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漢字に関する話題など。漢字の語源・ワードファミリー。 現在、荘子「内篇」を素読しています。

荘子:斉物論第二(4) 大知閑閑,小知

2008年09月30日 00時04分59秒 | 漢籍
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荘子:斉物論第二(4)

 大 知 閑 閑 , 小 知   。 大 言 炎 炎 , 小 言   。 其 寐 也 魂 交 , 其 覺 也 形 開 。 與 接 爲 搆, 日 以 心 鬪 。 縵 者 、 窖 者 、 密 者 。 小 恐 惴 惴 , 大 恐 縵 縵 。 其 發 若 機 ? , 其 司 是 非 之 謂 也 ; 其 留 如 詛 盟 , 其 守 勝 之 謂 也 ; 其 殺 若 秋 冬 , 以 言 其 日 消 也 ; 其 溺 之 所 爲 之 ,不 可 使 復 之 也 ; 其 厭 也 如 緘 , 以 言 其 老 洫 也 ; 近 死 之 心 , 莫 使 復 陽 也 。

 大知は閑閑(カンカン)たり、小知は間間(カンカン)たり。大言は炎炎(タンタン=淡淡)たり、小言は(センセン)たり。其の寝(い)ぬるや魂交わり、其の覚(さ)むるや形開き、与(とも)に接(まじわ)りて構(コウ)を為し、日々に心を以て闘わしむ。縵(マン)なる者あり、窖(コウ)なる者あり、密なる者あり。小恐は惴惴(ズイズイ)たり , 大恐は縵縵(マンマン)たり。其の発すること機?(キカツ)の若(ごと)しとは、其の是非を司(あげつ)らうものの謂いなり。其の留まること詛盟(ソメイ)の如しとは、其の勝ちを守るの謂いなり。其その殺(サイ)すること秋冬の若しとは、以て其の日々に消ゆるを言うなり。其の溺るるの之(ゆ)くを爲(な)す所は、これを復(かえ)らしむべからざるなり。其の厭(ふさ)がること緘(カン)の如しとは、以て其の老洫(ロウキョク)なるを言うなり。死に近づける心は、復(ま)た陽(よみが)えらしむる莫(な)きなり。

 大知のあるものは、ゆったりとして落ち着いているが、小知のものはこせこせとして、こまごまと穿鑿(せんさく)する。偉大なことばは、あっさりと淡泊であるが、つまらぬことばは、いたずらに口数が多く煩わしい。その寝ているときは魂が外界と交わって夢にうなされ、その目覚めているときは肉体が外界に開かれ身体の感覚がはたらいて心が乱され、落ち着きがなくなる。そのため相互に他と交渉しあってトラブルを惹き起こし、日ごとに心の闘争をくりかえす。
 無頓着なものがあり、深刻なものがあり、こせこせと細かいものがある。小事をおそれるものは、たえずびくびくしているが、真に大きなおそれをもつものは、かえっておおらかで余裕があるように見える。
 その発動が石弓のひきがねを引くようにすばやいというのは、凡人が是非を立てて争うさまをいったものである。その頑固さが神の詛盟(ちかい)をまもるときのようだというのは、その勝利の立場を守り通そうとすることをいったものである。その殺(しぼ)み枯れるさまが秋や冬のようだというのは、凡人が日ごとに衰えていくことをいったものである。このようにして凡人は、いよいよ深みに溺れてゆき、死に近づいた精神は、もとのように蘇(よみが)えらせることは不可能なのだ。
 
line

閑閑(カンカン)
 静かに落ち着いてゆとりあるさま。


(間間)(カンカン)
 こせこせして、細かいものを区別するさま。あれこれと穿鑿する貌(かたち)。


炎炎(淡淡)(タンタン)
 あっさりとして、こだわりのないこと。

 炎炎(エンエン)「炎炎、有氣?」(荘子集解)
  「偉大なことばは、もえさかる炎のように美しく・・・」(森三樹三郎)


(センセン)
 くどくどとしつこくものをいう。


其の寝(い)ぬるや魂交わり、其の覚(さ)むるや形開く
 寝ても覚めても心身の平静が喪(うしな)われていること。

 「其の寝(い)ねたるときは魂(ゆめ)に交(うな)され」(福永光司)


与(とも)に接して構(コウ)を為し、日ごとに心を以て闘う
 相互に他と交渉しあってトラブルを惹き起こし、日々に精神を闘争に耗(す)りへらして雑念妄想に苦しめられること。



 ■音
  【ピンイン】[jiao4]
  【漢音】コウ 【呉音】キョウ
  【訓読み】あな、ふかい
 ■解字
  会意兼形声。「穴(あな)+音符告(とどく、行きづまる)」。
 ■意味
  (1)あな。行きづまりの土のあな。
  (2)ふかい(ふかし)。あなのようにふかい。


小恐惴惴(小恐は惴惴)
 「惴(ズイ)」はびくびくと懼れ戦(おのの)くこと


大恐縵縵(大恐は縵縵)
 真に大きなおそれをもつものは、かえっておおらかで余裕があるように見える。
 
 「縵縵」呆然として生きたる心地もしない有様。(福永光司)


其發若機?
 其の発(はな)つこと(ゆはず)・?(やはず)の若(ごと)し


詛盟(ソメイ)
 ちかう。誓約する。ちかい。
 「詛」は「言+音符且(ものを積みかさねる)」で、ことばをかさねて神に祈ったり、ちかったりすること。

其留如詛盟
 「其の留(まも)ること詛(かみ)に盟(ちか)えるが如し」(福永光司)

其守勝之謂也
 「其の勝ちを守(お)しとおさんとするものの謂(さま)なり」(福永光司)


其溺之所爲之,不可使復之也
 「其の溺(まど)いの之(すす)み為(ゆ)く所、之を復(かえ)さしむべからず」(福永光司)

 次の、「死に近づける心は、復(ま)た陽(よみが)えらしむる莫(な)し」とともに、「日に日にその精神を耗(す)りへらしてゆく世俗の人間の狂惑、恰も封緘(ふうかん)されたように物欲に掩われた老いの日の妄想が、施すすべのない”死に至る病”だというのである」(福永光司)



 ■音
  【ピンイン】[xu4]
  【漢音】キョク 【呉音】コク
  【訓読み】みぞ
 ■解字
  会意。血は、皿(さら)の上に、―印をそえて血のたまったさまを描いた象形文字。
  洫(キョク)は「水+血」で、血がからだの血管をめぐるように、田畑をめぐって水を与えるみぞを示す。
  ただしキョクという語は、域(くぎり、わく)と同系で、田畑の外わくをなすみぞのこと。
 ■意味
  みぞ。田畑の外わくをなすみぞ。田畑の通水路。

 「其の厭(おお)われたること緘(とざ)さえたるが如(ごと)しとは、以て其の老いて洫(ものほ)しげなるを言うなり」(福永光司)
 「其の厭(おお)わるること緘(と)ずるが如しとは、以て其の老いて洫(あふ)るるを言うなり」(森三樹三郎)




「東」に似た部首?(柬)について

2008年09月28日 13時45分18秒 | 漢字質問箱ログ

 [ブログ内検索] [漢字に関する書籍] [漢字源] [中国古典選]
東に似た部首? 投稿者:瀋陽  投稿日:2008年 9月28日(日)12時38分51秒

 諫早 欄干 波瀾万丈などに使われる
 東に似た部分があります。これ単身の漢字は
 なさそうです。これはどのような意味で使われているのでしょうか
 ちなみに東の部首は木のようですが、これは木で引いても
 出てきません。教えていただけないでしょうか。


 瀋陽さんへのお返事です。

 「柬」という字は単独で存在します。
 「諫」と「欄」、「瀾」などは、別の家族に属するようです。

【柬】
 ■解字
  会意。「束(たば)+八印(わける)」。たばねたものをよりわけることを示す。
 ■音
  【漢音】カン 【呉音】ケン
  【訓読み】えらぶ
 ■意味
  えらぶ。えりわけて取り出す。選抜する。

【諫】
 ■解字
  会意兼形声。「言+音符(カン・よしあしをわける、おさえる)」。
 ■意味
  いさめる(いさむ)。いさめ。目上の人の言動をよりわけて、不正をおさえとどめるために意見する。


【欄】
 ■解字
  会意兼形声。「木+音符(ラン・さえぎる)」で、横に連ねて出入りを止める棒のこと。

【瀾】
 ■解字
  会意兼形声。は、出入り口の左右を横につないで出入りをとめること。瀾は「水+音符闌」で横に波頭をつらねたなみ。ずるずるとつながる意味を含む。⇒闌


