*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽
「第1章 避難計画の罠」(「プロローグ」含む)を複数回に分け紹介します。16回目の紹介
( Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。
作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。
( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。
過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」
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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介
前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※15回目の紹介
「自家用車なんか使わしたら、UPZの住民が大人しく自宅待機をしてくれたって、道路はやっぱり大渋滞だよな」
それを受けて守下副室長が、全体の雰囲気が固まる前に機先を制して発言する。
「自家用車での避難なんて絶対させるわけにはいかん!」
その場が重苦しい空気に包まれた・・。
「じゃ、住民は一時避難場所に集合して、民間でチャーターしたバスが向かえに来るまで待つ、ってことですか?」
と、旧自治省出身の総務省から出向した課長補佐が尋ねる。
「それに、自家用車での退避を禁じる法律的な根拠もない」
黒城室長も、ようやく口を開いた。
旧自治省が続ける。
「民間バスはどう調達するんですか?」
この人物が属する現総務省は、省庁再編後も唯一、採用を一元化していない役所だ。戦前の内務省の流れを汲む旧自治省が、旧郵政省や旧総務庁との採用の一元化を拒否している。自分たちこそが旧内務省であり官界の本流という、プライドで生きている人種である。
「メルトダウンが起きかかっていて、いつ被曝するかもしれないPAZなんかに、どうやって民間のバスの運転手が来てくれるんですか?」
こう、警察庁出身の係長が続いた。警察庁出身の室長が自制しつつも懸念を示している以上、自分が経産省出身の副室長に噛み付く役割だと自覚しているようだ。
・・・気まずい時間が流れる。5秒か10秒か経った所で、守下副室長が口を開いた。
「自治体と民間バス会社との間で災害時の協力協定でも結ばせとけ!民間事業者も自治体も何かいいことをした気になって、ホイホイ締結するぞ。いざとなったときはそのときだ。実際に事故が起これば、それどころじゃないんだから」
みなが助けを求めるように、警察庁出身の黒城室長のほうに顔を向ける。
「自治体と民間バス会社との間で協定が締結されている以上は、災害時にはきちんと協定の内容が履行される、ということを前提にするんだな・・・」
そう黒城室長が、ポツリとつぶやく。
いちいち角を突き合わせていたら、この部屋のなかで、いつまで経っても避難計画のガイドライン案がまとまらない。そうなると自治体の避難計画の策定が進まず、再稼働に必要な自治体の同意も得られない。
再稼働が進まないと、必ず誰がボトルネックなのかという犯人探しが始まる。原子力規制庁の審査部の連中が、世間の逆風に晒されながら、規制基準へ適合性をようやく認めている。なのに警察から来た室長がもたもたしていると、原子力規制庁長官や放射線防護対策部長といった要職のポストを警察出身者が占めていることを快く思わない連中から、「やっぱり原子力に素人の警察官僚には無理だ」と、ネガティブ・キャンペーンを張られ、警察のポストが奪われかねない。
そこまで頑張る必要はないというのが井桁原子力規制庁長官のご意思だろうと、黒城室長は忖度した。
※続き「第1章 避難計画の罠」(「プロローグ」含む)は、3/9(月)22:00に投稿予定です。