
上左から ルーセル交響曲4番、バラキレフ交響曲1番、アダン「ジゼル」のジャケ。 下左から クリシュナ・ラージャ4世 (在位1894~1940)、チャーマ・ラージャ11世 (在位1940~47)、1784年のマイソール王国の版図、ルーセル、バラキレフ。
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戦後から亡くなるまで (1946~89年) 休みなく続けたカラヤンの膨大な録音に、珍曲 (?) があります。 録音年代順に取り上げると、まず ルーセル 交響曲4番 (24分) とバラキレフ 交響曲1番 (44分) です。 1949年の英 EMI 録音で、勿論モノーラルです。
フィルハーモニア管のスポンサーだった インドのマイソール藩王音楽財団の後援を受けての録音です。 戦後 EMI で録音を始めた御大は、「ルーセル? バラキレフ? 指揮した事も、聴いた事もないが、(プロデューサーの) レッグが録音しろというなら …」とかいって英アビーロードスタジオ (冒頭上左ジャケ写真) で録音したのだろうと推理します。
戦前 ナチス党員だったカラヤンは戦後すぐには殆ど公開演奏会では指揮できず、連合軍に顔の利く EMI の大プロデューサーの依頼 (?) と仮定すると、録音という仕事ができる環境を用意してくれたウォルター・レッグには頭が上がらなかったはずです。
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他にも 御大は録音したが、演奏会では取り上げなかった曲があります __ アダンのバレエ音楽「ジゼル」(DECCA 1961) です。「米ロンドン・レコードからバラバラに届いた楽譜は通し番号もなかったので、カラヤンと VPO は片っ端から録音した。 デッカの技術陣は、貯まった録音テープの山を繋ぎ合わせて何とか一枚の LP に仕上げた」(プロデューサー J. カルショー)。 英デッカの米国販売会社からの依頼録音だったようです。
私は「ジゼル」を最初から買う気はなかったのですが、『カラヤン大全集』には含まれていたので 聴いてみました。 耳障りのよいメロディーが延々と続くのですが、個性が薄く聴き終わっても記憶に残りませんでした。 その他にも まだまだあります。 シューマンの交響曲1~3番、メンデルスゾーンの交響曲1~3番・5番、チャイコフスキーの交響曲1~3番などです。 発売は DG です。
これらは、DG 社のプロデューサーから「マエストロ、全集ものにするから録音を頼みますよ。 あなたの名前が付くと売れるんですよね」とか くすぐられるように (?) 頼まれて、録音したのでしょう。 気が進まなかったからといって、やる気のない イヤイヤながらの指揮ではなかったと想像します。 そういう否定的な批評がないからです。
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普通 指揮者人生は長いですから、最初から自分の好みの曲だけ指揮できる人はいないでしょう。 1955年に BPO の常任指揮者に就任して以降、カラヤンは演奏会で やっと自分の取り上げたい曲だけを指揮したのではないでしょうか?
小沢が BPO の支配人とベルリンでの演奏会曲目を検討し始めた頃、小沢の希望曲を提示すると、支配人から「これはこの前カラヤンが振ったからダメ、これは今度ベームが振るからダメ …」とダメ出しの連続だったそうです。 小沢が駆け出しの頃の話しでしょう。
誰しも 修行時代とか、不遇時代とかは好まない仕事も引き受けざるを得ないっていう羽目に直面する事があるものです。 この仕事はホントは嫌なんだけどな … でも上司がやって来いっていうから仕方ないか __ といった類いの いわゆる “やっつけ仕事” やルーチンワークの経験は誰でもあるんじゃないでしょうか? 逆にそうした経験のない人の方が珍しいと思います。
自分好みの曲だけ指揮できる人って “幸せな指揮者” のはずで、多くはそうなる前に指揮者人生が終わったり、諦めて別の (音楽関係の) 職に就く人の方が圧倒的に多いと想像します。 オーケストラや歌劇場の支配人、録音制作会社のプロデューサーなどの経歴を見ると 元指揮者というケースが多いのに気付きます。
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マイソール王国 (Kingdom of Mysore) は、14世紀末から20世紀中頃にかけて、南インド、現在のカルナータカ州のマイソール地方に存在したヒンドゥー王朝 (一時イスラーム王朝 1339~1947)。 1947年 インド・パキスタン分離独立時、マイソール藩王国は帰属先をインドとし、その領土はマイソール州となった。 1973年以降、このマイソール州はカルナータカ州として再編された。 マイソール藩王国だった地域は、現在もインドにおける経済と技術進歩の最前線として威光を保っている。
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ルーセル (1869~1937) はフランスの作曲家。 印象主義から新古典主義に進み、モーリス・ラヴェルとともにクロード・ドビュッシー亡き後のフランス楽壇をリードした。
バラキレフ (1837~1910) は、ロシアの作曲家。 今日では作品よりも「ロシア五人組」のまとめ役として知られている。
アドルフ・アダン (1803~56) は、フランスの作曲家・音楽評論家。中世ドイツの村を舞台に、恋人に裏切られて命を落とした村娘ジゼルが、死後に精霊ウィリとなっても愛を貫く様を描いた物語である。 ロマンティック・バレエの代表的作品であり、世界中のバレエ団で上演されている。
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肝心の曲ですが 私も興味ないので、ルーセルとバラキレフの曲は聴く気が起きません。 聴いても、やっぱり …
偶然ですが、徳岡直樹氏の YouTube 投稿 (1月17日 https://www.youtube.com/watch?v=7PbhtyQJknc) で見つけました。 カラヤン指揮のバラキレフ録音紹介のビデオです。 興味ある方は聴いてみてはいかがでしょうか。
今日はここまでです。