シャンテ サラのたわ言・戯れ言・ウンチクつれづれ記

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インバルのマーラー CD 制作舞台裏2

2014年10月29日 | マーラーの嘆き節
08年11月2日 投稿分 __ 写真左は録音時のスタジオ風景__左からコンサート・マスターのパギン、川口、インバル、技術の高橋。 中央はモニタールームでプレイバックを聴く指揮者のインバルと川口。 楽団員も集まって耳を傾けている。 右は全集の完成パーティーで__左から川口、日本コロムビア常務の蔵田徳治 (故人)、インバル、ヘッセン放送音楽部長のエンケ (故人)。
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日本コロムビア/デノンの企画もので、成功したのは、「美空ひばり」と、鮫島の日本の歌シリーズ、そしてこのマーラー交響曲シリーズでしょう。
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「美空ひばりショックで販売チャンスを逃す?~今のような極端な採算性優先、経済重視ではいい作品は作れない」(07年6月8日 川口義晴『音楽プロデューサーという仕事第5回』 / NB online) __ ※追加1へ
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ハイライト盤は十分に購入意欲をそそるものでしたが、前回も書いたように、ためらわせたのは、そのジャケットデザインの悪さです。 鮫島シリーズもそうですが、微笑む彼女の写真だけを並べるだけのデザインも何もない安直な作りとしか思えません。

マーラー交響曲シリーズでは一枚の同じデッサンを全曲に使い、違いは曲ナンバーだけという これも安直なデザインです。 いかにデノンはデザインにカネを掛けていないかが想像できます。 CD 購入者が CD を再生して曲を聞く時、或いは曲を思い出して聞こうと思う時、連想するのはジャケットデザインです。

それがいいデザインだと、「そうだ あのいいデザイン CD の演奏を聞こう」という気分になりますが、悪いデザインだと、「あの悪いデザイン CD の演奏を聞こうと思うが …」となりはしないでしょうか?

総じてヨーロッパ系、特に DG はデザインがいい CD が多いです。 デザイン製作者は美術をよく見ていると想像でき、曲にあった写真や絵画を選んでいます。 そのために、デザイン専門学校を卒業した者か専門会社に外部委託しているのではないかと思います。

最も感心したのは75年発売のカラヤンの初のマーラー5番に使われた “虹をデフォルメした斬新なデザイン” で、これまでのカラヤン或いはマーラー CD とは大いに違うと思わせるものでした。 お陰で私は一枚物の日本制作デザインの「カラヤンのマーラー5番」を持っていたのですが、後でこのデザインで二枚物の「カラヤンのマーラー5番」を買い直したほどです。

デノンは社内で制作していると想像しますが、その部門には専門家を配しているかどうか疑うような作りです。 ヨーロッパ系の製品は押し並べてデザインが優れていますが、アジア系はデザインもへったくれもない機能だけの製品が多いですね。 もっとデザインを重視して、 「あのいいデザイン CD の演奏を聞こう」という気分にさせて欲しいものです。

以上


※追加1__ エリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団によるマーラー交響曲シリーズは、まずフランス、続いてドイツと、ヨーロッパでの評価が最初に確立された。

だが 肝心の日本での評価が盛り上がらない。 いや盛り上がらないという以前に、日本ジャーナリズムが関心を示してくれないのである。 業を煮やした川口義晴プロデューサーは、指揮者をコンフェランスに呼んで語らせるという、当時としては画期的な企画まで立てて実行するのである。 そしてようやく風が吹き始めたのだが、それは既に第5弾のリリースにさしかかろうとする頃 (1986年) だった。

■ マーラーの世界的権威を呼び、対談の場を設ける ■
__インバルを呼んでマーラーについて語らせる、そんな会見を開いてジャーナリストたちの目を開かせる、大変な苦労でしたね。

川口:でも、当時は苦労だなんて思いませんでした。 努力したといった感じも全くしない。 少なくとも、ディレクターとしてやっていて、努力して大変だったとか、… 大体僕は努力するのは嫌いだし、そう思ったものは まずうまくいかない。 何とかしなきゃ、いつもそれだけでした。 このイベントはインバルも結構楽しみながらよくやってくれましたよ。

ただ通訳を用意したのに、ちゃんと自分の意志が伝わっていないといい出して、いきなり僕がフランス語の通訳に駆り出されたのには困りましたけどね。 通訳の人には悪いし、インバルは歯の矯正をしている最中だったので、言葉が聞き取りづらい。 閉口しました。

__アンリ=ルイ・ド・ラ・グランジュもそのあとしばらくして来ましたね。

川口:この間お話したように、彼はマーラー研究の第一人者であるわけですが、フランクフルトで話していたら 近々岡山県津山市の音楽祭での講演のために日本に行くという。 それでいいチャンスだと思い、日本の宣伝をしている久木崎秀樹さんに連絡して、彼 (ド・ラ・グランジュ) と「レコード芸術」誌の交響曲欄を担当している評論家と話をさせるセッティングをしてくれ、と頼んだんです。

なにしろ、その評論家だけがインバルのマーラーについて最後まで厳しい評価をしていた。 自分はマーラーの権威だと思っているし、一筋縄ではいかない。 その対談は実現しました。 

僕はその対談の場にはいなかったし、日本にもいなかったから、後から聞いた話ですが、「あなたの評価はまったくだめだ」「マーラーについての認識も間違っている」、とド・ラ・グランジュの指摘は痛烈だったらしい。 それで、その評論家はインバルに対する評価を変えた。 それでインバルのマーラーは、やっと評価が定まってきたんです。

