木枯らしの吹き付ける夜だった。秋子は疲れた足を引きずり家路を急いでいた。細い路地を入って街灯は途絶え、風にカサカサと揺れる葉の音だけが道しるべだった。この町に来て一年がたつが、心を打ち明けられる相手も見つけられず、金魚鉢で飼っている金魚だけが話し相手だった。ベットを置いただけの狭い部屋を思うと、孤独を運んだ木枯らしが胸の隙間に入り込んできた。
無造作にゴミがはきためられた一角で、かすかな月の光に照らされた影が動いた。子猫だった。暗がりでちらりとガラスのような目をこちらに向けたが、吹き消されそうなか弱い光だった。鳴き声さえも出てこない。「おなかがすいているのだ」。そう思った秋子はバッグの中を探った。だがついさっき、小腹がすいたたので最後のクッキーを食べてしまったことに気付いた。居ても立っても居られず、走って家に戻り、魚の缶詰を持って引き返した。
道にはぐれたかわいそうな子猫は、都会で一人暮らしをする自分のように思えた。だれにも知られず、気付かれず、ひっそりと暮らしている。おなかがすいていても、だれも気にかけてくれない。声を出すこともできない。この寒い夜、少しでも口にものを入れなければ・・・。
「早く食べ物をあげないと死んでしまう」
秋子は暗がりの中、もとの場所を探した。弱い月明かりは秋子の影を頼りなさそうに映すだけだった。ようやく見つけたと思ったとき、子猫の姿はなかった。招き寄せる音を出してみたが、反応はなかった。木枯らしが肌を刺した。昼間、薄紅色の花を垂らしていたシュウカイドウももう見えなかった。彼女の頬が白く浮き出たかと思うと、一筋の露が花びらのように流れ落ちた。
・・・・
超ショートストーリでした。秋に咲くシュウカイドウは「断腸花」の異称を持つ。哀しい女性をたとえるのにふさわしい。
無造作にゴミがはきためられた一角で、かすかな月の光に照らされた影が動いた。子猫だった。暗がりでちらりとガラスのような目をこちらに向けたが、吹き消されそうなか弱い光だった。鳴き声さえも出てこない。「おなかがすいているのだ」。そう思った秋子はバッグの中を探った。だがついさっき、小腹がすいたたので最後のクッキーを食べてしまったことに気付いた。居ても立っても居られず、走って家に戻り、魚の缶詰を持って引き返した。
道にはぐれたかわいそうな子猫は、都会で一人暮らしをする自分のように思えた。だれにも知られず、気付かれず、ひっそりと暮らしている。おなかがすいていても、だれも気にかけてくれない。声を出すこともできない。この寒い夜、少しでも口にものを入れなければ・・・。
「早く食べ物をあげないと死んでしまう」
秋子は暗がりの中、もとの場所を探した。弱い月明かりは秋子の影を頼りなさそうに映すだけだった。ようやく見つけたと思ったとき、子猫の姿はなかった。招き寄せる音を出してみたが、反応はなかった。木枯らしが肌を刺した。昼間、薄紅色の花を垂らしていたシュウカイドウももう見えなかった。彼女の頬が白く浮き出たかと思うと、一筋の露が花びらのように流れ落ちた。
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超ショートストーリでした。秋に咲くシュウカイドウは「断腸花」の異称を持つ。哀しい女性をたとえるのにふさわしい。
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