タカダノババ。

世田谷代田、各駅停車だけだよ。
へええ、そうなんだ。

お父さん、ぼく近鉄好きだお。近鉄はバッファローズだよ。
そうだよ。良く知ってるね。

命令って、こうしなさい、のことだお。
そうだね。

ナカノさん、死んじゃったよ。
そうだね、なくなつちゃったね、
ぼく、ナカノさん、好きでしたお。

ぼく、報国寺好きだお。
そうなんだ。報国寺はどこにありますか?
浄明寺だお。
ピンポン。

お父さん、留守の英語は?
アブセントだよ。

お父さん、大好きですお。
お父さんも、耕君が大好きですよ。

まえ桑山君に「おんなじの駄目っ」ていわれたのよ。
「おんなじの」ってなに?
カラオケの。
そうだったんだあ。

泣くなって、泣かないで、のこと?
そうだよ。

「任侠ヘルパー」でメイサ怒ってたよ。
なんで怒ったの?
分からないけども。

お母さん、ぼくはモンゴルマンすきだお。
そうなの。

お父さん、フィフティーンは15だよ。
お、よく知ってるね。じゃあ10は?
テンだお。

「なのに」ってなに?
そうなのにねえ、っていうことよ。


クオーーーーン、ノラのあたいを山で拾って育ててくれてありがとうケンちゃんといいてムク息絶えたり 蝶人



山崎方代第1歌集「方代」を読んで

2018-01-10 11:32:35 | Weblog


照る日曇る日 第1024回



昭和30年の晩夏に自費出版された放浪孤絶の歌人、山崎方代の第一歌集には全部で200首の短歌が収めてありますが、その強烈な個性と放胆な歌いぶりは今読んでも心を揺さぶられることが多いです。

しかし冒頭の1首は、ちょっと謎めいている。

  わからなくなれば夜露に垂れさがる黒きのれんを分けて出てゆく

分からなくなるのは自分か、世界か、歌の道か。

  いつわりの履歴書をかき送りしをある日ふと思い出したり

私は偽りは書きませんでしたが、かなり「盛った」やつを書いたことを思い出して、赤くなりました。

  ゆくところ迄ゆく覚悟あり夜おそくけものの皮にしめりをくるる
  声あげて名物お紺きちがいが唄えば新宿に又夜が来る
  野毛坂のすずらん橙の灯の下をつれられてゆく浄き女犯よ
  ゆく所までゆかねばならぬ告白は十五世紀のヴィヨンに聞いてくれ

なんか悲愴、なんかカッコイイ。
浅草や野毛で肉体労働に従事したホームレス&ルンペンプロレタリアートの方代は、自己劇化に躊躇しません。その億面のなさには時折辟易させられますが、実際極貧の限りを尽くす明日無き渡世を、這いずり回っていたのです。

  瞳をつむりわれにだかれている姉よこのしばらくの姉と弟
  ととのわぬ乳くびの頭の赤ければすでに不幸は初まっておる
  かたばみの葉をぬらす雨よ娘はひくく奪っていいのよ奪っていいのよ
  父知らぬ子を産みおろす若き娘に生の卵を一つ置きて去る
  おかせしは胎動に耳おしあてて極道邪悪の瞳をかがやかす
  このわれが山崎方代であると云うこの感情をまずあばくべし

生と性がわかちがたく絡み合った場所で、方代はもがいていたようです。

  さりげなく茶碗を置きぬかくばかりこころくばりて生きねばならぬ
  ときのまに死ねば死ねると云うことのかかるおごりを持ってぞ生くる
  まっくらな電柱のかげにどくだみの花が真白くふくらんでいる
  ほどけたる靴ひもをゆわきなおさむとかがめる時に吾がある
  白い靴一つ仕上げて人なみに方代も春を待っているなり

そして最後にバガボンが束の間のやすらぎを得るところとは、こんな場所でしたろうか。

  捨てられし下駄にも雪がつもりおるここに統一があるではないか
  とぼとぼと歩いてゆけば石垣の穴のすみれが歓喜をあげる
  私に早く帰ろう水楢の落葉の下に早く帰ろう
  茶碗の底に梅干の種二つ並びおるああこれが愛と云うものだ
  柚子の実がさんらんと地を打って落つただそれだけのことなのよ