【東】 の部首は「木」ではありません。
 「東」=「木+日」という説は誤りです。(訂正します)
 これは、本編にありますので、是非こちらをごらんください。
   ↓
10.「東」「同」「通」「衝」「童」「用」 ・・・(つきとおる)の家族

Re: 東に似た部首? 投稿者:nori  投稿日:投稿日:2008年 9月28日(日)14時00分35秒

nothingさん、お久しぶりです。

東の部首の件ですが、次のように考えております。

部首とは辞書編集者が辞書利用の便宜を目的に、楷書なり明朝体なりの、字形上の特徴から(その時の知見をもとにして)漢字を分類したもの。従って、特に、字源研究が進めば、字源とはかけはなれてしまう場合がある。

「東」=「木+日」という説は俗説だと思います。しかし、現在、木に分類している辞書がほとんどなので「東の部首は木である」のはしかたがないと思っています。というか、部首ってそういうものなんだろうな、と。

そこで質問ですが、東の部首を新たに設定するとしたら何でしょうか?
御意見をいただければ幸いです。

Re: 東に似た部首? 投稿者:nothing  投稿日:2008年 9月28日(日)22時42分11秒

noriさんへのお返事です。


> 部首とは辞書編集者が辞書利用の便宜を目的に、楷書なり明朝体なりの、字形上の特徴から(その時の知見をもとにして)漢字を分類したもの。

そのとおりですね。
字源的に「東=木+日」で成り立っているわけではない、とはいえますが、
東の部首は「木」ではない、とはいえないですね。
訂正いたします。

今、説文解字を見てみますと、「従木」とありましたので、多くの辞書ではこれにもとづいて部首を「木」としていると思います。(基本的には「康熙字典」を踏襲しているはずですが)
引く側から見れば、これは自然なことで引きやすいと思います。
すでに何度もコメントしていますが、長澤規矩也著の三省堂の明解漢和辞典では、
もちろん「木」で引けると思いますし、
「勝」という字も語源にかかわらず、「月」で引けるようになっています。

「部首」での分類をはじめた説文にしたがえば当然「木」となりますし、他の辞書でも同様だと思います。
「字源」と「部首」とは別々に考えないといけませんね。
回答をあせると、こういうミスがでます。
ご指摘ありがとうございました。

> そこで質問ですが、東の部首を新たに設定するとしたら何でしょうか?

新たに設定する必要性はないと思います。

Re: 東に似た部首? 投稿者:瀋陽  投稿日:2008年 9月28日(日)18時09分55秒

nori様へ、nothing様へ
ご丁寧なご回答まことに恐縮です。

nothing様の
>「柬」という字は単独で存在します。

でもう一度よくみましたら
木の部の5画目にありました。
失礼いたしました。

漢字に理解不足な私にとって音も意もわから
ないもののとき、漢和辞典(漢辞海)を持ち出して
もいつも苦労しています。音がわかれば国語辞典で
引いてしまい、漢和辞典は敬遠しがちで、なかなか
慣れません。

大変助かりました。どうもありがとうございました。


以上


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荘子:斉物論第二(3) 敢問天籟

2008年09月28日 11時42分24秒 | 漢籍
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荘子:斉物論第二(3)

 子 游 曰 : 「 地 籟 則 ? 竅 是 已 , 人 籟 則 比 竹 是 已 , 敢 問 天 籟 。 」

 子 ? 曰 : 「 夫 天 籟 者 , 吹 萬 不 同 , 而 使 其 自 己 也 。 咸 其 自 取 , 怒 者 其 誰 邪 ? 」



 子游曰わく、地籟(チライ)は則ち衆竅(シュウキョウ)これのみ。人籟(ジンライ)は則ち比竹これのみ。敢えて天籟(テンライ)を問う」と。

 子?(シキ)曰わく、夫(そ)れ吹くこと万(よろず)にして同じからざれども、而(しか)も其れをして己(おのれ)に自(したが)わしむ。咸(ことごと)く其れ自(み)ずから取るなり。怒(おと)たてしむる者は、其れ誰ぞや」と。


 子游が言った、「地籟(地のふえ)とは、もろもろの穴のこと、人籟(人のふえ)とは竹管のことですね。恐縮ですがおうかがいします、天籟(天のふえ)とは何かをお教えください」と。

 子?が答えた、「全ての穴や竹管など、音をたてるものはさまざまで同じではないが、それぞれに自分の音を出しているのだ。すべて自己自身の原理によって響きとなる。背後において響きとならしめる何者かが存在するであろうか」と。

line

地籟・人籟・天籟(チライ・ジンライ・テンライ)
 子?は、地籟人籟のほかに、さらに天籟という別の響きがあるのではなく、地籟を地籟として聞き、人籟を人籟として聞くことが、そのまま天籟なのだという。
 自己自身の原理によって響きとなる万籟を、そのまま万籟として聞くのが「天籟」。
 「天」とは、人と地を超越する何ものかではなく、人が人であり、地が地であることそれ自身。つまり天とは自然(あるがまま)ということ。

 彼は、一切存在をそのまま肯定するから、一切存在と一つになることができる。すなわち「吾れが我れを喪(わす)れた」という境地。その境地にいたってこそ、自己は始めて真の自己となる。机に隠(もた)れて深く大きく息をつく南郭子?は、自己と世界の一切を「天籟」として聞いているのである。
[「荘子内篇 -- 福永光司」を参照 ] 




 ■音
  【ピンイン】[gan3]
  【呉音・漢音】カン
  【訓読み】あえてする、あえて
 ■解字
  会意兼形声。甘は、口の中に含むことをあらわす会意文字で、拑(カン・封じこむ)と同系。
  敢は、古くは「手+手+/印(払いのける)+音符甘(カン)」で、封じこまれた状態を、思い切って手で払いのけること。
  函(カン・封じこめる)・檻(カン・押しこめる)・掩(エン・押さえこむ)などの仲間から派生して、その押さえをおしのける意に転じたことば。
 ■意味
  (1)あえてする(あへてす)。圧迫や気がねをはねのけて思い切ってやる。
  (2)あえて(あへて)。思い切って。はばからずに。
   「敢問=敢へて問ふ」「敢問死=敢へて死を問ふ」〔論語・先進〕
   「敢請=敢へて請ふ」〔孟子・梁下〕
  (3)「不敢…」とは、あえて…ずと訓読して、思い切ってやりかねることをあらわすことば。
   「会其怒、不敢献=其の怒りに会ひ、敢へて献ぜず」〔史記・項羽〕
  (4)「敢不…」とは、あえて…ざらんやと訓読して、せずにおられようかの意で、反問をあらわすことば。「観百獣之見我而敢不走乎=百獣の我を見て敢へて走げざらんを観よ」〔戦国策・楚〕




荘子:斉物論第二(2) 而獨不見之調調 ,之刁刁乎

2008年09月28日 05時26分22秒 | 漢籍

荘子:斉物論第二(2)

 子 游 曰 : 「 敢 問 其 方 」、 子 ? 曰 : 「 夫 大 塊 噫 氣 , 其 名 為 風 。 是 唯 無 作 , 作 則 萬 竅 怒 ? 。 而 獨 不 聞 之 ? ? 乎? 山 林 之 畏 佳 , 大 木 而 圍 之 竅 穴 , 似 鼻 , 似 口 , 似 耳 , 似 枅 , 似 圈 , 似 臼 , 似 ? 者, 似 汚 者 。 激 者 、 ? 者 、 叱 者 、 吸 者 、 叫 者 、? 者 、 ? 者 , 咬 者 , 前 者 唱 于 而 隨 者 唱 ? , ? 風 則 小 和 , 飄 風 則 大 和 ,  風 濟 則 衆 竅 為 ? 。 而 獨 不 見 之 調 調 , 之 ? ? 乎? 」

