漢字家族BLOG版(漢字の語源)

漢字に関する話題など。漢字の語源・ワードファミリー。 現在、荘子「内篇」を素読しています。

假虎威狐(虎の威をかる狐)

2009年11月23日 05時23分59秒 | Weblog

  [漢字に関する書籍] [漢字源]

 「仮虎威狐」(虎の威をかる狐)、もしくは「狐仮虎威」(狐、虎の威をかる)だが、一般的には 「虎の威を借る狐」 と表記することが多い。

 弱いものが、強いものの威力をかさに着て、他人にいばりちらすこと。

 自分には実力もないのに、強力な組織や、えらい上役がバックにひかえていることを意識して、同僚や下のものににらみをきかせるやつ。そこが小者の小者たるゆえんか。

 が狐(きつね)をつかまえた。ところがその狐は、

 「さん、さん、あなたは私を食べてはいけません。天の神様は私を百獣の王に指名したのです。だから、あなたが私を食べることは、神様の命令に逆らうことになり、天の神様にしかられますよ。うそだと思うなら、私が先に歩きますから、あなたは後からついてきて、よく見てごらんなさい。けものたちは、みんな私を恐れて逃げてしまうでしょう」

 は、なるほどと思って、いっしょに歩いてみると、けものたちはみんな逃げ去ってしまった。

 は、けものたちが自分を恐れて逃げたことに気づかず、みんなが狐を恐れたものだと思った。

 この話も、『戦国策』が出典。

 「荊」=楚(ソ)の宣王が、北方の国で楚の将軍を恐れているという評判を聞いて、本当にそうなのかと下問したのに対し、そうではなく、楚の国力を恐れているんですよ ということを説明するために生まれたお話。

假虎威狐

 荊 宣 王 問 群 臣 曰 「 吾 聞 北 方 之 畏 昭 奚 恤 也, 果 誠 何 如 ? 」 群 臣 莫 對 。

 江 乙 對 曰 「 虎 求 百 獸 而 食 之 , 得 狐 。

 狐 曰 『 子 無 敢 食 我 也 。 天 帝 使 我 長 百 獸 , 今 子 食 我 , 是 逆 天 帝 命 也 。 子 以 我 為 不 信 , 吾 為 子 先 行 , 子 隨 我 後 , 觀 百 獸 之 見 我 而 敢 不 走 乎 ? 』 虎 以 為 然 , 故 遂 與 之 行 。 獸 見 之 皆 走 。 虎 不 知 獸 畏 己 而 走 也 , 以 為 畏 狐 也 。

 今 王 之 地 方 五 千 里 , 帶 甲 百 萬 , 而 專 屬 之 昭 奚 恤 ; 故 北 方 之 畏 奚 恤 也 , 其 實 畏 王 之 甲 兵 也 , 猶 百 獸 之 畏 虎 也 。 」

      戦国策 ・ 卷十四楚一 「荊宣王問群臣」


 荊(ケイ)の宣王(センオウ)、群臣に問(と)いて曰(いわ)く、吾(われ)、北方の昭奚恤(ショウケイジュツ)を畏(おそ)るるを聞(き)く。果(は)たして誠(まこと)に何如(いかん)、と。群臣対(こた)うる莫(な)し。

 江乙(コウイツ)対(こた)えて曰(いわ)く、虎、百獣を求めて之(これ)を食(く)らう。狐(きつね)を得たり。

 狐(きつね)曰(いわ)く、子(シ)敢(あ)えて我を食らうことなかれ。天帝(テンテイ)、我をして百獣に長(チョウ)たらしむ。今、子(シ)、我を食らわば、是(こ)れ天帝の命に逆(さか)らうなり。

 子、我を以て信ならずとなさば、吾(われ)、子の為(ため)に先行(センコウ)せん。子(シ)、我(わ)が後(うし)ろに随(したが)いて観(み)よ。百獣の我(われ)を見て、敢(あ)えて走らざらんや、と。

 虎、以て然(しか)りとなす。故(ゆえ)に遂(つい)に之と行く。獣(ジュウ)これを見て皆(みな)走る。虎、獣の己(おのれ)を畏(おそ)れて走るを知らざるなり。以為(おも)えらく狐(きつね)を畏(おそ)るるなり、と。

