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エネルギー多神教の勧め

2014年02月15日 | 経済

  反原発一神教の限界

                     2014年2月16日

 

  中部電力が浜岡原発(静岡県)の再稼動に向けて、原子力規制委員会に安全審査を申請しました。都知事選で「原発即ゼロ」の細川・小泉連合が敗北したのをみて、タイミングを計って、申請したのかも知れません。

 

 原発そのものの安全性が新しい規制基準を満たしたとしても、南海トラフ巨大地震の想定震源域に立地しているため、最終結論をだれがどういう考え方のもとに出だすのか、難問ですね。原発容認の安倍政権も判断に苦しむでしょう。浜岡原発については、朝日、毎日新聞がすぐに食いつきました。都知事選で脱原発、反原発を強硬に訴え、世論に影響を与えようとしたのに、宇都宮、細川氏が負け、現実派の舛添氏が勝ちました。面目をなくしたので、浜岡原発の問題で息を吹き返そうとしているかのようです。

 

 結論から申し上げると、原発をなにがなんでも否定しようとする「反原発一神教」に走らず、原発を含めてエネルギー政策は多様な選択肢をもっている「多神教」でなければならないということです。安全性の向上はもちろん、経済社会の維持と成長、環境への影響、放射性廃棄物の処理、それらのコスト、電力料金の水準、エネルギーの安定供給と安全保障、エネルギー自給率の引き上げ(日本は4%)、エネルギーをめぐる国際情勢、将来の技術革新などを常に総合的に考え、日本の持続的成長を可能にしていかねばなりません。

 

 それでは朝日、毎日の考え方に触れましょう。朝日は15日の社説で、「浜岡を動かしてはならない」と主張は明快です。巨大地震の震源域にあり、福島原発のような事故が再現したら、80万人とも100万人とも想定される避難民がでよう、さらに東名高速道路、東海道新幹線が通り、事故の規模によっては東西を結ぶ大動脈が絶たれることなどをあげています。

 

 毎日新聞はどうでしょうか。「検討すべきは再稼動ではない。廃炉の検討を」と、これまた、申し合わせたように、結論がはっきりしています。安倍政権への注文として「安全審査を申請したのは、10原発17基になる。審査合格をお墨付きにして再稼動をなし崩しに進めてはいけない」、「再稼動を必要最小限にとどめ、原発依存度の低減を」などと主張しています。

 

 原発の安全審査は専門家の集まりである原子力規制委員会があたることになっています。両紙には、かれら以上の専門的知識、判断力を持ち、個別の原発の是非を語れる記者が何人もいるのでしょうか。そうは思えませんね。事故がおきたら真っ先に危険にさらされる周辺地域の市長さんたちは「委員会の結論をみてから、厳格に考える」、「審査状況をしっかり見守り、市民の安全が担保されるか見極める」といい、静岡県知事も「われわれも学術会議で報告書を徹底的に調べる」と語っています。これがものごとの順序として、常識でしょう。

 

 規制委員会そのものが「安全性を科学的かつ公正に判断できる組織なのか」という批判があり、独善的ではないのか(厳格すぎる)と、いわれています。マスコミがそれ以上に独善的なのは困りますね。結論がでてから、第三者の専門家の意見を聞き、新聞社としても論調をきめるべきでしょう。毎日の社説に「中部電が再稼動を目指すのは経営改善のためだ」という箇所があります。原発が止まっていると、火力発電などで補うため、コストが余計にかかっていることは事実です。だからといって「経営改善のため」と切り捨てられては、かわいそうです。原発を将来にわたって何とか維持していきたい、というのが本心でしょうね。ソロバン勘定からきているのではないと思いますよ。

 

 おカネの話なら、中部電は海抜22メートルの防潮堤の建設など、3000億円もの安全対策に取り組んでおり、かりに規制委員会が「再稼動ノー」の結論をだしたとしたら、このお金はドブに捨てることになります。巨大地震の震源域だから「ノー」というなら、中部電が安全対策と取り始める前に「待った」をかけておくべきだったでしょう。

 

 エネルギー多神教の話をしましょう。一橋大の橘川教授は「40年廃炉基準を厳格に運用すると、2030年末、現存する48基のうち30基が廃炉となり、残りは18基、これに新規工事を再開した2基をくわえると、電力の原発依存度は15%(2010年は26%)となる。再生可能エネルギー30%、火力40%、コージェネレーション(熱電併給)15%」という構成を予想しています。再生エネルギーは現在、ほどんどが水力であり、太陽光、風力などを急速に拡充しても、日本の場合、30%に届くのでしょうか。ともかく多様な組み合わせが必要だと、おっしゃりたいのです。

 

 日本エネルギー経済研究所の十市氏は「すべてのエネルギー源には長所と短所があり、相互の弱点を補いながら、バランスのとれた需要構造を作るべきである」と指摘しています。原発をどんどん廃炉にしてしまったら、その代替のエネルギー費用も巨額になります。多様なエネルギーの選択肢を保持する、つまり多神教でいくべきだと、わたしは考えます。

 

 原発問題では、気の遠くなるような時間軸が持ち出されます。原発が立地する活断層の認定にあたり「12-13万年前以降の活動が否定できないものとする。場合によっては40万年前以降」とかいう表現が出てきます。現在の人類が誕生したのが14-20万年前と考えられているそうです。つまり人類が誕生するか、誕生していなかった時代までさかのぼって考えることは、想像を越えます。1万年後でさえ、今の人類が生存しているのか、あるいは化石燃料などを使い果してしまっているのか、分りませんよ。どうでしょうか。

 

 世界全体では30か国で、原発が440基が稼動しており、さらに66基が建設中(アジアは46基)だそうです。相当な確率で今後、なんらかの規模の原発事故がおきるでしょう。日本を教訓にしながら、原発の安全性向上、事故防止および危機管理のあり方、事故発生後の対応策などを国際的に取り組んでいくことが大切でしょう。

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