 子游(シユウ)曰わく、「敢(あ)えて其の方(ことわり)を問う」と。

 子?曰わく、夫(そ)れ、大塊(タイカイ)の噫気(アイキ・おくび)は其の名を風と為(な)す。是れ唯(ただ)作(おこ)ることなきのみ。作れば則ち萬竅怒?(バンキョウドゴウ)す。而(なんじ)は独り之の??(リュウリュウ)たるを聞かざるか。山林の畏隹(ワイサイ)たる、大木百囲の竅穴(キョウケツ)は、鼻の似(ごと)きもの、口の似(ごと)きもの、耳の似(ごと)きもの、枅(ますがた)の似(ごと)きもの、圈(さかずき)の似(ごと)きもの、臼の似(ごと)きもの、?(ア・ふかきくぼみ)の似(ごと)きもの、汚(オ・ひろきくぼみ)の似(ごと)きものあり。激(しぶき)の者(おと)あり、?(さけ)ぶ者(おと)あり、叱(しか)る者(おと)あり、吸う者(おと)あり、叫ぶ者(おと)あり、?(なきさけ)ぶ者(おと)あり、?(くぐも)れる者(おと)あり、咬(か)む者(おと)あり。前なる者は于(ウ・ふうっ)と唱え、而して隨(したがう・あとなる)者は?(ギョウ・ごうっ)と唱う。?風(レイフウ)は則ち小和し、飄風(ヒョウフウ)は則ち大和す。風(レイフウ)済(や)めば則ち衆竅(シュウキョウ)も虚と為(な)る。而(なんじ)独り之(こ)の調調(チョウチョウ)たると之の??(チョウチョウ)たるを見ざるかと。


 子游が言った、「ぜひともそのことについてお教えください」と。

 子?は答えて言った、「そもそも大地のあくびで吐き出された息、それを風という。この風は、吹き起こらなければそれまでだが、一たび吹き起これば、すべての穴という穴が激しく音をたてはじめる。お前は、その音を聞いたことがないか。山の木立がざわめき揺れて、百囲(かか)えもある大木の穴は、鼻の穴のような、口のような、耳の穴のような、枅(ますがた)のような、杯(さかずき)のような、臼(うす)のような、深く狭い窪地(くぼち)のような、広い窪地のような形のものに風が吹きあたれば、水のいわばしる音、高々とさけぶ音、するどい声で叱りつけるような音、吸い込むような音、金切り声で叫ぶような音、泣きさけぶような音、こもった音、咬(とおぼえ)する音がして、前のものが于(ううっ)とうなると、後のものは?(ごうっ)とこたえる。そよ風のときには小さく和(こた)え、つむじ風が舞いあがるときには大きく和(こた)える。そして大風一過して天地がもとの清寂に帰ると、もろもろの穴はひっそりと静まりかえる。お前はあの、風の中の樹々が、ざわざわ、ゆらゆらと揺れ動くさまを見たことがないか」と。

line

大塊(タイカイ)
 大地


噫気(アイキ)
 (1)はく息。
  「夫大塊噫気、其名為風=それ大塊の噫気は、其の名を風と為す」
 (2)胃にたまったガスが口から出るもの。げっぷ。おくび。《同義語》?気。


 ■音
  【ピンイン】[ai4]
  【漢音】アイ 【呉音】
  【訓読み】ああ、おくび
 ■解字
  会意兼形声。意は、「音(口をふさぐ)+心」の会意文字で、黙って心の中におさめたため、胸がつかえることを示す。憶の原字。
  噫は「口+音符意」で、胸がつまって出る嘆声。
 ■意味
  胸がつかえて出るげっぷ。《類義語》⇒?(アイ)。



 ■音
  【ピンイン】[ji1]
  【漢音】ケイ 【呉音】ケン
  【訓読み】ますがた
 ■意味
  ますがた。柱の上に置き、棟を支える角材。


?
 ■音
  【ピンイン】[liao2]
  【漢音】リュウ 【呉音】
 ■解字
  会意。「羽+(?-羽・まじる)」。離れる、もつれるの両方の意味をあらわす。
 ■意味
  (1)鳥がつきつ離れつして高い空を飛ぶ。
  (2)「??(リュウリュウ)」とは、風が物の間を吹きぬけるさま。
   「独不聞之??乎=独りこれが??たるを聞かざるか」


畏隹(ワイサイ)
 木立のざわめき揺れる有様(郭象)
 「即畏隹、猶隹巍」(荘子集解)

 山陵の畏佳(イシ)たる・・・
  畏佳(イシ)と読んで、「山の尾根がうねうねとめぐっているところ」(金谷治)
  「畏佳(イシ)は山の高低ありて槃回(めぐ)るさま」(司馬氏)


(ゲキ)
 【ピンイン】[ji1]
 ■解字
  会意兼形声。右側は「白+放」の会意文字で、水が当たって白いしぶきを放つこと。
  激はそれを音符とし、水印を加えてその原義を明示したもの。
 ■意味
  (1)はげしい(はげし)。水が岩に当たってくだけるほど勢いが強いさま。
  (2)はやい(はやし)。しぶきを飛ばすほどはやいさま。
 「宣云。激、如水激聲。?如箭去聲。叱出而聲粗。吸入而聲細。叫高而聲揚。?下而聲濁。?深而聲留。咬鳴而聲清。皆状竅聲」(荘子集解)


?(コウ)
 【ピンイン】[xue4]
 さけぶ。大声でさけぶ。



 ■音
  【ピンイン】[chi4]
  【漢音】シツ 【呉音】シチ
 ■解字
  会意。七は切の原字で、鋭い刃でさっと切ること。叱は「口(くち)+七」で、しっと鋭くどなる意。
 ■意味
  しっと鋭い声でしかりつける。



 ■音
  【ピンイン】[jiao4]
  【呉音・漢音】キョウ
  【訓読み】さけぶ、さけび、よぶ
 ■解字
  会意兼形声。右側は、糾(キュウ)の原字で、なわをよじりあわせたさまを描いた象形文字。
  叫はそれを音符とし、口を加えた字で、金切り声(しぼり声)でさけぶこと。
 ■意味
  さけぶ。さけび。のどを絞めてかん高い声でさけぶ。また、さけび。


?
 ■音
  【ピンイン】[hao2]
  【漢音】コウ 【呉音】ゴウ
  【訓読み】さけぶ
 ■解字
  会意兼形声。「言+(音符)豪(ゴウ・大きい)」。


?
 ■音
  【ピンイン】[yao3]
  【呉音・漢音】ヨウ
 ■解字
  会意兼形声。「宀+(音符)夭(ヨウ)」。夭は細くかすかで、よく見えない意を含む。
 ■意味
  (1)暗くてみえにくい、家の東南のすみ。また、一説に、東北のすみ。
   「鶉生於?=鶉?に生ず」〔徐無鬼篇〕
  (2)音のこもったさま。音が、かすかに響くさま。
   「?者=?なる者」〔斉物論篇〕



 ■音
  【ピンイン】[jiao3 / yao3]
  【漢音】コウ 【呉音】キョウ
 ■解字
  会意兼形声。「口+音符交(交差させる)」で、上下のあごや歯を交差させてぐっとかみしめること。
 ■意味
  かむ。あご、または歯をかみあわせる。



 ■音
  【ピンイン】[yu2]
  【呉音・漢音】
 ■解字
  指事。息がのどにつかえてわあ、ああと漏れ出るさまを示す。直進せずに曲がるの意を含む。
 ■意味
  ああ。わあ、ああという嘆息の声をあらわすことば。


?
 ■音
  【ピンイン】[yong2]
  【漢音】ギョウ 【呉音】グ、グウ
  【訓読み】あぎとう
 ■解字
  形声。「口+(音符)禺(グウ)」。
 ■意味
  (1)あぎとう(あぎとふ)。魚が口を水面に出してぱくぱくと呼吸する。
  (2)呼びあう声。
   「前者唱于、而随者唱?=前者は于と唱へ、随者は?と唱ふ」
  (3)「??(ギョウギョウ)」とは、人が仰ぎ慕うさま。また、魚が水面で呼吸するさま。
   「??魚闖萍=??として魚は萍を闖ふ」〔韓愈・南山詩〕


?風(レイフウ)
 さわやかなそよ風。
 「?風則小和=?風は則ち小和す」
 「李云、?、小風也。爾雅、回風為飄。」(荘子集解)


飄風(ヒョウフウ)
 「飄」は、つむじかぜ。舞いあがる旋風。
 「李云、?、小風也。爾雅、回風為飄。」(荘子集解)


風(レイフウ)
 (1)はげしい風。烈風。〔荘子・斉物論〕
 (2)西北の風。〔呂氏春秋・有始〕


?
 ■音
  【ピンイン】[diao1]
  【呉音・漢音】チョウ
 ■解字
  象形。舌の揺れる鈴を描いたもの。
  (チョウ・ぶらぶらたれさがって揺れる)と同系。
 ■意味
  (1)ぶらぶらと舌の揺れる鈴。
  (2)動揺して定まらない意から、ずるがしこい。「外頑(チョウガン・ずるいわからず屋)」
 「郭云、調調、??、皆動揺貌」(荘子集解)




荘子:斉物論第二(1) 女聞地籟而未聞天籟夫

2008年09月25日 04時57分05秒 | 漢籍
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荘子:斉物論第二(1)

