過去に読んだ本を、すっかり忘れていてまた購入、というのは少なくとも僕にはよくある。この本も、そのひとつ。だが、大事なところは、結構覚えていた。20世紀の心理学は、「自己実現=個の確立」と「異常心理分析」に明け暮れていたが、トランスパーソナル心理学は、普通の人が個の確立を終え、その後に目指すべきものを探す道しるべになってくれる。どんなに、一生懸命仕事をしても、そしてそれがたとえ認められたとしても、さらには経済的にも恵まれたとしても、それだけでは行き着く先は空しさである。頭のいい人ほど、自分の代わりはいくらでもいると感じ、死んでも何も残らないとわかってしまう。その空しさを払しょくするには、つながりを持つ以外にない。そのつながりは、妻や恋人、子どもといった身近な他者から、地域、社会、世界へとひろがり、さいごには生きとし生けるもの、地球環境、過去と未来を包含する宇宙へと至る。これが、他者への依存、地域への依存、国家への依存にならないのは、個が確立しているのが前提になっているから。
それって、宗教? と言われそうだが、宗教なしにスピリチュアルな境地に到達するための心理学といってもいい。心理学といっても、これまでの分析するだけが能の心理学とは一線を画している「つながり志向の心理学」。僕自身もプロデュースに参加した
「21世紀の働き方教室」で得られた僕なりの結論は「人の役に立つこと」で、そのことによって、「人とつながること」こそ、仕事の目的、あるいは仕事そのものではないかと考えていた。まったく見当違いではないのだな、と意を強くした。
トランスパーソナル心理学は、人間性心理学から発展したもので、人間性心理学は、卓越して自己実現を果たし、さらに社会にも貢献している人、つまりは十分に成長した人の特徴を分析することから始まったという。その特徴とは、孤独やプライバシーを好むと同時に、深い人間関係を構築することができ、人類全体への共感や同情をもつことができ、文化や環境からの自立性を持てること。人生を常に新鮮に、そして無邪気に楽しむことができる、などなど。そこから、どうやったら、そうした境地にたどり着けるのかを考える心理学といってもいい。
ここまで読んでも判然としない人。ぜひ、読んでみてください。税別720円はタダみたいなものと思えてくるはず。
講談社新書 諸富祥彦著 『トランスパーソナル心理学入門 人生のメッセージを聴く』