行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【期末雑感】”楽趣”という言葉のニュアンス

2018-01-21 08:12:45 | 日記
授業中、私はしばしば「興趣(xingqu)」からスタートし、「楽趣(lequ)」を見出すようにと学生に伝える。「興趣」は日本語でほぼ「興味」と同意だが、「楽趣」となるとぴったりくる言葉が見つからない。興味の先にある「楽しみ」と訳すしかない。単位取得のためいやいや勉強しても身につかない。自分の興味を大切にし、そこに楽しみを見出せば、学びの効果は高まる。『論語』には「これを知る者は、これを好む者にしかず。これを好むものは、これを楽しむ者にしかず」とある。

「楽」は中国において古代より最も重んじられる文化だった。礼楽とは、礼の社会規範によって人を導き、音楽が人の心を整え、理想的な世界を築く教えだ。儒書『礼記』には、「礼は民心を節し、楽は民声を和す」、「仁は楽に近く、義は礼に近し」、「楽は徳の華なり」の言葉がある。

人の心を明るくし、平和な気持ちを起こさせることから、「楽しみ」の意味に広がっていった。陶淵明の『桃花源記』は「怡然として自ら楽しむ」とあり、李白は『月下独酌』で「行楽はすべからく春に及ぶべし」と詠んだ。世間の塵埃から逃れ、ゆったりと、心が解き放たれた心境だ。

「音楽」の楽しみにちなんで、いつも最終授業には日本の歌を披露する。前学期はキロロの『未来へ』を、今学期は中島みゆきの『糸』を歌った。糸で結ばれたようなお互いの縁を大事にしたいとの願いを込めた。漢字の「縁」も糸へんである。中国の学生には伝わりやすい。音楽も共有することで楽しみになる。ギターが趣味の男子学生が伴奏してくれた。



ほんとんどの学生にとっては初めて聞く曲だったが、歌詞が気に入られ、その後、何人もから大好きな曲の一つになったとメールが届いた。私はローマ字を振って歌詞を説明したのだが、そのローマ字読みを全部暗記したという女子学生もいた。『糸』がきっかけで中島みゆきのファンになり、その他多数の曲を毎日聞いているという女子学生もいる。特に、現在の専攻や将来の進路について悩みを抱える学生たちには、以下のくだりが心に響くようだ。

なぜ 生きてゆくのかを
迷った日の跡の ささくれ
夢追いかけ走って
ころんだ日の跡の ささくれ

こんな糸が なんになるの
心許なくて ふるえてた風の中

縦の糸はあなた 横の糸は私
織りなす布は いつか誰かの
傷をかばうかもしれない

また、「先生から心の力をもらいました」と言って、山本容子の代表曲『心の力』をチャットで送ってきてくれた学生もいた。恥ずかしながら、私は聞いたことがなかった。とても私の手に負える曲ではないが、素晴らしい歌詞なので、以下に紹介したい。

君と過ごした時間より もっと大切なことがある
 それは勇気をくれた君のしぐさ 忘れないよ

君と過ごした時間より もっと大切なことがある
それは元気になれた君の笑顔 憶えてるから

君と歩んだ道のりは 決してやさしいものじゃない
だけど「心のちから」教えてくれた きっと大事な宝物

思い出も痛みも全て引き受けて 私は強くなって
 君といた時間を 輝く 輝く 時間にしたいから 歩き出す

君の歩んだ道のりは 決して短い道じゃない
だからいつも一緒と心の中  約束するんだね

思い出も痛みも全て引き受けて 私は強くなって
 君と見た場面を 輝く 輝く 星に映し出す いつの日も

君と歩んだ道のりは 決してやさしいものじゃない
だけど「心のちから」教えてくれた きっと大事な宝物

思い出も痛みも全て引き受けて 私は強くなって
 君といた時間を 輝く 輝く 時間にしたいから 

永遠に咲く 花のように