 南 郭 子 ? 隱 几 而 坐 , 仰 天 而 嘘 , 荅 焉 似 喪 其 ? 。 顏 成 子 游 立 侍 乎 前 , 曰 : 「 何 居 乎? 形 固 可 使 如 槁 木 , 而 心 固 可 使 如 死 灰 乎 ? 今 之 隱 几 者 , 非 昔 之 隱 几 者 也 ?」
 子 ? 曰 :「偃 ,不 亦 善 乎 ,而 問 之 也! 今 者 吾 喪 我 ,汝 知 之 乎 ? 女 聞 人 籟 而 未 聞 地 籟 ,女 聞 地 籟 而 未 聞 天 籟 夫 ! 」



 南郭子?(ナンカクシキ)、几(キ・つくえ)に隠(よ)りて坐(ザ)し、天を仰いで嘘(いき)つけり。荅焉(トウエン)として其の?(からだ)を喪(わす)るるに似たり。顔成子游(ガンセイシユウ)、前に立侍(リツジ)し、曰わく、何居(なん)ぞや、形(からだ)は固(もと)より槁木(コウボク)のごとくならしむべく、心は固より死灰(シカイ)のごとくならしむべきか。今の几(つくえ)に隠(よ)る者は、昔(さき)の几に隠(よ)る者に非(あら)ざるなり」と。
 子?曰わく、偃(エン)よ、亦(ま)た善からずや、而(なんじ)のこれを問えること。今者(いまは)、吾れ我れを喪(わす)れたり、汝(なんじ)これを知れるか。汝は人籟(ジンライ)を聞くも、未(いま)だ地籟(チライ)を聞かざらん。汝は地籟を聞くも、未だ天籟(テンライ)をきかざらんかな」と。


 南郭子?(ナンカクシキ)が机にじっと隠(よ)りかかって、天を仰いでゆったりと大きく息をついた。うつろな心に身も世も忘れたかのようである。弟子の顔成子游(ガンセイシユウ)がその前に立ってひかえていたが、質問してこう言った「いかがなされましたか、肉体はもちろん枯れ木のようにすることができるし、心はもちろん『死(つめた)き灰』 ─ 火の消え失せた灰のようにすることができるというのはこのことなのでしょうか。今日の机にもたれたお姿は、今までのお姿とは違って格別でございますが」と。
 子?は答えた、「偃(エン)よ、よい質問だ。鋭い観察ができているよ。今の場合は、私は自分の存在を忘れたのだ。お前にはそれがわかるかな。お前は人籟(ジンライ)を聞いているとしても、まだ地籟(チライ)を聞いたとはいえない、地籟を聞いたとしても、まだ天籟(テンライ)を聞いたことはないであろう」と。

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南郭子?(ナンカクシキ)
 「子?」は人名。「南郭」は城郭(まち)の南はずれ、そこに住んでいたので南郭子?と呼ばれる。南伯子?(ナンパクシキ)とも南伯子葵(ナンパクシキ)とも記され、人間世篇、大宗師篇および雑篇の徐無鬼篇などにも見えている楚の哲人。


几(字形)

 ■音
  【ピンイン】[ji1 / ji3]
  【呉音・漢音】
  【訓読み】つくえ、いく
 ■解字
  象形。足つきの四角い台を描いたもの。机(キ)の原字。
 ■意味
  (1)つくえ。また、物をのせる足つきの四角い台。《同義語》⇒机。
   「茶几(チャキ・ちゃぶだい)」
   「床几(ショウギ)」「几上」
   「隠几而臥=几に隠りて臥せり」〔孟子・公下〕
  (2)いく。いくつ。
   幾(キ)に当てた用法。「几個(チイコ・いくつ)」


坐(字形)

 ■音
  【ピンイン】[zuo4]
  【呉音】ザ 【漢音】
  【訓読み】すわる、いながらにして、すずろに、そぞろに、おわします、おわす
 ■解字
  会意。「人+人+土」で、人が地上にしりをつけることを示す。
  すわって身たけを短くする意を含む。
  のち、名詞的な意味をあらわすことばには座を用いたが、常用漢字では、動詞・名詞ともに座に統一した。
 ■意味
  すわる。こしかける。ひざを曲げて席につく。「静坐(セイザ)」
  「席不正、不坐=席正しからざれば、坐せず」〔論語・郷党〕



 ■音
  【ピンイン】[da2]
  【漢音】トウ(タフ) 【呉音】トウ(トフ)
  【訓読み】あう、あわせる
 ■解字
  会意。「艸+合」で、さやのあわさった豆。
 ■意味
  (1)小粒の豆。あずき・緑豆など。
  (2)こたえる。《同義語》⇒答。「報荅(ホウトウ)(=報答)」
  (3)あう(あふ)。あわせる(あはす)。あう。あわせる。
 「釈文、荅、解體貌。本又作?」(荘子集解)


?
 ■音
  【ピンイン】[ou3]
  【慣用音】グウ 【漢音】ゴウ  【呉音】
  【訓読み】あう
 ■解字
  会意兼形声。「耒(すき)+(音符)禺(グ・人に似たさる、似た相手)」。似た者二人が並んですきをとること。
 ■意味
  (1)(グウす)二人並んで耕す。
   「依依在?耕=依依たるは?耕に在り」〔陶潜・辛丑歳七月〕
  (2)なかま。また、相手。《同義語》⇒偶。
   「配?(ハイグウ)」
  (3)(グウす)あう(あふ)。むかいあう。また、二つが組になる。《同義語》⇒偶。
   「?語(グウゴ)」
   「長沮桀溺?而耕=長沮桀溺?して而耕す」〔論語・微子〕
  (4)二つにきれいに割れる数。偶数。《同義語》⇒偶。

 「?本亦作偶。兪云、?當讀為寓、寄也。即下文所謂、吾喪吾也」(荘子集解)
 『釈文』の司馬氏説は「わが身なり」という。後文の「吾れ我れを喪る」に当たる。

荅焉似喪其?
 福永光司先生は、?の本来の意味にしたがって、「荅焉(トウエン)としてうつろなるさまは、其の?(つま)に喪(し)にわかれたるが似(ごと)し」と読む。



 ■音
  【ピンイン】[gao3]
  【呉音・漢音】コウ
  【訓読み】かれる
 ■解字
  会意兼形声。「木+音符高(たかくかわいた)」で、かわいた木。
  稿(かわいたわら)と同系。
 ■意味
  (1)水分を失ってかたく、色もあせて白くなったかれ木。
   「槁骨(コウコツ)」「折槁振落=槁を折き落を振るふ」〔淮南子・人間〕
  (2)かれる(かる)。かわいている。ひからびたさま。水気がなくなる。《類義語》⇒?(コウ)。
  (3)さらしてかわかす。
 「槁木死灰」からだは、かれた木のように、心は、灰のように生気のないさま。


人籟・地籟・天籟(ジンライ・チライ・テンライ)
 斉物論篇(2)を参照。





荘子:逍遥遊篇 魅力的な語り口で荘子の世界に

2008年09月23日 05時18分11秒 | Weblog

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 逍遥遊篇では、開巻劈頭に鵬鯤の大いなる飛翔を描き、そしてその偉大なる飛翔に象徴される「神人」の、世俗の価値からの超越を語る。小さいものに対する偉大なるもの、世間の常識にとらわれたちっぽけな世界に対する、自由闊達な「大」の世界を説く。

 この篇の最後には、「小」の世界からの恵施の批判と、それに対する荘子の反論を付け加えている。

 恵施は、荘子の思想があまりにも超世俗的で、現実的には何の役にもたたないといって非難する。

 それに対する荘子の答えは「無用の用」。

 例えば、とほうもなく大きな瓢(ひさご)とまがりくねった樗(おうち)の大木の使い方。

 恵施は、世間の常識に従って、大きすぎる瓢を飲み物用の容器にしようとしたり、分割して柄杓(ひしゃく)として使おうとする。

 けれども、常識を超えたものに対しては、常識は通用しない。容器にすると重すぎて持ち運ぶことができないし、柄杓にすると底が平たくて水がこぼれてしまう。

 そこで常識人は、自分の無能を棚にあげて「これは無用だ!」と叫ぶ。

 それに対して荘子は、その瓢を浮き袋として使って、雄大な長江の流れか広々とした湖に浮かんで、大自然の中でのびのびと遊べばいいではないかという。

 規矩(キク)と縄墨(ジョウボク)も、世間的な価値と規範をさす。

 常識人は、世間的な価値を超えたものには太刀打ちできない。常識的な有用さの基準で処理しようとするから、とても歯が立たない。歯が立たないから、真に「大」なるものは、ついには「無用」のレッテルが貼られ、常識の世界から罵倒と嘲笑を受け、放り出され抹殺される。