   今もなお八幡様をうろついてるか生き放題死に放題の方代さんが 蝶人


岩波文庫版「源氏物語二紅葉賀-明石」を読んで

2018-01-09 10:53:11 | Weblog


照る日曇る日 第1022回


かの丸谷才一氏がいみじくも喝破されたように、光源氏が執拗に皇族や貴族の子女の尻を追い回すのは、平安時代から鎌倉初期までは厳然として存在した女子の財産継承権目当てであったことは十分に承知しているものの、しかしまあ、なんで禁断百叩きの皇統紊乱をやらかすような没義道男が、いろいろな女性からちやほやされるのでしょうか。

義理の母、藤壺をものにして子をなしただけでは飽き足らず、藤壺に瓜二つの幼い姪、紫上を拉致誘拐してその処女を奪い、皇族の血を引く六条御息所と朝顔君をイテこまし、あまつさえ朱雀帝寵愛の朧月夜の君を執拗に犯す17歳の異常性欲男の、いったいどこかよろしいのでしょうか? 

思うに源氏のモデルであった藤原道長は、アルチンボルドのだまし絵のように巨大なチンポコが六つも鈴なりになっているよっぽどの精力絶倫男で、一度そいつが駆動したら終生忘れ難いほどの快感を、並居る貴女美女たちに分け与えてやった。

そしてそれは、道長の都合のよい女だった紫式部が、実際にわが身に生々しく体感したものだったに違いありません。

するてえと、あるいは「源氏物語」のほんとうの作者は、「紫式部」の名をかたる男性、もしかすると道長その人で、紫式部は膝枕されている道長の口述を基にして自在にリライトした、というより、させられた元祖ゴーストライターだったかもしれない。

もしその仮定がほんたうならば、私もこれ以上源氏を、ねたんだり、そねんだりしないで、やすらかな気持を懐きつつ、本書なんかもすいすい通読できる。いや、もっと阿呆らしくなって、放り投げたりできるのですが。


  なにゆえに紫式部はイソイソ書いた女殺しのやりたい放題 蝶人



川上未映子&村上春樹著「みみずくは黄昏に飛びたつ」を読んで

2018-01-08 10:49:54 | Weblog


照る日曇る日 第1021回&音楽千夜一夜第405回



俊鋭川上選手による巨匠ムラカミ!へのロングインタビュー集であります。

(さりながら題名は、「騎士団長殺し」で屋根裏にみみずくが住んでいるので、ヘーゲルの箴言とひっかけたのだろうが、あんまりいかしたタイトルとも思えない。
イカシテいるのは川上選手の壺を抑えた的確な質問で、それには彼女がムラカミの愛読者であり、彼を尊敬していること、事前に徹底的に作品を読み込み、周到な準備をしていること。それゆえに彼も心を開いて新作のみならず創作の秘密を丁寧に解説することになったのだろうが、両選手のファン、というより、昨日紹介した「バースデイ・ガール」同様、アンチムラカミ派必読の、じつに興味深いインタビューである。)

わたくし的には彼の小説の原点が、テーマや人物造形やプロットではなく文章そのもの、にあると断言しているところが、瓢箪から駒というか、目から鱗であった。

いわく「僕にとっては文章がすべてです。結局のところ最後は文章に帰着します。文章が変われば、新しくなれば、あるいは進化していけば、たとえ同じことを何度繰り返し書こうが、それは新しい物語になります。文章さえ変わり続けていけば、作家は何も恐れることはない」。

そして彼が文章を書くときの基本方針は2つ。ひとつはゴーゴリの「どん底」における28歳のペーベルと60歳の巡礼ルカのやりとりで、ペーベルが「おめえは聞いたか?」というと、ルカは「ああ聞いたよ。どうして聞かないでいられる。それとも、わしはつんぼか?」(訳・湯浅芳子)と聞き返すところ。
たいていの作家は「お前俺の話聞いてんのか?」「聞こえてるえよ」と書いてわが事足れりにしてしまうが、「ツンボ」がとても大事なんだ、というのです。

もうひとつは比喩。チャンドラーに「私にとって眠れない夜は太った郵便配達人と同じくらい珍しい」という比喩があるそうですが、この「太った郵便配達人」が文章の要で、「私にとって眠れない夜は珍しい」だと読者は何も感じないというのです。

なるほど。これはちょっと古典音楽の再現芸術の在り方にもちょっと似ていますね。
クラシックが面白いのは、耳タコのベトベト「運命」を、今度の指揮者はどう解釈するのだろう、という一事にかかっているのですから。