 今、王の地、方(ホウ)五千里、帯甲(タイコウ)百万ありて、専(もっぱ)らこれを昭奚恤(ショウケイジュツ)に属(ショク)す。故(ゆえ)に北方の奚恤(ケイジュツ)を畏(おそ)るるは、其(そ)の実(ジツ)、王の甲兵(コウヘイ)を畏(おそ)るること、猶(な)お百獣の虎(とら)を畏(おそ)るるがごときなり、と。

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【荊】(漢音)ケイ、(呉音)キョウ
 [解字]会意兼形声。「艸+音符刑(刑罰)」。
     刑罰のむちをつくる木のこと。
 [意味]古代、中国の九州の一つ。
     今の湖南・湖北・広西・貴州省のあたりで、昔は、いばらが多い荒地であったことから。
     のち、おもに楚(ソ)の国(湖北・湖南)をいう。「荊楚(ケイソ)」

【帯甲】(タイコウ)
 よろいを着た兵士。

【甲兵】(コウヘイ)
 ・よろいと武器。
 ・戦争。軍事。



虎・寅・とら・トラ(1)
虎・寅・とら・トラ - 漢字家族BLOG版
大人虎変 > 君子豹変 > 小人革面
一擧兩得(いっきょりょうとく) -- 二頭の虎
暴虎馮河(ぼうこひょうか)
十干十二支 -- 干支(えと・かんし)

一擧兩得(いっきょりょうとく) -- 二頭の虎

2009年11月23日 01時42分07秒 | Weblog

[漢字に関する書籍] [漢字源]
一擧兩得(いっきょりょうとく) -- 二頭の虎

 一つのことをして、一度に二つの利益をあげることを「一挙両得」という。

 同じ意味で、「一石二鳥」というのがあるが、これは漢文ではなく、英語の Kill two birds with one stone. (一つの石で二羽の鳥を殺す)の翻訳である。

 昔、弁荘子(ベンソウシ)という強い男が旅館に泊まっていた。虎が現れたというのを聞いたので、「よし、オレにまかせておけ!」とばかりに、退治に出かけようとした。

 その時、そばにいた男が彼を引き止めて、

 「そんなに急ぐことはありませんよ。まあまあ、お待ちなさい。二頭の虎が牛を食べようとしています。いまに、この二頭は牛の肉の奪い合いで喧嘩(けんか)を始めますよ。二頭の虎が大喧嘩をやれば、小さいほうの虎は負けて殺され、大きいほうの虎は勝っても、そうとう傷ついて弱るでしょう。その傷ついて弱っている大虎を刺し殺せば、一ぺんに二頭の虎を退治することになるでしょう、一挙両得ですよ」

 といった。

 弁荘子は「なるほど」と思って、そのとおりにした。彼はやすやすと傷ついて弱った虎を刺し殺し、一ぺんに二頭の虎を退治したという評判が高くなった。(── 春秋後語)。

 じつは、この物語は、王様を説得するための「枕」であった。

 中国の戦国時代(注1)に韓と魏(ギ)の二国が一年以上も戦いを続けていた。秦(シン)の恵王は、どちらかを救おうとして、家臣に相談したが、なかなか意見が一致しなかった。その時、陳軫(チンシン)という賢い家来が、この「一挙両得」の物語をしたので、恵王は、どっちかの一方を救うのをやめて、しばらく傍観、一方が負け、勝った方も弱ったところで、一ぺんに両方の国を亡ぼしてしまった。(── 戦国策・楚策)

 このように、『戦国策』は、「漁父之利」や「假威狐(の威をかる狐)」(次回)など、誰かが誰かの依頼を受けて、他の誰かを説得するというパターンが多い。いわば、「説得」のバイブルとなっている。


虎・寅・とら・トラ(1)
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(注1)
戦国時代:  紀元前403~221年、晋が韓・魏・趙に三分されてから、秦に統一されるまでの間の時代。(もどる)

