盃中蛇影(盃中の蛇影・ハイチュウのダエイ)
つまらないことで心身症が発症してしまうこと。
ごくつまらないことでもストレスがたまり、体の病気となってあらわれることがある。
「心身症」はストレス社会では、数多くの人に関係している。「神経性胃炎」などは、心身症の代表例。
さて、「晋書」に出てくるお話だから、今から1,360年以上も前のこと。
盃中蛇影(盃中の蛇影・ハイチュウのダエイ) 晋(シン)の楽広(ガクコウ)という人が河南の長官だった時、客を招いて宴会を催した。その時の客であった親しい友人が久しく見えないので、心配してたずねてみると、その客は病気であった。 ところで、その病気のきっかけがおかしい。 彼が前に楽広の官舎に招かれたとき、酒を飲もうとすると、盃の中に蛇の影が見える、どうも蛇は苦手だなあ。いやなものが見えるが、せっかく招かれたのであるから「ここは我慢」、と 無理をしてその酒を飲んだ。が、どうにも気持ちが悪い、それから帰宅後に病気になったのだという。 「変なこともあるものだ」と楽広は、宴会の部屋を調査した。 部屋には、角(つの)でできた弓が壁に掛けてある。そして、その弓は漆(うるし)塗りで、一見蛇のようにも見える作りであった。 そこで、楽広は、再び宴会を催し、客を前と同じ席に座らせた。 「盃の中に、また蛇が見えますか」 「わあっ!見える、前の時と、おんなじです」 楽広が種明かしをして、弓の影が映っているだけだと説明すると、「なあんだ」というわけで、客の気も静まり、病気もけろっと癒(なお)ってしまった。 |
『列子』に出てくる、疑心生暗鬼(疑心暗鬼を生ず)という話に似ている。
心因性の病気の中には、この話のように、原因が解明されてしまうと嘘のようにケロッと治癒してしまう場合もある。
※『晋書』には「漆畫作蛇」(漆画にて蛇を作れり)とある。弓の格好も模様も蛇そっくりだったらしい。
※疑心(こうではないかとためらい、思案して先へ進めない心)
※疑(思案にくれて進まないこと)騃(ガイ・馬がとまりがちで進まない)・礙(ガイ・とまって進まない)・凝(ギョウ・とまって進まないと同系。
※暗鬼(暗闇の中の幽霊)
※鬼(漢文では、「オニ」ではなく、亡霊・幽霊のこと)
※鬼神(陽の魂が「神」(シン)、陰の魂が「鬼」(キ))
蛇足(画蛇添足)<故事成語>