あまでうす日記

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新潮日本古典集成新装版「枕草子上」を読んで

2018-05-12 09:38:16 | Weblog


照る日曇る日 第1064回



紫式部の「源氏物語」の背後には、藤原道長と長女の中宮彰子、清少納言の「枕草子」には道長の兄道隆とその長女の中宮後皇妃の定子が控えていて、道隆の死をきっかけに始まった道長派による道隆派(中関白家)へのクーデターが隠然たる影を落としていることを、読者はかたときも忘れてはならない。

もし大酒飲みの道隆と弟道兼が頓死せず、道隆の嫡男伊周とその弟隆家が血迷って花山法皇に矢を射るような不祥事をやらかさなければ、道長全盛時代の到来などありえなかったし、道長によって庇護された彰子やその女房の紫式部のわが世の春もまた、ついに訪れることなどなかった。

しかし、それは清少納言にとっては悪夢のような現実となって現前し、哀れ定子は花の23歳にして、文字どおり美人薄命の悲運を体現する羽目になった。

かくて「枕草子」は、一面では平安時代きっての才女の機智と切れば血が出るような鋭敏な感性の言説であると同時に、儚くも滅び去った王朝の精華、美しく聡明な后妃に捧げる不朽の哀歌となりおおせたのである。

  雀の子メダカかたばみシジミチョウ小さきものはみな愛し 蝶人

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