城台山日記

 城台山の麓で生まれ、毎日この山に登り、野菜・花づくり、読書、山登りをこよなく愛する年寄りの感動と失敗の生活日記です。

読書の楽しみ 22.12.14 

2022-12-14 14:46:59 | 面白い本はないか
県図書館が図書整理をしていた(11月28日~12月12日)こともあって、地元の揖斐川図書館で数冊の本を借りてきた。一つは後半で取り上げるノンフィクション3冊、村上春樹と前半で取り上げる石井光太のフィクション(後者は小説と読んでい良いのかよく分らないが、事実と作者が創作した部分が入り交じっている)。おじさんと同年の村上春樹の本は、最近エッセイの類から読み始め、その後「アフターダーク」「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の旅」そして今回「ノルウェイの森」を読んだ。この中では2冊目が一番面白かった。2冊目と3冊目に共通するのは、高校時代の親しくしていた仲間との不可思議な別れや自死が起こり、その謎が明かされていくような展開とっている。白状するとノルウェイの森は、ノルウェイが舞台だとばかり思っていて、これがビートルズの同曲名であることを知ったばかりである。彼の小説は読みやすい(彼自身こんな小説なら誰でも書けると言われたそうだ)ので、もう少し読んでみたいと思っている。

 冬のバラ

 石井光太の本はフィクションでは「蛍の森」(ハンセン病と四国お遍路が絡む謎多き物語)、ノンフィクションではアジアの子どもの貧困による売春、そして菊田昇医師を書くきっかけとなった東日本大震災によって亡くなられた被災者たちを書いた「遺体」など。そして昨日と今日「赤ちゃんをわが子として育てる方法を求む」(2020年4月)を読んだ。この小説は、菊田昇産婦人科医師の生涯とその苦悩と闘いについて、細かいところは別として忠実に再現している。菊田昇事件として知られている(おじさんも新聞で読んで名前を知っていた)。その前に望まれない出生は現在でも多く、このための処置として産婦人科医による妊娠中絶手術が行われている。日本では1950年代に100万件以上の中絶が行われ、中絶大国として有名だったという歴史を知っておくことが必要であろう。菊田医師は中絶(法律上は7月までの胎児の中絶が認められ、以後は認められていなかった)を沢山手がけ、それによる収入が医院の主たる収入源ともなっていた。しかし、妊婦の中には8月以後の者もいたが、本人、親族の意向により中絶が行われていた。菊田医師は中絶したものの、生きて生まれてきた胎児の処置に苦悩するのである。もちろん、より深く苦悩する理由として、彼は遊郭経営の家に生まれ、兄弟同然に育った遊女(身売りされた)の死(妊娠し、経済的理由等で中絶婆に堕胎を頼んだ結果死亡した)があった。そこで菊田医師は妊婦に密かに出産させ、乳児の出生書を偽造するとともに、赤ん坊を希望する夫婦に実子として育てるようマッチングする。最初は密かに行われていたこのマッチングだが、経営する医院の不妊に悩む患者等だけでは斡旋が不可能になり、ついに地元の新聞に「急告!生まれたばかりの男の赤ちゃんをわが子そして育てる方を求む 菊田産婦人科」という広告を出した。

※優生保護法(1948年~96年)優生思想・優生政策上の見地から不良な子孫の出生を防止すること、母体保護という二つの目的を有し、強制不妊手術、人工妊娠中絶、受胎調整、優生結婚相談などを定めた法律。この法律には当初経済的理由による中絶は認められていなかったが、後に経済的理由も加えられ、中絶が増えた。現在この法によって強制不妊手術が行われたことについて訴訟が起されている。

 この新聞広告から新聞社の取材を受けた。菊田医師の願うことは、妊娠7月以上の中絶の禁止(その当時8月未満すなわち7月までは中絶が認められていた。これ以後の中絶は生きて生まれてくる可能性があることと母体への大きな負担となる)と生まれたばかりの赤ちゃんを養子縁組できる制度の確立であった。しかし、産婦人科医が殺人鬼とも言われかねない事態を招いた菊田医師に対する反発は産婦人科医の中で強く、ついには優生保護指定医の取り消し(中絶手術ができなくなる)、愛知県産婦人科医による告訴、そして罰金刑、医師免許の停止6か月という思い処分が下る。斡旋を行わないと約束させられ、ハワイへの養子縁組(アメリカでは認められている)に打開を求めた。やっとのことで妊娠7
月以後の中絶が禁止され、念願の特別養子縁組が1988年から認められた。菊田医師は1991年4月国連の非政府機関である国際生命尊重会議が設けた「世界生命賞」を受賞した。この賞は一回目がマザー・テレサに次ぐ者であった(実は彼女自身が日本を先進国であるのに多くの命が奪われていると非難していた。菊田医師はこの受賞を受けたとき、既に末期がんに冒され、その年の8月永眠した。
 