それはともかく、ムラカミ選手は、「文体は心の窓である」と定義し、「もし文体が自在に動き回れなければ(小説家の中からは)何も出てこないだろう」というのです。

うむ、そうかもしれん。
彼が1冊を仕上げるために何度も何度も書き直し、「騎士団長殺し」では通算9回も校正したという逸話を聞いていると、何を書くかという問題は、いかに書くかという実践の過程からしか浮上してこないと断言する根拠がなんとなく理解できるような気がします。じっさい彼はいつもノープランで小説を書いているのだそうです。

余談ながらクラシックについては、あと2つ話が出ていました。
ひとつはベートーヴェンのピアノソナタ第32番の第2楽章の魅力を文章にするのは至難の業だということ。それはそうだろうな。

それからバッハのゴルトベルク変奏曲の演奏をいろいろ聴きまくったが、ふつうの奏者は左右の調和を意識しながら演奏しているのに、グールドの1955年盤だけは、「左手と右手が勝手に動いている」というのです。
さもあらばあれ、もう一度聴いてみますかな。


  左手と右手が勝手に弾き始めたがさすがグールド泰然自若 蝶人



村上春樹著「バースデイ・ガール」を読んで

2018-01-07 11:04:37 | Weblog


照る日曇る日 第1020回



さて問題です。

ちょうどその日、20歳になったばかりの女の子が、ある正体不明の老人に呼び止められ、「せっかくのきみの誕生日なんだから、願いをしてみないか。ただしひとつだけだよ。それがどんな願いであっても、わたしが必ずそれを叶えてあげる」と言われて、あるお願いをしました。

そして、それはたちどころに叶えられたのですが、さて彼女は、いったいどんなお願いをしたのでしょうか?

全国のよい子の皆さん、ちょっと太宰治の「フォスフォレッスセンス」を思わせるこのムラカミ選手の不可思議千万な童話をば、新年早々ついついつーたらりと読んから、胸に手を当てて、自分だったらどんなお願をするだろうかと、よーく考えてみませうね。

しゃあけんど、全編を強烈な赤で彩るカット・メンシックのイラストレーションは無くもがな。作家の意図しない過剰な意味を発散しすぎてケタクソ悪く嫌みな感じやけど、誕生日にことよせて、人世の意味を深く問う、なかなかに味わい深い超短編小説ずら。



  ゼウスなる全世界創造神の登場に15世紀日本人はアッと驚く 蝶人

渡辺京二著「バテレンの世紀」を読んで

2018-01-06 09:42:30 | Weblog


照る日曇る日 第1020回



作者はキリシタン史の専門家ではない。ではなんでこの膨大な通史を書いたかというと、「ただキリシタンの事跡に心ひかれて、それを詳しく物語りたかった」というのである。

その言うやよし。私はむかし日本史の教科書で学んだ記憶しかないイエズス会やザビエルや天草四郎やバテレンの数奇な挿話、最新の研究や学説に基づいて延々と記述されたきりしたんバテレン物語の数々を、暮れから正月にかけてじっくりと堪能することができました。

「あとがき」によれば、作者の理想は和辻哲朗の「鎖国」の現代版を超えて、かのヘロドトスやツキディデスの大著の域を目指すという壮大なものであるが、わが愛読の「歴史」の沈鬱な巨観や「戦史」の雄渾な劇写には遠く及ばぬにしても、雑駁な記述と稀代の悪文で常に心ある読書子を辟易させる、かの塩野女史の噴飯歴史物に比べたら、そこれこそ天地雲泥の差であろう。

しかしイエズス会の思想と組織の在り方が世界共産主義活動のそれと酷似している、という「発見!?」を、鬼の首でも取ったように2度にわたって力説する暇があるなら、どうして「スペイン・ポルトガルのモルッカ諸島争奪戦」を詳しく叙述してくれなかったのかと文句の一つも言いたくなるのである。

しかし天草の乱の経緯とその本質、さらには日本史最大の謎である「天使」天草四郎について理路整然と論じた第24、25、26章は、けだし万人必読の本書の白眉であろう。

また本書を通じて、16、7世紀に日本がはじめて西洋「後進」諸国と遭遇した折には、我はむしろ彼より文明文化に秀でており、対等以上の優位性を以て彼に接していたこと、またその当時から我は、海外進出よりも自国の平和と安定を望んでいたことを、改めて確認できるのは、侵略的帝国勃興の21世紀にあって、なかなかに意義深いことではないだろうか。


