したのやムラ便りG

東京の片隅に眠る下野谷遺跡。「したのやムラ」と呼ばれる縄文のムラがありました… (non official site)

「冬至」 したのやムラの仲間たち③ 「かめしーた」

2010年12月22日 19時10分02秒 | したのやムラの物語

今日は冬至。

これから日に日に寒くなりますが、

明日から、夜は日に日に短くなり、暦の上では春に向かいます。

北の国の人たちが待ちこがれる日です。

ゆず湯に入りましょうか・・・

                                              

したのやムラの物語 ③

                                                          

今日は一年のうちで一番夜が長い日だ。

そのことは、広場にある大きく立った石が作る影が知らせてくれる。

したのやムラだけではない、ほかのムラでも、

みな、太陽と月の動きで季節を読み、名前を付けている。

今月は「長い夜の終わる月」。

                                                            

この特別な日には、ムラ人全員が大きな住居に集まる。

「ひーお」が特別に焚いた火を囲み、静かに時を待つ。

陽が落ち、遠くにオオカミの声が聞こえ、長老の「まが」が声をかける。

「今日は、一年で一番夜の長い日だ。みんなで、ムラの物語を聞こう。」

赤い漆を塗った大きな木の器にお酒がつがれ、大人たちの間を次々にわたっていく。

子供たちは、干し鮭を一つずつもらう。

だれも何も話さない。くべた薪のはぜる音だけが聞こえる。

最後に「かめしーた」に器がまわってくる。

「かめしーた」は、底に残るお酒を飲み干し、静かに立ち上がり、目を閉じ、

古い石の槍を床にトンとたたいてから話し出す。

「むかし、むかし、まだ先祖達が年中あたたかな太陽のムラにいた頃・・・」

今日は長い夜、ムラの長い物語を聞く夜だ・・・。

                                              

したのやムラの仲間たち ③

                                              

「かめしーた」

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したのやムラ生まれ。したのやムラ育ち。オオカミ族

生まれつき不器用でおっちょこちょい。

狩りに行けば、自分で落とし穴に落ちてしまったり、矢を忘れてきたり、

いつもみんなの足をひっぱってしまう。

では、土器作りを、と仕込まれたが、

4か所つけるはずの模様の4つ目が、いつもなぜか入らなくなってしまったり・・・。

けれど、なぜか誰からも好かれ、いつも誰かが助けてくれるので、

本人はいたって呑気で、いつも元気に、にこにこしている。

                                                             

さて、どうしたものかと、ムラの大人たちの悩みの種。

特に「かめしーた」を育てたおばあちゃんの「みと」は心配で心配で・・・。

「みと」はムラの物語の語り部だ。

だから、「かめしーた」は小さい時から、たくさんの物語をきいていた。

「みと」が、「かめしーた」を寝かせつけるお話の途中でウトウト寝てしまうと、

指で「みと」のまぶたを開いて、お話をお願いするような子供だった。

ある日薬師の「たま」が友達の「みと」をたずねると

「かめしーた」が一人、鼻歌まじりに掃除をしていた。

その鼻歌をなにげなくきいていた「たま」はびっくりした。

それは、とてもとても正確な「ムラの物語」だった。

みんなの悩みの種だった「かめしーた」の役割は決まった。

「ムラの物語の語り部」だ。

「たま」は「みと」と相談し、「みと」は自分の後継者として「かめしーた」を育て始めた。

                                                           

そして数年後の「長い夜の日」。

病気で寝ていることの多くなった「みと」が「かめしーた」に、

古い石の槍を渡してこう言った。

「かめしーた、これはまだ土器をつくることを知らなかったころの先祖の道具だよ。

ムラの物語は、生きていくためのいろいろな智恵の教科書でもあるんだよ。

今日からは、お前がその物語をみんなに語っていくんだよ。いいね。」

「おばあちゃん・・・そんな大切なこと・・できないよ。」

「ムラ人は、みんなそれぞれに大切な役割をもたなければいけないんだよ。

お前の役割は物語を語り継ぐことなんだよ。

大丈夫、おばあちゃんが、いっつも見ているから。

それに、お前はなんでか、みんなに好いてもらえる子だからね。大丈夫だよ。」

                                                              

長老「まが」の声かけで、ムラの物語を聞く夜が始まった。

「みと」は「あん」に支えられて他のムラ人といっしょに座っている。

「かめしーた」はたちあがり、「みと」を見る。

「みと」は、にっこりしてうなづく。 『さあ…大丈夫だよ。』

「かめしーた」は古い石の槍をトンと床にたたいて話し出す。

「むかし、むかし、まだ先祖達が年中あたたかな太陽のムラにいた頃・・・」

                                                         

今日は長い夜、ムラの長い物語を聞く夜、新しい語り部が誕生した夜だ・・・。

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