行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

「言葉狩り考」⑥--「非州=アフリカ」の表記には違和感が消えない

2016-10-19 10:47:32 | 日記
新華社の使用禁止用語には、国際関係も配慮し、「北朝鮮」とは呼ばず「朝鮮民主主義人民共和国」または「朝鮮」とするなどの注意書きがある。犯罪行為についても、「黒人の犯罪者」などと種族と特徴を強調する表現は禁じられ、サハラ砂漠以南のいわゆる「ブラックアフリカ」も用いず、ただ「サハラ砂漠以南のアフリカ」と表記するよう定められている。

第三世界のリーダーを任じていた中国としては、本音では途上国を見下げていても、建前はイコールの仲間として振る舞わなければならない。私が北京に留学した1986年当時、国別の留学生では日本が最多だったが(韓国との国交樹立は1992年)、地域別ではアフリカがダントツだった。中国政府が援助をして受け入れていた。彼らは音楽や踊りが好きで、週末などはかなりにぎやかなお祭り騒ぎが聞こえた。静かな学習環境を乱された中国人学生がしばしば抗議し、ちょっとしたいさかいで黒人排除のデモまで起きていたことを思い出す。

学内の運動会をするとアフリカ人たちの独壇場だった。私も100メートル走に参加したが、彼らの加速度に圧倒され、前に進んでいるはずが、後ろに下がっているような錯覚を感じた。かつてない経験だった。そのうち、空手を習ったことがあるというザイールの青年と仲良しになった。私の部屋に招き、手作りのカレーをごちそうしたこともある。その彼があるとき、こんなことを言った。

「アフリカのことを中国語では非州(feizhou フェイジョウ)という。『非』というのはいい意味じゃないでしょ」



彼との会話は中国語である。言われてみれば、アメリカは「美国(meiguo)」、イギリスは「英国(yingguo)」、フランスは「法国(faguo)」、ドイツは「徳国(deguo)」と、原語の音に近く、プラス評価の意味を持った文字を当てている。「非州」とは読んで字のごとく「州に非ず」だ。彼が疑問を呈するのももっともである。ちなみにヨーロッパは「欧州(ouzhou)」、アジアは「亜洲(yazhou)」で、日本から伝わった可能性が高いが、「非州」ばかりは中国オリジナルだろう。

当時、周囲の中国人教師や学生に「非州という言葉はひどくないか」と聞いてみたが、まったく反応がなかった。せいぜい「そういわれてみればそうだね」「言われるまで気が付かなかった」との感想である。しかも、現在に至ってもなおそのままだ。時々、同じ問いかけをするが、反応はかつてとそう変わらない。いくら相手が漢字の国ではないとはいえ、かなり不適切な表記ではないかと思う。日本では、「」という言葉で人を差別してきた。それだけに「非州」も余計に気にかかる。

30年前の留学時代からずっと気にかかっていることだ。世界のリーダーを目指すのであれば、なんとかすべきではないかと思う。漢字の国の文化と品位が試されている。(完)

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