■ インバルへの印税、そしてひばりショック ■
__このマーラー・プロジェクトの予算は破格に安かったということですが、それでも通常の規模ではなかったでしょうね。

川口:ええ、それはもうオーケストラを雇ってやるわけですからね。 ソリストも入ります。 第8番《千人の交響曲》は8人ですから、声楽ソリストが。 しかも、いちいちこっちから人が行かなきゃならない。 機材を調達しなきゃならないことだってある。 室内オーケストラの録音だったら マイクも4~5本で足りるかもしれないが、全然規模が違いますからね。

__予算の具体的な数字は秘密ですか。
 
川口:昔のことなんで、僕自身があまり覚えていないのです。 とにかくオーケストラに対する支払いは高くはなかったですよ。

__ヘッセン放送は何も出さないわけですね。

川口:うーん、結局、ホールの費用を持つとか、練習と称して録音セッションを組むとか、そういうことをやってくれましたね。 それから、コーラスはドイツの放送局間の規定があるから無償でいいとかね。 すごく助かりました。 インバルについても、放送局の職員だから一切払うなとね。

__え、それはないでしょう?

川口:プロジェクトがスタートして半年ぐらい経った時かな、僕はインバルに呼びつけられました。 それも、ヴェネツアまで来いとね。 マーラー指揮者にヴェネチアで会うなんて、ヴィスコンティの映画みたいですけど、インバルは当時 フェニーチェ劇場の音楽監督もやっていましたから。

「俺の条件はどうなってるんだ」ってわけですよ。 それで僕は「放送局がこういってるけど」と切り出しましたが、インバルは「そんなことどうだっていい」、ほっとけってね (笑)。 放送局も、それは分かってるわけですよ。 知らない振りしているだけでね。

それで、印税を付けようということにしました。 ソリストの数に合わせて加減しながら、ですけど。 ソリストについては、コロムビア (現・コロムビアミュージックエンタテインメント) 側が負担しなければならない。 最後にやった第8番、これはソリストに膨大なギャラがかかるから、インバルは「印税はいらない」っていってくれました。

それではありがたいんだけど、そんなわけにはいかない、象徴的にでも我々は払うってね。 つまり、印税を払うという原則は崩したくなかった。 売れてから、フェアじゃないってアーティストにいわれる事があるかも知れない。 だから、この曲に関してだけ 他よりも低い印税率にしました。 象徴的というのはそういうことで …。 でも結果的に、彼に支払った印税はトータルでは ものすごい額になりましたね。 世界的なベストセラーになったわけだから。

__最も売れた交響曲は何番でしょう?
 
川口:どれも平均的に売れましたよ。 でもやはり5番、1番《巨人》かな。 ただ人気の高い第5番の再プレスをしている時に、美空ひばりが亡くなっちゃって、工場がひばりの追悼盤を総がかりで作らなきゃならなくなった。 それで、輸出用のマーラーの CD の製造が遅れてフランスには迷惑かけましたね。 フランスじゃ、ひばりショックで1万枚損したといってましたけど (笑)。

■ 採算性優先ではいいものは作れない ■
__クラシックのアルバムは、確かに制作に経費がかかりますが、出来上がった作品は年をとらないといいますか、聴き手が変わればまた新しくなる。 新しい魅力と価値をもって輝き出す。 だから、ビジネスとしての息も長いように思いますが。
 
川口:そうだと思います。 ただ、他のレコード会社は知りませんが、レコード会社によって採算ベースについてのそれぞれの考え方があります。 コロムビアの場合は原則、採算ベースが3カ月、でもクラシックは6カ月の発売期間でした。 つまり6カ月の売り上げで採算をとれという …。 それは無茶ですよ。

__5年とかにしてほしいですね。
 
川口:そうそう。 当時、僕が1年にしてくれって提案したら、とんでもないといわれました。 再版して利益を上げると言い訳したりしましたけど、基本はそうですよ。 でも、今はもっと厳しくなっているみたいですね。

だから クラシックの録音なんて、なかなかできないですよ。 こういう状況は、どうかなって思いますよね。 経済優先、採算性優先が極端になると、作れません。 今はどの会社でも、録音する前に営業からハンコをもらってこいとか、そういうことになってるらしい。

何枚売れるから営業はオーケーする、その証明を取ってこいってね。 でも営業は営業でそれが達成できないと、経理からガンガンやられるわけだから、もうびびっちゃって滅多にハンコなんか押さない。 そういうやり方では、本当にいいものは作れなくなりますね。 確実に売れるものだけが、いい商品だということになる。

__現状を見ていると、じゃ演奏家が経費を支払い、ある程度製品を買い取るから作ってください、そういった制作が多い。
 
川口:そのようですね。 そんな状況じゃ、面白いものは作れませんよ。 金のある演奏家だけが CD を作れる。 つまり企業が弱体化したんです、プアになったんです。

__しかも哲学がなくなった。
 
川口:そう、昔は金銭的に難しい仕事を持ちこたえるだけの経済力と考えを持っていたけれど、今はそれがない。 グローバル化なんていって、儲かっている IT 企業なんてありますけど、彼らがいかに文化に金を使わないか。 音楽に金を出すなんて、全然ない。 音楽と経済、どちらが勝つかなんて、経済が勝つに決まってますよ。 経済的なことだけを考えたら、クラシックはまず無理ですね。 オーケストラなんてとっくに運営できなくなっている。 採算取れないんだから。

__経営原則は通用しない。
 
川口:無理です、今は。 でも昔はできたんですよ、インバルのマーラーの交響曲全集ができたんだから。 すったもんだしながらでもね。 相当の利益だって出たわけだし。 でも今は、もうそういう環境に全くありません。 これは大問題だけど、当分は改善されないと思いますね。 もっといえば、地球の温暖化と同じくらい、文化は貧困化している。 同じ原因によってです。
               
以上

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