  もし我がキリスト教徒なら「穴吊りの刑」に堪えられるかそれが問題 蝶人


家族の肖像その27~これでも詩かよ第229回

2018-01-05 10:07:19 | Weblog


ある晴れた日に 第490回


お父さん、広いの反対は狭いでしょう?
ピンポン。

お母さん、警報ってなに?
危ないですよと知らせることよ。
ケイホウ、ケイホウ。

介護をやったら助かるんでしょ?
そうだねえ。

耕君、あの電車どこ行き?
回送列車ですお。
回送列車ってなに?
車庫に戻る電車ですお。
なるほど。

完璧ってなに?
すべてうまくいくことよ。

おひさま、太陽でしょ?
そうだよ。

おくらネバネバでしょう?
そうよ。
ぼく、おくら好きですお。

お母さん、停留所の英語は?
バス・ストップよ。

お母さん、行列ってなに?
列を作って歩くことよ。
ギョウレツ、ギョウレツ。

お母さん、落語ってなに?
おもしろいお話をすることよ。

お父さん、武蔵野線、東京駅までですよ。
そうなの。
そうですお。

連佛さん、高良さんと結婚したの?
そうだよ。

お母さん、ぼくソリ好きですよ。
「雪ん子合宿」で滑ったんでしょ?
そうだお。

お母さん、叶うってなに?
うまくいくことよ。
カナウ、カナウ、カナウ。

くじけたらいやですお。
くじけないでね。

アーメンて祈ること?
そうだよ。

介助したら助かるでしょ?
そうね。助かるよ。
カイジョ、カイジョ。

「横浜線403系ごくろうさん」ってありがとうのことでしょう?
そうだよ。

お母さん、タイミングってなに?
いちばんいいときのことよ。
タイミング、タイミング。

お母さん、孤独ってなに?
さびしいことよ。耕君さびしいの?
ぼく、さびしくないですよ。

お父さん、心臓飛び出したら困るでしょう?
心臓?そりゃ困るなあ。
困るでしょう? 

お母さん一晩中ってなに?
夜から朝までということよ。

お母さん、ぼく、また小児療育行きますお。
行きましょうね。


   急速にパンするカメラを全員がしっかり見ているAKB48 蝶人


すべての言葉は通り過ぎてゆく 第53回

2018-01-04 10:10:05 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.279



言葉だけではない。すべての生きとし生けるものが、黙って通り過ぎていくのである。合掌。12/1

誰かが不祥事を起こすと、おおかた「世間を騒がせた」というて辞任するのだが、それはてんで辞任の理由になっていない。世間はいつでも騒がしいものである。12/2

売れなくなった自称大物のポップス歌手は、たいがいNYのカーネギーホールで一夜限りのコンサートをするとか、オーケストラを伴奏にしたライブをやりたがるものである。12/3

私は原則として毎朝PCに向かってこの「言葉」を書き、「なにゆえに」の短歌を即興で詠み、昨夜見た夢を記しているが、いつまでこんなことを続けられるかは神のみぞ知る、である。12/4

ひとはいつでも見解を異にする他人を、いくぶんかは憎むものだ。そしてその憎しみが嵩じて増殖していくと、いつの間にか他者は不倶戴天の敵として対象化されて、その死を願ったり、みずから手を下したりしてしまう。12/5

あの名指揮者ジェームズ・レヴァイン選手までがセクハラ疑惑? 勘弁してくれよ。12/6

死に腹を切るのが誠実というものだという人もいるし、死んで花実が咲くものか、命あっての物種という人もいる。どちらも正しいのだろうが、自死する動物は人間だけである。12/7

判決理由に「受信料制度が国家機関から独立した表現の自由を支えている」とあるが、籾井体制以降、安倍蚤糞に盲目的に追随するNHKの報道局には、表現の自由も自主性もない。よって受信料を支払う根拠も、義務もない。12/7

何十年振りで、1万歩を超える距離を歩いたら、何十年振りかで、朝の8時までぐっすり眠ってしまった。でも、浅い夢だけはおぼろに見ていた。12/8

家族3人で藤沢まで行ったのですが、ドンキホーテには如雨露を売っていなかったので、鎌倉に戻って東急ストアの3階に行ったら、ありました。帰りに海岸を走って青い海と空を見たかったのですが、耕君が「いやですお」というたので諦めました。まる。12/9