 蜩(チョウ)と学鳩(ガクキュウ)とこれを笑いて曰(い)わく、奚(なに)を以て九万里に之(のぼ)りて南することを為さん
 斥鴳(セキアン)これを笑いて曰わく、彼且(まさ)に奚(いず)くに適(ゆ)かんとするや
 衆の同じく去(す)つる所なり

 常識人は「無用の用」ということを知らない。

 常識を超えた大木なら、「無何有の郷」(ムカユウのキョウ)、「広漠の野」(コウバクのヤ)に立てればよいではないか。

 逍遥遊篇では、何ものにも束縛されることのない絶対に自由な境地を魅力的な語り口で解き明かしてくれている。

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荘子:逍遥遊第一(14) 何不樹之於無何有之,廣莫之野

2008年09月23日 00時11分44秒 | 漢籍
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荘子:逍遥遊第一(14)

 惠 子 謂 莊 子 曰 : 「 吾 有 大 樹 , 人 謂 之 樗 。 其 大 本 擁 腫 而 不 中 繩 墨 , 其 小 枝 卷 曲 而 不 中 規 矩 。 立 之 塗 , 匠 者 不 顧 。 今 子 之 言 , 大 而 無 用 , 衆 所 同 去 也 。 」

 莊 子 曰 : 「 子 獨 不 見 狸 牲 乎 ? 卑 身 而 伏 , 以 候 敖 者 ; 東 西 跳 梁 , 不 辟 高 下 ; 中 於 機 辟 , 死 於 罔 罟 。 今 夫 ? 牛 , 其 大 若 垂 天 之 雲 。 此 能 為 大 矣 , 而 不 能 執 鼠 。 今 子 有 大 樹 , 患 其 無 用 , 何 不 樹 之 於 無 何 有 之  , 廣 莫 之 野 , 彷 徨 乎 無 為 其 側 , 逍 遙 乎 寢 臥 其 下 。 不 夭 斤 斧 , 物 無 害 者 , 無 所 可 用 , 安 所 困 苦 哉 !



 恵子、荘子に謂(い)いて曰わく、「吾に大樹あり、人これを樗(チョ・おうち)と謂う。其の大本(タイホン・みき)は擁腫(ヨウショウ)して縄墨(ジョウボク)に中(あ)たらず、その小枝は巻曲(ケンキョク)して規矩(キク)に中たらず。これを塗(みち)に立つるも、匠者(ショウシャ)顧みず。今、子の言は大にして無用、衆の同(とも)に去(す)つる所なり」と。

 荘子曰わく、「子は独(ひと)り狸牲(リセイ)を見ざるか。身を卑(ひく)くして伏し、以て敖者(ゴウシャ)を候(うかが)い、東西に跳梁(チョウリョウ)して高下を避(さ)けざるに、機辟(キヘキ・わな)に中(あ)たりて、罔罟(モウコ・あみ)に死す。今、夫(か)の?牛(リギュウ)は、其の大なること垂天(スイテン)の雲の若(ごと)し。此れ能く大たるも、而(しか)も鼠(ねずみ)を執(とら)うること能(あた)わず。今、子に大樹ありてその無用を患(うれ)う。何ぞこれを無何有(ムカユウ)の郷(キョウ)、広漠(コウバク)の野(ヤ)に樹(う)え、彷徨乎(ホウコウコ)として其の側(そば)に無為(ムイ)にし、逍遥乎(ショウヨウコ)として其の下に寝臥(シンガ)せざるや。斤斧(キンフ)に夭(たちき)られず、物の害する者なし。用うべき所なきも、安(なん)ぞ困苦する所あらんや」と。


 恵子が荘子にむかって話しかけた、「私のところに大木があって、人はこれを樗(おうち)とよんでいますが、その幹はふしくれだったこぶだらけで直線はひけず、その小枝は曲がりくねって、規(ぶんまわし=コンパス)や矩(さしがね)は使えない。だから道ばたに立てておいても大工はふりむきもしません。ところで、あなたの話も大きすぎて用いようがないから、人々みんなにそっぽを向かれるのですなあ」と。

 荘子はいった、「あなたは、あの狸牲(いたち)を見たことがないのですか、世間の人間なら誰でも見ていることだから、あなただけが知らないはずはあるまいに。身を低めて隠れていて、ふらふらと出てくる小さな獲物(えもの)にねらいをつけ、あちこちと跳びはねて高い所へも低い所へもゆくけれども、結局はその器用さがわざわいして機辟(わな)に中(はま)り、罔罟(あみ)にかかって殺されます。ところであの?牛(からうし)は、その大きいことはまるで大空いっぱいに広がった雲のようで、とても大きいけれど、小さな鼠(ねずみ)をつかまえたりはしないのですよ。今あなたのところに大木があって、それを使いようがないとご心配のようですが、どうして、それを物一つない世界、人ひとりいない曠野の真中に立てて、その側(かたわ)らに一切の人間的なるものを超越して自由なる孤独を彷徨し、その下に満ち足りた安らかさをねそべって豊かな生の充溢を逍遥しないのですか。世間から無用のレッテルをはられ、大工からも見捨てられたこの樗(おうち)の大木は、自己の天然のよわいを全うして、「斤斧」すなわち、まさかりやおのに刈り倒されることもなく、すべての物から安全な自己を確保するでしょう。世間的に無価値とされるからといって、何も気に病むことはないではありませんか」と。

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(チョ・おうち)
 (1)木の名。
  にがき科の落葉高木。皮はあらく、材は柔らかくて白く、用途はない。葉に臭気がある。にわうるし。臭椿(シュウチン)ともいう。
  昔、日本では、みつばうつぎ科のごんずいにこの字を当てた。
 (2)役にたたないもの。無用の長物。「樗散(チョサン)」


擁腫(ヨウショウ)
 こぶが盛りあがっているようにはれあがる。
 「其大本擁腫而不中縄墨=其の大本擁腫して縄墨に中たらず」


縄墨(ジョウボク)
 すみなわ。


規矩(キク)
 コンパスと、さしがね(かぎ型のじょうぎ)。
 「其小枝巻曲而不中規矩=其の小枝は巻曲して規矩に中たらず」



 ■音
  【ピンイン】[tu2]
  【漢音】ト 【呉音】ズ(ヅ)、ド
  【訓読み】ぬる, どろ, まみれる, みち
 ■解字
  会意兼形声。塗は「水+土+音符余」。
  余は、こてや、スコップでおしのけることを示す会意文字で、どろを伸ばしぬる道具を示す。上部はそれに水をそえて、どろどろの液体をこてで伸ばしてぬること。さらに土を加えて塗の字となった。
 ■意味
  みち。もと、どろを平らに伸ばしたみち。のち、広く、みちのこと。《同義語》⇒途。
  「塗不拾遺=塗に遺ちたるを拾はず」〔史記・孔子〕



機辟(キヘキ)
 {機臂(キヒ)}鳥獣を捕らえるわな。
 「中於機辟、死於罔罟=機辟に中たりて、罔罟に死す」


罔罟(モウコ)
 =網罟。鳥獣や魚をとるあみ。
 「罟」は、上からかぶせるしかけ。
 「中於機辟、死於罔罟=機辟に中たりて、罔罟に死す」


?牛(リギュウ)
 (犂牛)黄と黒とのまじった、うすぎたない耕牛。まだら牛。
  「犂牛之子、?且角、雖欲勿用、山川其舎諸=犂牛の子も、?く且つ角あらば、用ゐる勿からんと欲すと雖も、山川其れこれを舎てんや」〔論語・雍也〕


彷徨(ホウコウ)
 =??・方皇・?徨・旁皇。さまよい歩く。
 「彷徨乎無為其側、逍遥乎寝臥其下=彷徨乎として其の側に無為にして、逍遥乎として其の下に寝臥す」


逍遥(ショウヨウ)
 (1)そろそろと歩きまわる。ぶらつく。
 (2)俗事を離れて気ままな生活を楽しむこと。



荘子:逍遥遊第一(13) 則夫子猶有蓬之心也夫

2008年09月22日 00時54分06秒 | 漢籍
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荘子:逍遥遊第一(13)

 惠 子 謂 莊 子 曰 : 「 魏 王 貽 我 大 瓠 之 種 , 我 樹 之 成 而 實 五 石 。 以 盛 水 漿 , 其 堅 不 能 自 舉 也 。 剖 之 以 為 瓢 , 則 瓠 落 無 所 容 。 非 不 ? 然 大 也 , 吾 為 其 無 用 而 ? 之 。 」

