一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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時代小説の用語について

2006-06-24 12:12:01 | Book Review
さる時代小説を読んでいたら、次のような一節に出っ食わした。
江戸時代の農民の台詞としてお読みいただきたい。
「どういう文字がどれだけ使用されているかを調べたものです。使われている文字の種類をすべて拾い出し、またその使用頻度を示しました。」
いかがだろうか。
妙に引っかからないだろうか。

小生、最初に「使用頻度」なる用語に抵抗を覚えた。
このことばの初出は分らないが、いずれにしても明治以降、しかも学術用語だろう。そうなってくると、「使用されている」という表現にも抵抗を覚える。

以下、煩雑になるので、用語のみを示す(もちろん、いずれも「地の文」ではなく、「会話文」中に出てくる)。
「暗号」「系統」「整理」「使用度数」「最多頻度」「前提」「推理」「推定」「熟語」「解読」「逆効果」「実用性」「検証」「類推」

いかがだろうか。
ちなみに、この農民は「謎解き」が得意なので、主人公の八州取締が、彼に水戸藩の暗号を解かせる、という設定になっている。
したがって、暗号解読に関する説明が必要になるのだが、それを農民自身にさせる、としたことに用語の無理が生じている(この農民の一人称は「おら」だから、余計、テクニカル・タームに異質感がしてしまう)。

さる時代小説家は、このような自体を避けるために、その時代に使われていたかどうか、あやしいと思われる用語は、『国語大辞典』の初出を確認するとエッセイに書いていたくらいだ。

もちろん、シュールな感覚を読者に与えるために、わざと現代の用語(しかも外来語)を江戸時代人にしゃべらせる、という高等テクニックがないわけではない。それは、いわば「確信犯」。

しかし、「使用頻度」なる用語を使った小説家は、そのような「確信犯」ではなさそうだ。
不注意? それにしても、編集者や校閲者は異様に感じなかったのであろうか。

ということで、著者名・作品名をここに晒すこととする。
著者および担当編集者の目に触れることを期待したい。

 著者:永井義男
 書名:幕末暗号戦争
 出版社:幻冬舎

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