 妊娠中絶問題は、日本では大きな政治問題となることはない。しかし、海の向こうアメリカでは今や大変な問題となっている。中絶賛成と中絶反対はプロチョイス(女性の選ぶ権利)とプロライフ(胎児の生命の尊重)と言われ、今や政治的大問題となっている。その問題を激化させたのは、連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた女性の権利」という判決を22年6月にそれを覆す判決をした(トランプ政権が保守派の最高裁判事を任命し、保守派が多くなった)ことによる。この判決の結果、オハイオ州では妊娠6週間過ぎの中絶(それ以前の中絶ほとんど不可能に近い)を禁止した。共和党はプロライフに賛成し、民主党はプロチョイスで真っ二つに分かれている。日本は今や世界と比べて中絶が多くないようだが、日本の社会は未婚のカップルによる出生に厳しく、あるいは戸籍に出生の記録が残ることについて未婚者とその親族が忌避する傾向にある。こうした傾向は中絶を生むか、あるいは妊娠を避けることにつながっていると思われる。そしてそれは少子化問題とつながってくるのである。

 話は変わって、社会に飛び交う様々な情報に私たちはどのように対処していけばよいのだろうか。各種メディアを遠ざけ、人からも離れてしまうような暮らしをすれば良いのだろうが、そんなことはたいがいの人には不可能である。このブログを書くのにグーグルを駆使しているが、そこに書かれていることが真実であるという保証はない(もちろん確かな記事を参考にしているが)。1923年9月1日関東大震災が起こった(関係ないことだがおじさんの母親は23年9月22日産まれで現在99歳)。この時、「朝鮮人が殺傷や略奪をしている」「井戸に毒薬を投げ入れた」とのデマが流れ、自警団によって多数の朝鮮人が虐殺された。そして2011年東日本大震災の直後に被災地で「外国人による犯罪が横行している」とのデマが流れ、多くの人がそれを信じた。情報が溢れる時代となっても、むしろそれ故にそれが正しい情報であるかどうか判断できなくなっている。特に誰でもSNS等を通じて情報を発信できる時代になり、人の関心を集めることが経済的価値を生む「アテンション・エコノミー」(この用語初めて聞いた)(例えばSNSでPVを沢山集め、それにより広告収入が個人に入る)の時代になると嘘であろうがなかろうが人が驚くような内容を発信するようになる。こうしてデマが生まれ、人はそのデマに踊らされ、場合によっては不幸な結果を招く。

 読売新聞大阪本社「情報パンデミックーあなたを惑わすものの正体」(22.11)はコロナをめぐるデマ等に焦点をあて、その実態とそれがなぜ起きたのかについて分析している。ネットニュースを見たり、ネットで買物をしているとお薦めの記事や商品が次々と現れる。ニュースではいつも見ていると同じような記事ばかりが並ぶようになる。こうしたことを続けているとそれとは見解を異にする内容の記事は現れなくなるのである(これはAIによるアルゴニズムによる)。これはSNSの特徴であるエコーチェンバー。フィルターバブル、確証バイアスンなどによるものであり、結局「人は見たいものを見て、信じたいものを信じる」ということになる。こうなると違った見解を持ったグループの間で有益な話し合いは不可能となる。

※コロナワクチンにまつわる誤情報 ①不妊になる、②遺伝子が組み替えられる、③卵巣にワクチン成分が大量に蓄積される、④死亡リスクが高くなる、⑤体から毒素が流れ出して周囲の人々に悪影響を及ぼす、⑥マイクロチップが含まれていて、行動の監視をされるおそれがある。調査によるとこうした情報を信じる人々が約1割強いるということだ。こうした誤情報を信じる者たちは時にはデモに参加し、また家族を巻き込んだり、家族間の関係悪化を招いたりしている。
※※エコーチェンバー・・・小部屋で音が反響するように、似た価値観を持った者同士、競合する意見に耳を貸さない
  フィルター・バブル・・見たい情報だけを通過させるフィルターによって(泡に包まれたように孤立した)それ以外の情報から遮断させるしくみ(AIが人の好みを分析し、それに合った情報のみを提供する
  確証バイアス・・・・・人にはそれぞれ価値観や主義主張、物事に対する意見や願望がある。知らず知らずのうちにそれに合致する情報を集め、相反する情報は排除してしまう

 京都大学の佐藤卓己教授は、人々がストレスと不安の解消を求め、コミュニケーションを重ねる中で尾ひれがついてしまう。今や大量の情報が溢れ、真偽がわからないものに囲まれている。不安な時、あやふやな情報に接すると早く答えが欲しくなるし、都合の良い話だけに接していたいという感情もある。だがそこで焦らずに正誤の判断を先延ばしにすることを心がけて欲しいと言っている。また同書では偏りを強化するSNS空間に閉じこもらない、自分からできるだけ異なる意見に触れ、拒絶せずに話を聞いてみる経験を積み重ねることが必要であると。

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