行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

NPO法人日中独創メディアの設立総会が11月13日開かれた

2015-11-16 09:06:51 | 日記
各種世論調査は、日本と中国の間で相互の国民感情が悪化している現状を伝えている。背景には不十分な相互理解による誤解や偏見が存在していると考えられる。そこでしばしば、偏った報道が元凶であるとする「メディア悪玉論」が言われる。だが悪者を見つけて攻撃し、溜飲を下げるだけでは事態は改善しない。リップマンが『世論』で「我々は見てから定義するのではなく、定義してから見る」と言い当てた通り、情報の受け手もまた「やっぱりそうだよね」とあらかじめ持っているステレオタイプな見方を確認するために情報を選択する傾向がある。書店に並ぶ中国関連本を見れば、それは一目瞭然である。

出来上がった固定観念を変えるのは容易ではない。よっこいしょと腰を上げ、ある程度の時間と労力をかけ、忍耐強く、真実を知ろうと頭を働かせなくてはならない。目の前に差し出された情報が真実かどうか、批判の眼をもって検討しなければならない。批判精神が、悪者を見つけて納得するだけのものであるならば、一時的に感覚的な快楽を得られることはあっても、人間の精神には害悪しかもたらさない。批判精神は真実にたどりつくための道しるべである。

情報技術の進歩は情報の量を拡大したと同時に、情報の送り手も多様化させた。情報伝達手段が特定の組織に牛耳られていた時代は去り、あらゆる個人が発信者になりことができる。しかもそうした情報こそ、全面的ではないにせよ、真実の一面を伝えていることがある。求められるのは、点として得られる情報を結び付け、面を構成する想像力である。送り手と受け手が固定されるのではなく、随時入れ替わることによって、こうした想像力も磨かれる。情報の発信者となることが、批判のための批判を行う立場を脱却し、賢い情報の受け手に成長する学びの場となる。

私はこれまでの中国駐在時代、中国で暮らす日本人の声を日本に直接届けることで等身大の中国を伝え、相互理解を推進しようと考え、計3冊の本を編集、執筆にかかわってきた。2013年8月には『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(阪急コミュニケーションズ)、同年9月には、北京の新聞・通信・放送各社の中国総局長や経験者ら計22人の共著『日中対立を超える「発信力」 中国報道最前線 総局長・特派員たちの声』(日本僑報社)、2014年10月には日中の経済関係者33人による『日中関係は本当に最悪なのか 政治対立下の経済発信力』(同)を出した。

中国の在留邦人は十数万、日系企業は2万社を超えており、こうした出版活動を通じ、邦人の点を結びつけることによって様々な情報発信が可能であることを実感した。また執筆者のネットワークを土台に計7回、北京や上海で日中経済・文化講演会も開いた。3冊目の『経済発信力』は有志の翻訳スタッフによって来月には中国語版が発行される予定である。

だが一方、在留邦人の多くは企業派遣で任期終了後は帰国しなければならないため、ネットワークの継続維持が大きな課題として持ち上がった。地道に築いてきた人の輪をさらに発展させ、経済や文化など民間レベルでの情報発信力を強化するためには、出版だけではなく常時、簡便に利用が可能なインターネットやSNSの有効活用が不可欠だとの結論に達した。また、より継続的に交流事業を進めていくためには個人的な力ではなく、恒常的な組織の力が不可欠であることも痛感した。こうして、以上の活動で生まれた人の輪の土台と支援を得てNPO法人設立の構想が生まれた。

その設立総会が13日、日比谷松本楼で行われた。インターネットサイトの運営や各種講演会、座談会などのど直接的な情報伝達、さらには出版事業とざまざまな組み合わせによる独創的なメディア機能を活用し、公正で正確な相互情報発信を行う。それがひいては両国民間の相互理解を促進、強化する。開かれた情報発信のプラットフォームになるよう望んでいる。そこでNPO法人の名前は「日中独創メディア」、略称は「独創会」とすることにした。中国語名は「中日独创媒体」、英文名は「Japan-China Future Media」。役員は会長以下、日中関係の現場に身を置く仲間11人で構成する。来月には東京都に法人認証の申請を行う予定である。ホームページの発足を急ぎ、幅広い協力を求めながら、一歩一歩先に進んでいく。

NPO法人設立総会の翌日、パリの連続爆破テロが起きた。無辜の人々が多数命を失ったことを哀悼すると同時に、憎悪や恨みを再生産することのないよう、開かれた話し合い、相互理解の場が生まれることを願う。人間は神をも恐れぬ暴挙を行い得るが、同時に、極端な言説が飛び交う中、真実を感じ取る良心も持っていると信じたい。良心の声に耳を傾けるべき時である。

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