あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

「棺一基 大道寺将司全句集」を読んで

2018-05-23 14:14:54 | Weblog


照る日曇る日 第1071回


胸底は海のとどろやあらえみし
蛇として生まれし生を存ふる
縄跳びに入れ損ねたる冬日かな
露草の瑠璃のかなたのいのちかな
げぢげぢと間違へられし百足虫かな
すめらぎを言寿ぐぼうふらばかりなり
すめらぎの盛りて氷河細りけり
この花を見られぬ人のありにけり
梟の声をゲバラと思ひけり
寒の朝まず確かむる生死かな
狼の思ふは月の荒野かな
三十三才命惜しまず鳴きにけり
欠けたるは佐倉宗吾か羽蟻群る
無信論者にも給はる聖菓かな
厭はれしままにて消ゆる秋の蠅
桑茂りものみな命わたくしす
捨てし世を未練と思ふ遠花火
蹶起せし死者のそびくや濃竜胆
棺一基四顧茫々と霞みけり
異なものを除く世間ぞすさまじき
夕焼けてイカロスの翅炎上す
あやまたず柿熟るる日の来たりけり
国ありて生くるにあらず散紅葉
人を殺めし人の真心草茂る
さりながら空の耀く母の日よ
夏服の母は十貫足らずかな
夢でまた人危めけり霹靂神
差し入れのりんごに残る若緑
黙契のいつしか消えて雲の峰
秋近し旗持つ友の莞爾たり
怨讐を晴らさむものと蝉時雨
たたなはる緑野に叛旗蝟集せむ
向日葵の裁ち切られても俯かず
心中に根拠地を達つ不如帰
しがらみを捨つれば開く蓮の花
誰がための弔鐘響く夏夕
花影や死は工まれて訪るる
日脚伸ぶまた生き延びし一日かな
革命をなほ夢想する水の秋
本懐を未遂のままに冬の蜂
革命歌小声で歌ふ梅雨晴間
生際の美しき女人風信子
凍蝶や監獄の壁越えられず
狼は檻の中にて飼はれけり
過激派のままにてよろしちちろ虫
水底の屍照らすや夏の月
百合の香や暗闇の世を肯ずる

三菱重工などの連続企業爆破事件、お召列車爆破未遂事件などで知られる新左翼テロリストが獄中で詠んだ句集です。死刑判決を受けていた作者でしたが、昨年のちょうど今頃、多発性骨髄腫のために東京拘置所で死去しました。

私は作者の罪を憎みますが、国家による殺人行為である死刑制度には反対なので、彼が絞首刑にならずに死んだのは、死刑になるよりは良かったと思います。

これらの句を読んでその出来栄えを云々するつもりはありませんが、句を詠むという行為が、過酷な獄中生活を支える慰藉ともなり生甲斐ともなったことがうかがえ、彼の人世に俳句があって良かったな、とも思うのです。

 ホトトギスウグイスコジュケイガビチョウが入り乱れて鳴く十二所の朝 蝶人

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