 莊 子 曰 : 「 夫 子 固 拙 於 用 大 矣 。 宋 人 有 善 為 不 龜 手 之 藥 者 , 世 世 以 ? ? 絖 為 事 。 客 聞 之 , 請 買 其 方 百 金 。 聚 族 而 謀 曰 : 『 我 世 世 為 ? ? 絖 , 不 過 數 金 。 今 一 朝 而 鬻 技 百 金 , 請 與 之 。 』 客 得 之 , 以 説 ? 王 。 越 有 難 , ? 王 使 之 將 。 冬 , 與 越 人 水 戰 ,大 敗 越 人 , 裂 地 而 封 之 。 能 不 龜 手 一 也 , 或 以 封 , 或 不 免 於 ? ? 絖 , 則 所 用 之 異 也。 今 子 有 五 石 之 瓠 , 何 不 慮 以 為 大 樽 而 浮 乎 江 湖 , 而 憂 其 瓠 落 無 所 容 ? 則 夫 子 猶 有 蓬 之 心 也 夫 ! 」



 恵子(ケイシ)、荘子に謂(い)いて曰わく、「魏王(ギオウ)、我れに大瓠(タイコ・おおひさご)の種を貽(おく)れり。我れこれを樹(う)えて成り、而して五石(ゴセキ)を実(み)たす。以て水漿(スイショウ)を盛れば、其の堅(おも)きこと自ら挙(もちあ)ぐる能(あた)わず。これを剖(さ)きて以て瓢(ひしゃく)と為せば、則ち瓠落(カクラク)として容(い)るる所なし。?然(キョウゼン)として大きからざるには非ざるも、吾れその無用なるが為(た)めにしてこれを?(うちわ)りたり」と。

 荘子曰わく、「夫子(フウシ)は固(もと)より大(ダイ)なるものを用うるに拙(セツ・つたなし)なり。宋人(ソウひと)に善(よ)く不亀手(フキンシュ)の薬を為(つく)る者あり、世世(よよ)絖(わた)を??(さら)すことを以て事(しごと)と為せり。客これを聞き、其の方(ホウ・つくりかた)を百金にて買わんことを請(こ)う。族を聚(あつ)めて謀(はか)りて曰わく、我れ世世に絖(わた)を??(さら)すことを為せしも、(そのもうけは)数金に過ぎず。今一朝(イッチョウ・たちまち)にして技(わざ)を鬻(ひさ)ぎて百金となる、請(こ)うこれを与えんと。客これを得て、以て呉王に説けり。越(エツ)に難あり、呉王これをして将たらしむ。冬、越人(エツひと)と水戦して、大いに越人を敗(うちやぶ)れり。地を裂(さ)きてこれに封(ホウ)ず。能(よ)く不亀手するは一なるに、或(ある)いは以て封ぜられ、或いは絖(わた)を??(さら)すより免(まぬか)れざるは、則ち用うる所の異なればなり。今、子に五石(ゴセキ)の瓢(ひさご)あり、何ぞ以て大樽と為(な)して江湖に浮かぶことを慮(かんが)えずして、其の瓠落(カクラク)として容(い)るる所なきを憂(うれ)うるや。則ち夫子には猶(な)お蓬(ホウ・とらわれたる)の心あるかな」と。


 恵子が荘子にむかって話した、「魏の王が私に大きな瓢の種をくださった。私はそれを植えて実がなったのだが、なんと五石(ゴセキ)もの量が入るのです。それに飲み物を容(い)れたら、とてもたやすく持ちあげられず、それを割って柄杓(ひしゃく)を作ったを作ったら、底が平たくて何も入らない。本当にばかでっかくて、使いようがないので、それをぶちこわしてしまったのですよ。(あなたは、いつもおおげさなことばかり言って役立たずですなあ)

 荘子はいった。「あなたは、やっぱり大きなものの使い方がへたですなあ。宋の人であかぎれ止めの薬を上手に作る人がいて、(その薬を手につけて)絹わたを水で晒(さら)すのを代々の家業としていたのだが、旅人がそれを聞いて、薬の作り方を百金で買いたいと言ってきた。親族を集めて相談したところ『わしらは、代々絹わたを晒す仕事をしてきたが、たったの五・六金をもうけただけだ。それが、今すぐこの技術が百金で売れるというのだから、(この技術を)譲ることにしたい』旅人はその作り方を教えられると、それを呉王に説明して、水上戦に利用することをすすめた。やがて越(エツ)の国との戦争がおこったので、呉王はこの男を将軍にとりたてて、冬の最中(さなか)に越の軍隊と水上戦をまじえて越軍を大いにうち破った。(越軍の方ではあかぎれに悩まされてじゅうぶんな働きができなかったから。呉王は功績をたたえて)国土を分割して、この人を大名にとりたてた。さて、あかぎれを止めることができるという点では同じなのに、一方は大名にとりたてられ、一方は一生にわたって絹わたを晒す仕事からのがれられないというのは、そのあかぎれ止めの使い方が違ったからです。今、あなたに五百石のものが入る瓢があるなら、それを大樽(おおだる)の舟にしたてて、長江のひろき流れか湖のはるかなる波に浮かんで、心ゆくまで水と空の大自然のなかに自己を遊ばせたらよいものを。それをしないで、『これは無用だ』と絶叫するとは、蓬(よもぎ)のように、ボサボサとして、すっきりしない男だなあ・・・」と。

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恵子(ケイシ)
 恵施のこと。戦国時代、宋の学者。論理学派。魏の恵王に仕え、宰相となった。荘子との交渉は他の篇にもみえるが、その学説は「天下篇」に詳しい。著に『恵子』がある。


(イ)
 おくる。人に物をおくる。《類義語》⇒贈。
 「貽我収管=我に収き管を貽る」〔詩経・癩風・静女〕



 ■音
  【ピンイン】[hu4]
  【漢音】コ 【呉音】
  【訓読み】ひさご
 ■解字
  会意兼形声。「瓜+音符夸(カ・中がうつろになって広がる)」。
 ■意味
  ひさご。
  果実は長さ三〇センチほどあり、肉は白い。煮たり、また、ほしたりしてかんぴょうとしても食べられる。
  成熟したものは、中身をくりぬき、液体をすくう容器とする。ひょうたん。ふくべ。



 ■音
  【ピンイン】[huo2]
  【漢音】カク 【呉音】ワク
 ■意味
  「瓠落(カクラク)」とは、まるくて、中がうつろなさま。
  「瓠落無所容=瓠落して容るる所無し」


水漿(スイショウ)
 飲料水。また、飲み物。「銀瓶乍破水漿迸=銀瓶乍ち破れて水漿迸る」〔白居易・琵琶行〕


樹(字形)

 ■音
  【ピンイン】[shu4]
  【呉音】ジュ、ズ 【漢音】シュ
  【訓読み】き, たてる, たつ, うえる
 ■解字
  会意兼形声。右側の字は、太鼓(タイコ)または豆(たかつき)を直立させたさまに寸(手)を加えて、⊥型にたてる動作を示す。
  樹はそれを音符とし、木をそえた字で、たった木のこと。
 ■単語家族
  豎(ジュ・たてる、たて)・逗(トウ・じっとたち止まる)などと同系。
 ■意味
  たてる(たつ)。たつ。うえる(うう)。
   型にじっとたてる。また、たつ。木をうえる。


堅(字形)

 ■音
  【ピンイン】[jian1]
  【呉音・漢音】ケン
  【訓読み】かたい
 ■解字
  会意兼形声。堅の上部は、臣下のように、からだを緊張させてこわばる動作を示す。
  堅はそれを音符とし、土を加えた字で、かたく締まって、こわしたり、形をかえたりできないこと。
  → (引き締める)と同系。
 ■意味
  かたい(かたし)。こちこちに充実するさま。
  「以盛水漿、其堅不能自挙也=以て水漿を盛れば、其の堅きこと自ら挙ぐる能はざるなり」


(もとより)
 もちろん。固定して決まっている意を示すことば。
 「君子固窮=君子は固より窮す」〔論語・衛霊公〕


亀手(キンシュ)
 こごえてひびのきれた手。



 ■音
  【ピンイン】[kuang4]
  【呉音・漢音】コウ
  【訓読み】わた、ぬめ
 ■解字
  会意兼形声。「糸+音符光(広がる、広げて張る)」。
 ■意味
  わた。繭のくずを集めて、ふやかしたわた。まわた。《同義語》⇒壯(絋)。



