城台山日記

 城台山の麓で生まれ、毎日この山に登り、野菜・花づくり、読書、山登りをこよなく愛する年寄りの感動と失敗の生活日記です。

日本はなぜ貧しくなってしまったのか? 20.11.3

2020-11-03 22:07:43 | 面白い本はないか
 日本はなぜ貧しくなってしまったのか?これはおじさんがここ20年来思っていることである。しかしながら、その理由がよくわからない。賃金が20年の間上昇していないし、物価もほとんど上がらない。働いていたときに、給料がほとんど上がらないことを感じていた。また、預金利率があまりにも低く、貯金する気が起こってこない。かつて郵便局の定額貯金(10年間)に預けると、1.5倍以上になって満期を迎えることもあったことなど遠い昔の話になった。国民の間の所得格差も酷くなっている。その理由を高齢者が多くなったことによるものだと仰る経済学者もいた。実態は、高齢化の影響もあるが若者の低所得もあることがわかった。そして、日本の場合はリッチな人が増えたということよりも、低所得層が増えたということが格差が開いたということなのだそうだ。 

 山田久「賃上げ立国論」から

 かつて読んだ吉川洋「デフレーション」(2013年)は、デフレの原因を非正規雇用が増え、賃金が上がらないこととした。日本の企業はバブル崩壊後、コスト削減のため非正規雇用を増やし、内部留保を積んだ(バブル後の資金借り入れ困難がトラウマになった)。この対応は個々の企業にとっては正解であるのだが、日本国中の企業がこれをやると国民の消費が当然落ち込むことになる。それが循環すれば、ますます事態は酷くなるばかりとなる。なんとなくこの理屈でわかったような気になるが、他の国と比べると、日本だけが賃金が上がらないというのはなかなか説明がつかない。

 山田久「賃上げ立国論」(日本経済新聞出版社)を読んだ。この著者は以前から賃上げが必要だと政府に対して提言している。彼によると賃金の伸び悩みは、①グローバル化の影響とデジタル技術などの技術革新による労働分配率(人件費/付加価値額)の低下、特にGAFAなどスーパースター企業(労働分配率が低い)のシェアの拡大、②日本の労使関係、労組は雇用維持を最優先にし、賃金交渉は二の次(日本の組合は企業別組合、ヨーロッパは産業別組合の違いがある)、③競争制限的な産業保護政策(特に中小企業に対する各種の優遇策)、④物価上昇がサービス分野で消滅したこと、⑤人口減少による国内市縮小観測。そこで賃金を上げるためには、最低賃金の積極的な引き上げと事業承継や合併・買収などによって事業の集約を進めること、企業連携・統合を進めることを提言している。しかし、この後に述べるアトキンソンの主張と比べると最低賃金の引き上げはやや奥歯に物が挟まった印象を受ける。というのは、最低賃金引き上げに最も反対するのは日本商工会議所、要するに中小企業の団体で引き上げると倒産する企業が増えるとの主張に配慮しているからである。人手不足は今後ますます深刻化するのでこのままでも賃金は少しずつ上がっていくのだが、ペースは遅すぎる。日本では最低賃金付近で働く労働者がどんどん増えていることを考えると余計にそう思う。

 さて、歯切れの悪い上記の本とは対照的にデービッド・アトキンソン「企業の勝算」は実に歯切れが良い。この著者を知らない方のために彼の略歴等を紹介しておこう。イギリス人で元ゴールドマン・サックス入社、マネーゲームに飽きて?(本には「マネーゲームを達観するに至り」とある、余計にわからない)、その後国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社の社長となる。工藝社での活躍振り(「イギリス人アナリスト日本の国宝を守る」参照)は面白いし、日本の観光は世界に誇る文化財を生かしていないと厳しい指摘。そして観光政策から日本の抱える様々な問題にまで提言し続けている。今回の本では、今後少なくなる労働者人口を補うためには現在世界で28位にある労働生産性を劇的に引き上げる必要がある。日本は国際競争力は世界5位であり、人材も優秀であるにもかかわらず、なぜ労働生産性が低いのか。その原因は日本では中小企業の数が多く、しかも小規模(小規模になればなるほど生産性は低くなる)。労働生産性が高いアメリカ、ドイツなどの国は大企業、中堅企業の割合が多い。この規模の差が労働生産性の低いことにつながっている。そして、中小企業への各種優遇策は規模拡大への動機を萎えさせる。加えて、低い最低賃金は収益性の低い企業を存続させ、労働者がより収益性の高い企業へ移ることを阻害する。後継者難等から企業の数は減っているが、さらに規模拡大につながるような政策を考える必要があるとする。

 後者の本で日本の労働生産性がなぜ低い(生産性の伸び以上に賃金は上げることができない)ことは何となく理解出来た。前者の本ではスウェーデンの事例が引かれている。この国は生産性の低い企業から高い企業に移ることを積極的に支援する。低い企業を救済することはなく、労働者のスキルを高めるための政策が積極的に行っている。少し前にPIGSという言葉があった。EUのダメな国、ポルトガル、イタリア、ギリシャ。これに対して後者の本ではSINKING(沈みつつある)国として、スペイン、イタリア、日本、韓国、イギリス、ギリシャをあげている。これらの国は生産性が低く、貧困率も高く、人口減少率が高く、出生率も低い(イギリスは生産性は低いが他は悪くない)。 我々の年金、医療、介護の財源は労働者が拠出する資金に大きく依存している。働く労働者の数が減ることは否定できない現実なので、彼らの生産性が上がり、賃金が上がることを期待するより他に手立てはない。

 アトキンソン「企業の勝算」 

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