健康定食BLOG版

心も身体もほっとするオリジナルレシピを中心に、レストランや食材なども満載の食ブログ

角田光代と旅をする

2006-09-04 21:33:24 | 
角田光代さんは、昨年直木賞を受賞した小説家です。カクタミツヨと読みます。直木賞を受賞する4年前に発行された本が、この『恋愛旅人』。求龍堂という美術がお得意の出版社から出版された、これは旅のエッセイ集です。この本、実は買ったのではなく、ブックレビュー用に頂いたものです。『SOTOKOTO』のコラムを書いていたときに、編集部から送られてきたもの。その頃は、正直、僕は角田さんのことは全く知らなくて、なんだこりゃ、みたいな感じで読み始めたのですが、その面白さに引き込まれて、なんだこの人(もちろんいい意味で)という感想に変わり、読み終わる頃にはこの人大好き、に変わった。思い切りこわがりで、方向音痴で地図が読めない著者が、アジアの国々を旅する。そこで起きたいろんなことども。そのどれもが愛おしいエピソードばかり。エッセイなのに、小説みたい。

例えば、ミャンマーで。ヤンゴンからマンダレーに向かう夜行列車。アジアを旅慣れた著者が、これはやばい、というほどの最悪の汽車の旅。巨大なネズミが床をはい回り、夜になると車内の明かりを目指しておびただしい数の虫が入り込み、著者の服を汚していく。虫は苦手なのだ。そんな中、11時近くなって、車内の明かりが消える。虫の侵入が止まる。そして、「全開の窓から顔を出し」た著者が見たもの。

「頭の上すべて、何にも覆われないその広い空間すべて、星空だった。世界を覆う果てのない布地の上で、巨大な硝子をたった今粉々に割ったみたいだった。濃紺の空で星は、大きいのも小さいのも濡れているように、呼吸しているように光っていた。列車は轟音をまき散らしながら星の合間を進んでいくようだった。」

わかりやすい。さらっと、読んで、待てよと戻る感じ。さりげなく、美しい。そしてそこはかとなく、幸福。宝物にしたくなる文章たちなのです。昨年、直木賞を取ってから講談社文庫で『恋するように旅をして』とタイトルを変えて発売されていますが、単行本の方もまだ出ています。文庫本でも書いてあることは一緒。でも、単行本の方をお勧めします。

『恋愛旅人』求龍堂 1470円(税込み)