 ■音
  【ピンイン】[yu4]
  【呉音・漢音】イク
  【訓読み】ひさぐ
 ■意味
  ひさぐ。売る。あきなう。
  賣(イク)に当てた用法。
  「有鬻踊者=踊を鬻ぐ者有り」〔春秋左氏伝・昭三〕



 「司馬云。慮、結綴也」(荘子集解)
 洪頤?(コウイケン)云う、「慮」は『文選』では「?」とあり、抒空(くりぬく)の意であると。馬叙倫云う、「慮」は「?」の省字、「?」は「抒」(ショ)の借字で、「抒」には「治」の意味があると。
 この説に従うと・・・

何不慮以為大樽而浮乎江湖
 何ぞ慮(抒・くりぬ)きて、大樽と為して江湖に浮かべずして・・・
 と読める。(金谷治)


(ホウ)
 すべての矮小なるもの(朱儒の根性)を象徴する。



荘子:逍遥遊第一(12) 窅然喪其天下焉(窅然として其の天下を喪れたり)

2008年09月21日 02時38分13秒 | 漢籍
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荘子:逍遥遊第一(12)

 宋 人 資 章 甫 而 適 諸 越 , 越 人 斷 髮 文 身 , 無 所 用 之 。 堯 治 天 下 之 民 , 平 海 内 之 政 。 往 見 四 子 藐 姑 射 之 山 , 汾 水 之 陽 , ? 然 喪 其 天 下 焉 。


 宋人(ソウひと)、章甫(ショウホ)を資として諸越(ショエツ)に適(ゆ)けり。越人(エツひと)は断髪文身にして、これを用うる所なし。堯(ギョウ)は天下の民を治め、海内(カイダイ)の政(セイ・まつりごと)を平(おさ)めてより、往きて四子に藐(はる)かなる姑射(コヤ)の山に見(まみ)えしが、汾水(フンスイ)の陽(きた)にて?然(ヨウゼン)として其の天下を喪(わす)れたり。

 宋の国の人が章甫(ショウホ)の冠を仕入れて、南の越(エツ)の国へ売りに行った。ところが越の人はざんばら髪で、体には入れ墨をするのが一般的な風俗であるから、宋の国で珍重される章甫の冠も、越の国では全く用をなさなかった。堯は天下の民を統治し、世界の政治を安定させてから、藐姑射の山を訪ねて、四人の神人に逢ったが、都の郊外、汾水の北のあたりまで帰ってきて失神(茫然自失)し、自分が天下の王者であることを忘れてしまった。

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(ソウ)
 周が商(=殷)を滅ぼしたのち、紂(チュウ)王の弟微子に命じ、その遺民を集め祖先の祭りを継ぐことを許してたてさせた国。
 他国の人からは亡国の遺民として軽んじられたが、古い文化を継ぐという自負心を持っていた。
  (例1)「守株」宋人有耕田者(韓非子・五蠹)
  (例2)「宋襄之仁」(春秋左氏伝・僖二二)
 など。
 商(=殷)の遺民の一部は、その高い技術をいかして製造した工芸品等を諸国に売って歩いた(行商)。商人の業、つまり商業のはじまりである。



 ■音
  【ピンイン】[zi1]
  【呉音・漢音】
  【訓読み】もと, たち, たすける, とる, はかる
 ■解字
  会意兼形声。次(シ)は「二(そろえる)+欠(人がしゃがんだ姿)」からなり、ざっと持ち物をそろえるの意を含む。
  資は「貝(財貨)+音符次」で、金銭や物品をざっとそろえておいて、用だてること。
 ■単語家族
  姿(シ・ざっと身づくろいする、もちまえ)・?(シ・あつらえて用だてた間食)と同系。
 ■意味
  もと。用だてるためにそろえた品物や金銭。もとで。
 「李云。資、貨也」(荘子集解)


章甫(ショウホ)
 商代(殷代)の冠の名。孔子がかぶってから、儒者の冠となった。
 章甫の冠を越の国に行商した話は、世俗の価値が超越者の世界では全く通用しないことを譬えたもの。世俗の世界では最高の有徳者とされ「聖天子」とよばれる堯も、一たび神人の前に出れば全く問題にならず、その偉大さに圧倒されて茫然自失する。


諸越(ショエツ)
 春秋時代の越のこと。
 「諸」は、接頭辞。


断髪文身(ダンパツブンシン)
 髪の毛を短く切り、入れ墨をすること。
 南の沿海地方の人々の風習。



 たいらかにする(たひらかにす)。公平にする。えこひいきしない。でこぼこがないようにそろえる。
  「君子平其政=君子其の政を平らかにす」〔孟子・離下〕
  「平室律=室律を平らかにす」〔荀子・王制〕


海内(カイダイ)
 天下。世界。
 四海のうちの意。
  「豈有文章驚海内=あに文章の海内を驚かす有らんや」〔杜甫・賓至〕


四子(シシ)
 「司馬・李云。四子、王倪・齧缺・被衣・許由。李禎云。四子、本無其人。徴名以實之則鑿矣」(荘子集解)
 『釈文』には「王倪・齧欠・被衣・許由」をあげるが、郭象注は「蓋し寄言ならん」といって、それを特定の四人とは見ない。(金谷治)



 山の南側、または、川の北側。(どちらも日当たりに面している)


?然(ヨウゼン)
 気を失ったようにぼんやりしているさま。

?
 ■音
  【ピンイン】[yao3]
  【呉音・漢音】ヨウ
  【訓読み】くらい
 ■解字
  会意。「穴(あな)+目」。眼球がなくて、深い穴がくぼんでいること。
  転じて、見えない、奥深いさまをあらわす。
 ■単語家族
  杳(ヨウ・よく見えない)・窈(ヨウ・深遠な)と同系。
 ■意味
  くらい(くらし)。かげがあってくらいさま。


(ソウ)
 ■音
  【ピンイン】[sang1 / sang4]
  【呉音・漢音】ソウ
 ■意味
  うしなう(うしなふ)。離れ去る。分離して自分のものでなくなってしまう。



荘子:逍遥遊第一(11) 是其塵垢秕糠 ,將猶陶鑄堯舜者也

2008年09月18日 08時39分21秒 | 漢籍

荘子:逍遥遊第一(11)

 連 叔 曰 : 「 然 , 瞽 者 無 以 與 乎 文 章 之 觀 , 聾 者 無 以 與 乎 鐘 鼓 之 聲 。 豈 唯 形 骸 有 聾 盲 哉 ? 夫 知 亦 有 之 。 是 其 言 也 , 猶 時 女 也 。 之 人 也 , 之  也 , 將 旁 礴 萬 物 以 為 一 , 世 蘄 乎 亂 , 孰 弊 弊 焉 以 天 下 為 事 ! 之 人 也 , 物 莫 之 傷 , 大 浸 稽 天 而 不 溺 , 大 旱 金 石 流、 土 山 焦 而 不 熱 。 是 其 塵 垢 秕 糠 , 將 猶 陶 鑄 堯 舜 者 也 , 孰 肯 以 物 為 事 ! 」


 連叔曰わく、「然り、『瞽者(コシャ)は以て文章の観に与(あずか)ることなく、聾者(ロウシャ)は以て鐘鼓(ショウコ)の声(こえ)に与かることなし。豈(あ)に唯(た)だ形骸にのみ聾盲(ロウモウ)あらんや。夫(か)の知にも亦(ま)たこれあり』と。是れその言や猶お時(こ)の女(なんじ)のごときなり。之(こ)の人や、之の徳や、将(まさ)に万物を旁(あまね)く礴(おお)いて以て一と為(な)さんとす。世(よ)は乱(おさ)めんことを蘄(もと)むるも、孰(たれ)か弊弊焉(ヘイヘイエン)として天下を以て事と為(な)さんや。之(こ)の人や、物(なにもの)も之(これ)を傷つくることなし。大浸(タイシン・おおみず)の天に稽(とど)くとも溺れず、大旱(タイカン・おおひでり)に金石流れ土山焦(こが)るるとも、熱(あつ)しとせず。是(こ)れ其の塵垢秕糠(ジンコウヒコウ・ふけあかくいかす)も、将に猶お堯舜(ギョウ・シュン)を陶鋳(トウチュウ)せんとする者なり。孰(たれ)か肯(あ)えて物を以て事と為さんや。

