*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽
「第2章 洗脳作業」を複数回に分け紹介します。5回目の紹介
( Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。
作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。
( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。
過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」
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**『東京ブラックアウト』著書 「第2章 洗脳作業」の紹介
前回の話:【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※4回目の紹介
「避難行動要支援者名簿は、どうやって更新したらいいですかね? もちろん、年に1回とか、定期的に自治会や町内会経由で更新しますけどね。事故はいつ起きるかわからないんだから、起きたときに把握できていない要支援者がいても、助けに行けませんよね」
と、県庁職員が冷静に問題提起する。東田係長の両眼がキラリと光る。
「・・・なるほど。そうですね。ただ、できる範囲でやっておく、ということではないでしょうか。もちろん年に1回より、半年に1回、半年に1回より3ヶ月に1回のほうがいいに決まっている。突き詰めれば、毎日ってことにもなる。ウェブを使えば常時リバイスできるかもしれない。
けれども、リバイスの頻度を国が一方的に決めるってことではなくって、自治会の方々の能力、意欲に応じて柔軟に対応していただく、ってことにしかならないんじゃないですかねえ」
東田係長は有能だ。相手に真っ向から反論するのではなく、相手の言い分をまずは認めながら、いつの間にか煙に巻いている。
「それと、安定ヨウ素剤ですけどね。事前に配布するのはPAZの住民だけということになってますけど、PAZの外の住民も事前に欲しがっているんですよね。UPZくらいは事前配布したらどうでしょう?」
県庁職員が続ける。
「それは、お任せします。県単でおやりになることはかまいません」
そう、東田係長は切り捨てた。
「県単」というのは、自治体が独自に県の単独予算で行うということだ。国はカネは出さないけど、やりたければ勝手にどうぞ、ということになる。事実上のダメ出しである。
「UPZに配ったら、今度はその外の住民が欲しがります。次はPPAの参考値として示された50キロ圏内の住民・・・その次は、放射性プルームはどこにでも届くといって、日本国民全員が欲しがります。
が、全員には配れないんです。国はPAZで線を引いた。ですから、それ以上は、欲しがる住民のいる自治体がどうぞ勝手に調達してください、ってことですかね」
問答無用、取り付く島もないとは、このことだろう、しかし、こうしたやり取りを通じて自治体の3人は、地元に戻ったあと地元自治会や町内会に対して語る言い回しを教えてもらっていたわけだ。
ーこれこそが、内閣府原子力災害対策担当室の本務であった。
(8)
みっちり2時間の打ち合わせを終えて、県町村のデコボコトリオがビルの前の駐車場から、六本木1丁目の駅の方向に下っていく。六本木ファーストビルの原子力災害対策担当室の窓から、その3人の姿が小さく見えていた。その3人に、隣の巨大ビルや首都高速の橋架が覆いかぶさっていく。
原子力災害の潜在的被害者の代表から、国家権力の担い手としての自覚を植えつける洗脳作業はうまくいった。心なしか3人の足取りも力強く見える。
あとは、今日構築された国と自治体の共犯関係を、県と市町村、市町村と自治会町内会連合会、自治会町内会連合会とそれぞれの自治会や町内会に及ぼしていけばいい。水が高きから低きに流れるように、国家権力の一端を担う快感も、国から県、県から市町村、そして自治会町内会連合会、各自治会や町内会に伝播していく。
自治会や町内会の会長さんといえば、地域の名士だ。昔の庄屋だ。保守党の伝統的な支持基盤でもある。都会ならともかく、原発があるような田舎では、自治会長さんや町内会長さんがOKということに、表立って歯向かう者はいないだろう。
窓辺でデコボコトリオを見遣る経産省出身の東田係長の肩を、うしろから守下副室長が軽く1回ポーンと叩いた。
(よくやった、ご苦労さん)
言葉には発しなくとも、守下副室長の慰労の気持ちは東田係長に伝わった。
自分と副室長の2人で、なんとか避難計画の策定作業は回っている。いずれ、避難計画の策定が大詰めになった暁には、守下副室長を男にするためにも、自分が志願して、仙内の地元市町村に赴き、直接住民と対峙しよう。
この原子力規制庁のなかでは、経産省に戻って出世する可能性があるのは守下だ。自分の頑張りを守下にアピールすることで、守下の出世を通じ、自分の将来に必ずリターンがあるだろうーこう東田係長は冷静に計算していた。
※「第2章 洗脳作業」の紹介は、今回で終了します。
引き続き「第6章 再稼働に隠された裏取引」の紹介を始めます。3/19(木)22:00に投稿予定です。
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