大人虎変 > 君子豹変 > 小人革面

2009年11月22日 04時39分46秒 | Weblog
 [ブログ内検索] [易―中国古典選] [漢字に関する書籍]
大人虎変 > 君子豹変 > 小人革面

 大人虎変 > 君子豹変 > 小人革面 は、『周易』の第49卦 の 解説 に登場する言葉だが、このことばは一般的には、

 「過則勿憚改」(あやまてば、すなわち、あらたむるにはばかるなかれ) の意味で使われることが多いようだ。

 子曰:「君子不重則不威。學則不固。主忠信。無友不如己者。過則勿憚改。」

 (君子、重からざれば、すなわち威あらず。学べば、すなわち固ならず。忠信を主とせよ。己に如かざる者を友とする無かれ。過ちてはすなわち改むるに憚るなかれ。)

 とあるように、「まちがったら、わるびれずに、いさぎよく改めろ」というほどの意味で使われる。

 もっともあざやかに変わるのが「虎変」、「虎変」ほどではないがみごとに変わるのが「豹変」

 これに対して、「つまらない人間」(というけど、ごく普通の人 -- 小人)は、ちょっと顔色を変えるだけで、何も改めようとしないものだ。

 ・・・ などと解釈されている。

 けれども、『周易』を見るかぎり、そのような解釈はない。ただ「小人は、君主に従順にしたがうということだ」と記述されているにすぎない。君主がかわれば、次の君主にも素直に従うことと解釈すべきではなかろうか。まあ、人民はしたたかだから、いつの時代も「従順」に見せかけて、「うわべ」だけで服従してきたのかもしれない。

 また、為政者の側から言えば、「民は依らしむべし。知らしむべからず」 であり、「民」は無知蒙昧なので、為政者が代わっても、その都度その都度、すぐにてなずけることができる ・・・ ということではないか。

 それはさておき、「豹変」 という言葉は、いつの間にか悪い意味に使われるようになってしまった。今まで行ってきたこと、言ってきたことをケロリと忘れて変節する。

 今まで与党としてさんざんなことをしてきて、野党になったとたん、自分たちが行ってきた結果である現状を批判するなんて・・・。昨日言っていたことと違うじゃないか。図々しくも豹変したな。

 ・・・などという時に使う。

 しかし、それは本当の使い方ではない。

 「誠意をもって天命を改めれば吉」

 という、すなわち 「改革を断行しよう!」 という意味にもとれる、

  
  

 革 (澤火革)たくかかく 離下兌上

 の卦の解説なのでした。




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虎・寅・とら・トラ

2009年11月22日 01時54分13秒 | Weblog


虎(韓玉麟先生)

 [ブログ内検索] [漢字に関する書籍] [漢字源]
周易 革 (澤火革)たくかかく 離下兌上

 九五,大人虎變,未占有孚。

 《象》曰:“大人虎變”,其文炳也。

 上六,君子豹變,小人革面,征凶,居貞吉。

 《象》曰:“君子豹變”,其文蔚也。 “小人革面”,順以従君也。


「虎」(hu3の発音 | [藤堂明保著作]

  この解説は、Googleサイトで 「虎・寅・とら・トラ(1)」

虎(字形)
 「虎」という字は、字形のとおりトラの姿を描いた象形文字だが、なぜ「トラ」を「コ」と呼ぶのだろうか?

 動物園に行ったことがある人は、虎の「ホオー! ホー!」というなんともいえない恐ろしげな声を聞いたことがあることでしょう。

 音読みの「コ」、北京語では「hu3」 ・・・ というのは、虎が吠える声をとった擬声語だろう。

 「猫」のことを「mao1」と呼ぶのと同じ。

 さて、『周易』の第49の卦が 「澤火革」

 ここに、

 大人虎変 > 君子豹変 > 小人革面

 という一節があるが・・・


 とここまで書いたら、疲れてしまったので続きは次回に。 「寅」(十二支の寅)

 前置きの、「虎・寅・とら・トラ(1)」 だけでヘトヘトになってしまった。枕だけで終わるとは、カンタンのまくら。夢枕にしようと思ったけど目が冴えてしまったので別の作業にうつります。

