行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

『山河ノスタルジア』で言い忘れたこと

2016-05-13 00:43:12 | 日記
賈樟柯監督作品の『山河故人(山河ノスタルジア)』は、挿入歌にも懐かしい時代の記憶が刻まれている。タイトルの「故人」もまた古くからの友人である。





一つは1990年代に流行ったペット・ショップ・ボーイズのディスコソング『GO WEST』。冒頭、若者たちのダンスで始まり、最後は主人公の女性タオが雪降る山西省の黄土を背景に1人で踊る。すでに25年が経過しているが、タオの動きは若さを取り戻したかのように軽快だ。時空を超えた安逸の境地に遊ぶかのようだ。彼女の幸せな表情が、良くも悪くもストーリ全体を温かく包み込んでしまう。賈監督の作風とは対極にあるように思えるが、どう解釈すべきか。

曲は何でもよかったはずだ。土地から離れることのなかった彼女の生涯を途切れることなく回想できるものであれば。国内にはそれに代わり得る曲はなかった。改革開放は文化の不毛から出発したことを暗示している。



もう一つの挿入歌は香港歌手の葉倩文(サリー・イップ)が歌う広東語の『珍重』。やはり改革開放期の1990年代に流行し、広東語ブームを生むきっかけの一つとなった。母と子を結び付ける記憶にもつながっている。当時は香港があこがれの地だった。香港は大陸が失った時期を埋める保存庫の役割を果たしたが、植民地文化を背負った歴史が中国人に屈折した感情を生んだ。豊かになった大陸の人々は、香港を通り越し、国外に出ていく。「根」を抜き去った後のことを考えずに。香港が大陸化している現在、香港人が今度は自分たちの「根」を問い直す必要に迫られているのではないだろうか。

『珍重』の歌詞は以下の通り。つたない日本語訳をつけてみた。

突然地沉默了空气(突然、空気が沈黙する)

停在途上令人又再回望你(途中で立ち止まり、あなたをまた振り返る)

沾湿双眼渐红(目は涙で真っ赤に染まり)

难藏依恋及痛悲(恋しさと悲しみは隠しようがない)

多年情不知怎说起(長い間の感情はどう表現すべきかわからない)

在何地仍然是关心你(どこにいてもあなたを想っている)

无尽长夜为陪伴我怀念你(あなたを想いながら過ごす夜はずっと明けない)

它方天气渐凉(あなたのいる地は寒いでしょう)

前途或有白雪飞(雪が降っているかも知れない)

假如能不想别离你(もしあなたと離れ離れにならずにいられるのであれば)

不肯不可不忍不舍失去你(あなたを失うなんて考えられない)

盼望世事总可有转机(世の中はきっと変わはずだ)

牵手握手分手挥手讲再见(手をつなぎ、握手をし、手を振って別れを告げる)

纵在两地一生也等你(たとえ離れていても一生あなたを待っている)

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