「実存」ではなく、「虚存」という言葉にひかれる。「実存」が現実的存在なら、「虚存」は非現実的存在。いっけん「虚無」のように見えるが、そうではなく、現実が存在するのと同様に「非現実という現実」も存在して現実を背後から支えている。宇宙空間に存在する暗黒物質にも似て。12/10

老子は「物事の真に肝要なところは虚にのみ存す」というておるようだが、この「虚存」という概念は、人間存在のみならず建築にも適用できる。建築物の本質は、屋根と壁と柱ではなく、それらによって取り囲まれている、いっけん空虚な空間こそが建築生命の泉なのだ。12/10

米帝のトチメンボウが、イスラエルの首都を決める権利も資格も毫もないことを、極東の愚かな番犬も、たまにはご主人様にわんわん鳴いて教えてやるべきだろう。12/12

表現することは、おおむね喜びそのものなのであるが、その奥底に必ずいくばくかの苦痛と吐き気が伴うのが不思議だ。これは「そんなつまらんこと書いて何になる。いいかげんで止めろよ」と、頭の中の誰かが言うておるようにも感じられる。12/13

唇が腫れ、頭皮が赤剝けし、陰嚢の裏が痒くてたまらんので、皮膚科へ行き、たくさん薬をもらって帰ったら、ただそれだけで死ぬほど疲れた。「2週間後に治っていなければ陰嚢を見ます」と疲れた顔をした女医さんが宣うた。やれやれ。12/15

朝の散歩に行ったら、消防車が停まっていて、小さな2階建ての民家が黒こげになっていた。まだ焼けたてのホヤホヤ状態だからきっと早朝のボヤで全焼したのではないだろうか。住民はいなかったが、無事だったのかしら。他人事にあらず。うちも気をつけなくちゃ。12/16

トランプがツイッターで、「日本の首都は京都に決めた。妻も娘も大賛成というておる」と呟いたら、安倍蚤糞は「ああそうですか。そうですよね。じつは私と妻もそれがいいと思っていたんですよ」と、諸手を挙げて賛成するに違いない。12/17

またまた我々にはなんの相談もなく税金を上げようとする安倍蚤糞。「それでいいのですか?」と聞かれても、相変わらずこの国の阿呆莫迦臣民どもは「どちらともいえない」などと平気で嘯くのだろう、未来永劫にわたって。12/18

NHKの「直虎」がやっと終わったが、受信料を返してほしい最悪の大河ドラマだった。
民放で無料で見られる「陸王」、「民衆の敵」の方がはるかに面白い。大門未知子は死んだと思ったが、どっこいキューバで活躍しているんだね。12/19

無人の家にテレビが置いてあるだけで受信料を払わねばならぬとする最高裁などは、悪徳企業NHKと共に消えてなくなればいいのだ。12/20

それにしても貴乃花という男の非常識には驚く。どこの誰だか知らないが、親の顔が見たい。これでよく大人になれたものだ。12/21

黒柳徹子の死んだ恋人は、ピアニストのアレクシス・ワイセンベルクだったという。最初は驚いたが、「さもありなん」という気持ちも、だんだんしてきた。12/22

トランプのやることなすこと利害むき出しの露骨そのもので、もう笑うしかない。こいつの脳味噌には、「爬虫類の脳」にオブラートをかけようとする「人間脳」の在庫が無くなったらしいのだ。12/23

年年歳歳降誕祭だの新年だのがこの瘠身に降りかかってくるようだが、もはやなんの感慨も湧かないのは、いったいなぜだろう? もはやわが内なる星の王子様の初心を、どこかとおい惑星に忘れ去ったせいだろうか。12/24

指揮者のJ.レヴァインに続いて、今度はシャルル・デュトワがセクハラ加害で出場停止処分を受けた。アルゲリッチの後、チョン・キョンファ、諏訪内晶子を次々にスケこましたという噂のあるプレーボーイの彼だから、今更誰も驚かないだろうが。12/25

「陸王」の最終回盛り上がったね。やはり原作、脚本、演出、そしてキャスティングがいいドラマは見応えがありますね。役所広司はいい役者だ。莫迦高い製作費を投入して糞面白くもないNHKの大河ドラマとは雲泥の差なり。12/26

