あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

国立能楽堂で第18回「青翔会」を見聞きする 

2019-03-14 12:56:40 | Weblog


蝶人物見遊山記 第306回



能楽の若手の研修を発表する「青翔会」の今回は、舞囃子が「弓八幡」、「屋島」「小塩」、狂言は「佐渡狐」で、トリの能は「海人」というプログラムでした。

3つの舞囃子からはさしたる感銘を受けず、狂言もまあまあの出来栄えだったので、今日はハズレかな、と嫌な予感に襲われつつ鑑賞した最後の「海人」が良かったのです。

これは大臣藤原房前と母の命がけの愛を切切と描く人情ドラマで、特に海女の母親が子のために自分を犠牲にして秘宝を取り返し斬った乳房の中に玉を隠すという「玉ノ段」が名高いのですが、私が感動したのは、中入り後に再登場したシテによる「早舞」の見事さでした。

宝生流の58歳になるベテラン、佐野玄宜選手が、龍女として舞い踊るのですが、これがじつに力が抜けた風情で、私は世阿弥の説く「幽玄」の「花」を、舞台で初めてこの目で見たという思いにつかまれました。

だんだん速くなる笛、小鼓、大鼓、太鼓のBGМは、さながらスティーヴ・ライヒのように奏でられ、その麻薬的なミニマム音楽に乗ったシテは、世阿弥が「花鏡」でいう「動十分心、動七分身」「目前心後」の教えを、地で行く飄々とした風のような踊りの極地を見せ、私は「ああ、この心地よいダンスよ、永遠に続け!」と願いながら、これまで味わったことのない仕合せな気持ちに包まれておりました。

いやあ、歌舞伎より、文楽より凄いのは、やっぱ能ですね。


    遠き世の部族の長の末裔と伝わる人に額ずく人々 蝶人

コメント
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