 連叔は言った、「なるほど、『視力のない人には文章(あやいろどり)の観(ながめ)をみるすべはないし、聴力のない人に鐘鼓(ショウコ=音楽)の声(ねいろ)をきくすべはない。けれどもそれは、形骸(からだ)の能力だけに限ったことではなく、知識についても同じことがいえる。』といわれるが、お前こそ、まさにそれだ。この「神人」は、万物をあまねく包みおおう究極的な「一」の世界に立ち、無為自然の「徳」によって一切存在を感化してゆくのだ。世間の人々が平和を願うからといって、天下のために苦労をして勤めるようなことをするだろうか。人為的な作為である政治の世界からは高く超越するのだ。この神人は、なにものにも傷つけられることがない。大水が出て天にとどくほどになっても溺れることがなく、大旱魃(おおひでり)(旱魃=干魃)で金属や岩石が溶けて流れ、大地や山肌が焦(こ)げるほどになっても熱さをかんじない。この神人は、その体の塵(ふけ)と垢(あか)のような「かす」や食いかすからでも堯舜くらいは簡単に作り出すことができるのだ。"孰(な)んぞ肯えて物(よのなか)をおさむることを以て事(しごと)と為(せ)んや"わざわざ人為的な作為である政治の世界に身をおくことはないのだ」と。

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 ■音
  【ピンイン】[gu3]
  【漢音】コ 【呉音】
 ■解字
  会意兼形声。「目+音符鼓(皮が張ってあるたいこ→ぴんと張ったままで働かない)」。
 ■意味
  目の働かない人。盲人。


與(字形)
與(与)
 ■音
  【ピンイン】[yu3 / yu4 / yu2]
  【呉音・漢音】
  【訓読み】あたえる、くみする、あずかる、ともに、と、より、か
 ■解字
  会意兼形声。与は牙(ガ)の原字と同形で、かみあった姿を示す。
  與はさらに四本の手をそえて、二人が両手でいっしょに物を持ちあげるさまを示す。
  「二人の両手+音符与」で、かみあわす、力をあわせるなどの意を含む。
 ■意味
  (1)くみする(くみす)。力をあわせる。広く、いっしょに物事をするために仲間になる。「易与=くみし易し」
  (2)組。仲間。「与党」「与国」
  (3)あずかる(あづかる)。参加する。「参与」
   「而王天下、不与存焉=しかうして天下に王たるは、あずかり存せず」〔孟子・尽上〕
  (4)ともに。いっしょに。「不可与言=ともに言ふべからず」〔論語・衛霊公〕
 ■単語家族
  舁(ヨ・力をあわせてかつぎあげる)・輿(ヨ・力をあわせて持ちあげるみこし)・擧(キョ=挙。力をあわせて持ちあげる)などと同系。


文章(ブンショウ)
 模様。あや。


觀(観)
 外にあらわしてみせる姿。また、みわたしたけしき。



 ■音
  【ピンイン】[long2]
  【漢音】ロウ 【呉音】
 ■解字
  会意兼形声。「耳+音符龍(ロウ=竜。太くてよく見えない、あいまい)」。
 ■意味
  耳の聞こえないこと。また、その人。
 ■単語家族
  朧(ロウ)(ぼんやり)と同系。


鐘鼓(ショウコ)
 鐘と太鼓。ともに音楽を演奏するための代表的な楽器。また、音楽。
 「鐘鼓饌玉不足貴、但願長酔不用醒=鐘鼓饌玉は貴ぶに足らず、但だ長酔を願ひて醒むるを用ゐず」〔李白・将進酒〕
 饌玉(センギョク):とりそろえたりっぱなごちそう。


声(字形)
聲(声)
 ■音
  【ピンイン】[sheng1]
  【漢音】セイ 【呉音】ショウ
  【訓読み】こえ、こわ、おと
 ■解字
  会意。声は、石板をぶらさげてたたいて音を出す、磬(ケイ)という楽器を描いた象形文字。
  殳は、磬をたたく棒を手に持つ姿。
  聲は「磬の略体+耳」で、耳で磬の音を聞くさまを示す。
  広く、耳をうつ音響や音声をいう。
 ■意味
  (1){名詞}こえ(こゑ)。
   人の声、動物の鳴き声、物の響きを含めていう。「音声」
   「聞其声不忍食其肉=其の声を聞けば其の肉を食らふに忍びず」〔孟子・梁上〕
  (2)うわさ。評判。「名声」「声、振礼?=声、礼?に振るふ」〔李娃伝〕
  (3)おと。音楽の響き。
   「錚錚然有京都声=錚錚然として京都の声有り」〔白居易・琵琶行・序〕
   「音楽之」 =「Sound of Music」



 これ。この。(指示詞)
 之や是(これ、この)に当てた用法。
  「時日害喪=時の日害か喪びん」〔孟子・梁上〕


(なんじ)
 なんじ(なんぢ)。おまえ。第二人称。《同義語》⇒汝。《類義語》⇒爾。
  「予及女偕亡=予と女及偕に亡びん」〔孟子・梁上〕



 ■音
  【ピンイン】[pang2]
  【呉音・漢音】ホウ
  【訓読み】かたわら、つくり、よる、ひろがる、あまねし
 ■意味
  (1)ひろがる。中心から四方に向けてひろがる。「旁薄(ホウハク)(四方に広くひろがる)」
  (2)あまねし。広くゆきわたるさま。《同義語》⇒滂。「旁通(ホウツウ)」



 ■音
  【ピンイン】[bo2]
  【漢音】ハク 【呉音】バク
 ■解字
  会意兼形声。「石+(音符)薄(ハク)(うすく平ら)」。
 ■意味
  広くおおう。また、みちふさがる。また、平らに広がるさま。《同義語》⇒薄。「磅佗(ホウハク)」


 「司馬云、稽至也」
 ■音
  【ピンイン】[ji1 / qi3]
  【漢音】ケイ 【呉音】
  【訓読み】とどまる、とどめる、かんがえる、くらべる
 ■意味
  とどまる。とどめる(とどむ)。一定のところまでとどいてとまる。とどこおる。ためらう。



 ■音
  【ピンイン】[jiao1]
  【呉音・漢音】ショウ
  【訓読み】こげる、こがす、こがれる、あせる
 ■解字
  会意。「隹(とり)+火」で、とりを火の上でちりちりとこがして焼くことを示す。こげて収縮するの意を含む。
 ■意味
  (1)こげる(こぐ)。こがす。ちりちりとこげる。黒くこげて縮む。《同義語》⇒糞。
   「焦眉之急(ショウビのキュウ)」
  (2)こがす。こがれる(こがる)。こげるほど心を悩まして、いらいらする。《同義語》⇒憔。「焦慮」
   「労身焦思=身を労し思ひを焦がす」〔史記・夏〕


塵垢秕糠(ジンコウヒコウ)
 【塵垢】
  (1)ちりと、あか。
   「ふけ」と「あか」(福永光司)
  (2)世の中のけがれ。
   「遊乎塵垢之外=塵垢の外に遊ぶ」〔斉物論篇〕
 【秕糠】
  =秕糠。かす米と、ぬか。つまらない残り物のたとえ。


陶鋳(トウチュウ)
 (1)陶器をつくることと、金属を鋳て器物をつくること。
 (2)物をつくりあげること。
 (3)人材を養成すること。



 ■音
  【ピンイン】[qi2]
  【漢音】キ 【呉音】ゴ、ギ
 ■解字
  会意兼形声。「艸+單+(音符)斤(きる、刈る)」。
 ■意味
  (1)刃物で刈るやまぜり。《同義語》⇒芹。
  (2)「山擅(サンキ)」とは、薬用植物の名。香りがよい。とうき。
  (3)もとめる(もとむ)。祈りもとめる。
   祈に当てた用法。
   「所以擅有道=有道を擅むるゆゑんなり」〔呂氏春秋・振乱〕
  (4)くつわ。
   ?(キン)に当てた用法。


乱(字形)
亂(乱)
 ■音
  【ピンイン】[luan4]
  【呉音・漢音】ラン 【唐宋音】ロン
  【訓読み】みだれる、みだす、みだれ、おさめる
 ■解字
  会意。左の部分は、糸を上と下から手で引っぱるさま。右の部分は、乙印で押さえるの意を示す。
  あわせてもつれた糸を両手であしらうさまを示す。もつれ、もつれに手を加えるなどの意をあらわす。
  おさめるの意味は、後者の転義にすぎない。
 ■意味
  おさめる(をさむ)。物事のもつれを押さえて筋道を正す。また、そのさま。
   「予有乱臣十人=予に乱臣十人有り」〔論語・泰伯〕
  「亂治也(乱は治なり)」(荘子集解)
  「乱」は反訓文字で「治」と読む。(福永光司)



 あえて(あへて)。よしと心にうなずいて。
  「肯与隣翁相対飲=肯へて隣翁と相ひ対飲せん」〔杜甫・客至〕