「民衆の敵」は、民衆と政治という興味深いテーマに挑んだ民放ドラマの逸品だったが、肝心の阿呆莫迦民衆の総スカンにあって文字通りの「民衆の敵」になってしまい、低視聴率に終わったのは気の毒だった。フジTⅤ、脚本の黒沢久子と篠原涼子、高橋一生以下の出演者の力演に拍手を贈りたい。12/27

義理の母、藤壺をものにして子を成しただけでは飽き足らず、藤壺に瓜二つの幼い姪、紫上を拉致誘拐してその処女を奪い、皇族の血を引く六条御息所と朝顔君をイテこまし、あまつさえ朱雀帝寵愛の朧月夜の君を執拗に犯す17歳の異常性欲男のいったいどこかよいのであろうか。
12/28

ふだんお相撲なんか見ないような人までしゃしゃり出てきて、貴乃花がどうたら、協会がどうのと、さながら海内の一大事のように口角泡を飛ばして夢中になってる。ああ仕合わせな極東帝国の臣民よ! マルデブルクの半球よ!12/29

鎌倉時代の蒙古来襲は、幕府が招来したものではなかったが、昨今のモンゴル全盛は相撲協会自身が招いたもので、それに起因する様々な軋轢は、彼らが一致団結して解決するほかはない。そもそも相撲界が外国人に門戸を開いたことが躓きの石だったのである。12/30

「やれやれ、今年もやっとここまで辿り着いたか」、という思いだけである。12/31


   全国の労働者諸君戻りけり変哲もなき去年の職場に 蝶人

なにゆえに第48回~西暦2017年師走蝶人花鳥風月狂歌三昧

2018-01-03 13:22:11 | Weblog


ある晴れた日に 第489回



なにゆえに天皇が格調高い護憲主義者右も左もブレまくったので

なにゆえにまた年号をひねり出す西暦だけでいいではないか

なにゆえに宗教は「復活」を考えたそれで現世を耐えさせるべく

なにゆえにこの国の税金は高い息をするだけでも税金をかけられるようだ

なにゆえにアマゾンで次々衝動買いするもはやアンダーコントロールできなくなった

なにゆえに核廃絶決議に賛成が減る核禁条約に賛成しないから

なにゆえに1万歩歩いただけでかくも疲れるそろそろ年貢の納め時か

なにゆえに君は大徳から生まれ変わった障がい者として生き直すため

なにゆえに誰一人脳裏に浮かべない元号もなく天皇もなき世

なにゆえに長距離巡航ミサイルを配備する専守防衛に違反しないか

なにゆえに「麦印インキ」を買ってしまったうちのは「さくらんぼう印」なのに

なにゆえに「オトナ高校」が終わってしまったせっかく耕君が喜んでいたのに

なにゆえに仰向けに寝ることができない上から空が落ちてくるので

なにゆえに核禁条約に署名しない核兵器は「必要悪」だとさ

なにゆえに貴乃花は仕事をしないお前さんに理事の資格はない

なにゆえにジャパネットのCMを禁止せぬ脳天に響く叩き売りの声

なにゆえにこじつけコレクションをずらずら並べる西洋美術館のジャポニスム展

なにゆえに一軒家は燃えてしまった古いコードに埃が溜まった

なにゆえに「金耀夜はカレーにしてね」と電話する月曜に施設へ行ったばかりなのに

なにゆえに風もないのに枯葉が落ちる良からぬことの前兆か

なにゆえに死刑執行に加担する国家は市民を殺してはならぬ

なにゆえに安倍蚤糞は延命するこの国の人にうってつけだから

なにゆえに相撲談議にうつつを抜かす着々進む9条破壊の陰謀

なにゆえにイスラエル派を集めて御馳走するトランプは反主流派の親分だから

なにゆえに降誕祭にときめかないわが星の王子が死んでしまった

なにゆえに安倍蚤糞は弱者を虐める金持ち共のご機嫌をとるため

なにゆえにシューズデザインをころころ変えるプーマは続けよ定番商品を

なにゆえにあああと面を覆う女医さん2人に陰嚢を見られたから

なにゆえにことしもどんどん暮れてゆくたいしたことなぞできやせんに

なにゆえにアメリカ人の14%がトランプを尊敬するあんな狂犬悪魔に喰われろ

なにゆえに貴乃花を応援するつまりは白鵬を追い出したいから

なにゆえに今年も死なずに無事に終われた神仏の加護があったかも知れぬ

 なにゆえに今年の抱負は語らない生きてるだけで精いっぱいゆえ 蝶人