行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【日中独創メディア・日中関係】もう一つの歴史認識問題

2016-03-18 00:18:26 | 日記
今日、ある雑誌が企画した対談で「戦後70年の日中関係と中国の将来」とのテーマで話をしてきた。

日中間ではしばしば歴史問題あるいは歴史認識問題がホットイシューとなるが、これは戦争の評価、反省、謝罪をめぐる問題である。私は、「日中にはもう一つの歴史問題がある」と言った。ある特定の事件ではなく、歴史そのものをどうとらえるかという根本的な問題である。

対談のテーマにもあったように昨年以来、日本では戦後70年の総括がされてきた。侵略戦争への言及や謝罪が注目された安倍首相の戦後70年談話は、過去の反省に言及しつつも、「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」との言葉にウエートがあった。過去の清算である。

では中国はどうか。現状維持を望む日本に対し、経済大国に成長した中国は現状に不公平を感じ、他の新興国とスクラムを組んで米国を中心とする国際秩序の変更を求めている。習近平総書記は就任後から、中華民族の偉大な復興を実現する「中国の夢」をスローガンに掲げ、大国としての復活を夢見ている。実際、国際経済学者のアンガス・マディソン氏の世界経済長期統計によると、中国のGDPは、1820年代は世界の32・9%だったが、建国当初の1952年は5・2%しかなかった。中国の夢に語られる「復興」にはこうした民族の記憶が刻まれている。

その習近平は昨年9月3日の抗日戦争勝利70年記念軍事パレードで、「抗日戦争の勝利が、日本の軍国主義が中国を植民地とし奴隷とするたくらみを徹底的に粉砕し、近代以来、中国が受けてきた外国の侵略による民族の恥辱を雪ぎ、世界における中国の大国としての地位を改めて確立した」と演説した。中国にとって歴史は過去のものではなく、民族の復興を実現するためのバネである。簡単に清算し、先に進めるものではなく、まさに現在の政治と不可分の関係にある。

習近平には「二つの100年目標」がある。共産党創設100年(2021年)にゆとりある社会(小康社会)を全面的に築き、建国100年(2049年)には富強で、民主的で、文明を備え、調和のとれた社会主義近代化国家を建設する。つまり先進国入りである。具体的な数字の目標は、2020年にGDPと1人当たりの収入を2010年の倍に増やす所得倍増計画があり、2020年までに7000万人の貧困人口(年間収入が2800元=約4万8000円以下)を解消することも目標に掲げている。

中国は選挙による洗礼もみそぎもないため、もし公約が実現できなければ即、指導者の失脚につながる。過去からつながる二つの100年目標は至上命題である。過去を清算しようとする日本、過去をバネにしなければならない中国には、歴史、過去のとらえ方を巡ってもう一つの歴史認識問題がある。

中国人は戦争の歴史を始まりから語る。1931年9月18日の柳条湖事件から始まる満州事変を九一八事変とし、日中戦争の発端となった1937年7月7日の盧溝橋事件を七七事変と呼び、記念行事を行う。南京事件の12月13日も町中にサイレンを鳴らして記念する。この感覚も日本人にはなかなか理解できない。せめて大きな認識の違いがあること、もう一つの歴史認識問題が存在することを認識することから始めるしかないのではないか。清算しようとすればするほど、逆に反発を招く悪循環は避けたい。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