 <引用はじめ>
  ニワトリはケーケーと鳴くので(ケイ・唐代には kei)といい、カラスはアーアーと鳴くので(ア・唐代には a1)という。トラはおそろしい声でホーホーとほえるので(コ・唐代には ho)と呼ぶし、キツネはクワクワと叫ぶので(コ・漢代には hua)という。してみると、イヌを(ケン)と称するのは、いうまでもなくそれがケンケン(k'uen)と鳴くからだ、と考えてよい。犬(ケン)ということばは、いわゆる擬声語なのである。

  『漢字の話Ⅰ』(藤堂明保・朝日新聞社)
 <引用おわり>

   「犬 狗 戌(いぬ)干支(えと) ─ 漢字家族」

 ・・・ 李時珍いうはその声に象(かたど)ると、虎唐音フウ、虎がフウと吼(ほ)えるその声をそのまま名としたというんだ。これはしかるべき説で凡(すべ)てどこでもオノマトープとて動物の声をその物の名としたのがすこぶる多い。 ・・・

   虎に関する史話と伝説民俗(南方熊楠 ・ 十二支考)




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コーデル・リャンガー ???

2009年11月21日 04時37分22秒 | Weblog

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 昔、大衆中華料理店で「餃子(ギョーザ)」を注文すると、ウェイトレスさんが大声で 「コーデル・リャンガー!!!」 と厨房に伝えていた。他の料理のオーダーもすべて中国語風の呼び名で厨房に通していたのであるが・・・
 それにしても、「餃子」は中国語では「jiao3 zi3」 のはず。「チャオヅ」と「コーデル」では、あまりにも発音がかけはなれすぎている。「コーデル」という発音に似た別名があるのかな???
 ある時、気になって中国人にそのことを聞いてみたけど、そんな言葉は知らないと言われたので疑問は氷解せず。インターネットで検索してもヒットしなかったので、そのままになってしまっていたのだが、
 先日ふと、「コーデルリャンガー」 で検索してみると・・・ あったあった!ありましたあ。
ギョウザの話 投稿者:tomoさん

 日本で「ギョウザ」といえば : 焼ギョウザ
中国で“餃子jiaozi”といえば: ゆでギョウザ/蒸しギョウザ
「焼ギョウザ」は中国語で“鍋貼guotier”

中国語を習い始めた頃、日本のある中華料理屋さんでギョウザを2人前頼んだところ、店員さんが調理場に向かって、「コーデル リアンガ」。
何のことだろうとずっと気になっていたのですが、あるときはたと気が付きました。
“鍋貼両個guotier liangge”だったのです。

     「ことばと文化 あれこれ」 より


 おおお! そうか。 そこでくだんの中国人に再度確認。鍋貼(guo1 tie1) という漢字を見せると、すぐに了解してくれた。

 「コーデル」というから何のことだかわからなかったのですね。そういえば、別の大衆中華料理店では、「リャンガー・コーテー!」 と叫んでいた。(これもくだんの中国人に伝えていたんだけどな)

 中国では日常的には、焼き餃子は食べない。普通は「水餃子」。蒸し餃子もある。
 残り物の餃子を翌朝に焼いて食べることがあると聞いたこともあるが、中国で焼き餃子を食べるところを見たことがない。焼き餃子はめずらしいいので、わざわざ「鍋貼」と呼ぶのである。
 焼き餃子にすると、皮が鍋にへばりつくので「貼」(ぺったりとへばりつく)という文字がついている。

 これで長年の疑問が解けて一件落着。

 しかし、新たな疑問が・・・

 中国の餃子には「ニンニク」をいれないのに、日本の餃子には必ず「ニンニク」を入れる。餃子を食べると「ニンニク」の臭いが強烈で、自分までたまらなくなったりする。

 どうして本家の餃子にはない「ニンニク入り」餃子が日本の餃子の主流になったのだろうか?

 中国の「ニラ餃子」の臭いを、「ニンニク」と勘違いしたのだろうか?

 どなたか、日本式「ニンニク入り餃子」の起源をご存じの方、教えてください。

 と、また、とりとめもないお話でした。

 次回は、「虎」 についての話題を。

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