一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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最近の拾い読みから(69) ― 『「唱歌」という奇跡 十二の物語―讃美歌と近代化の間で』【その1】

2006-09-21 05:55:04 | Book Review
日本に西欧音楽が導入されるに当って、大きく3つのルートがあった。

1つ目は「軍隊」を通じて。
行進などの一斉行動をするための合図としての音楽(軍歌や行進曲)の導入である。
2つ目は「学校」を通じて。
今までの教育にはなかった、「体育」と「音楽」の導入である。
3つ目は「教会」を通じて。
キリスト教信仰のための音楽(本書では讃美歌が主)の移入だ。

以上の3つのルートを通じての西欧音楽の導入が、ある場合には競合し、ある場合には協調して進んでいったのが、日本の音楽における近代化である。

本書は「讃美歌を換骨奪胎して生まれた "ミラクル" 」としての「唱歌」の歴史をたどる内容であるから、「教会」を通じてのものが主となる。
ただし、小生の興味関心は、「軍隊」と「学校」にあるので、著者の意図からやや外れるが、その視点から考察してみたい(その面から見た、本書の記述も、かなりの比重を占めている)。

まず、「学校」での「体育」と「音楽」の導入も、身体の近代化という視点からすれば、「軍隊」のそれを補完(あるいは先取り)するものであったということ。
「陸軍軍人の谷(干城:たてき)が主張した『軍人養成主義を強調し、体操科中に兵式教練を加え、陸軍礼法を用いて学校礼式となす』(『子爵 谷干城伝』昭和10年)は田中(不二麻呂:ふじまろ)を文部省から追放して後、遊戯・体操を健康目的から軍事目的へと変更する基本綱領となっていく。」
のであるが、それ以前から「学校」においても、「音楽」と身体動作とは密接に結びついていた。

例えば、「三和音に合わせてお辞儀をする動作」。
この動作は「やがて軍隊の礼法と結びつけられて、オルガンに合わせて敬礼をする動作に発展した」のである。
「学校」における身体動作が、「軍隊」のおけるそれの準備となったともいえよう。日本の近代化には、このような「軍隊」に結びつく要素が、さまざまな局面にあったのだ(「軍隊モデル」による日本の近代化。本ブログ8月22日の記事・多木浩二『戦争論』【その3】を参照)。
「全員がピアノに合わせて同じ動作をする、それはいわば己の身体を集団の目的に結びつけるまったくはじめての経験ではなかったか。集団の中で1人として乱すものなく整然として西洋のリズムに合わせるこのような動きは、それまでの日本人が知らなかった動きであった。」

音楽の近代化が日本で果したものは、身体の近代化だけではない。
それは「唱歌」の歌詞を通じて、明治国家のイデオロギーを児童・生徒にインプットするものでもあった。

この項、つづく


安田寛(やすだ・ひろし)
『「唱歌」という奇跡 十二の物語―讃美歌と近代化の間で』
文春新書
定価:680円 (税込)
ISBN4-16-660346-9
 

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2 コメント

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トラックバック、ありがとうございました (gegenga)
2006-09-21 18:05:47
「音楽」と「体育」。

二大苦手なものです。。。。。。
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やっぱり教育のしかたが…… (一風斎)
2006-09-22 11:37:42
>gegengaさま



>「音楽」と「体育」。

二大苦手なものです。。。。。

とのことですが、やっぱり

教育のしかたが悪いんでしょうね。



本来なら「遊び」の一部であってもいいものが、

なぜか「学習」になってしまっていて、

しかも、教え方がなっていないんですから、

これからも、苦手な子どもが

たくさん出るんじゃないかしら。



では、また。
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