一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『昭和史 戦後篇』を読む。

2006-04-27 01:12:13 | Book Review
同時代史を書くのは難しい。
というのは、客観的になろうと努めても、どうしても自分が見たことにこだわってしまうからだろう。それは、必ずしも主観的であるというわけではなく、視野や視角に限度が出てしまう、ということだ。

著者も、その点はよくわかっていて、
「結局、わたくしの狭い体験をとおして理解できたものしか話していない。が、経験したからといって、ものが明確にみえるわけではない。」
と「あとがき」で記している。

他の時代に関しては、たとえ自らの見方にバイアスがかかっていようとも、史料という形で、修正していくことができる。
けれども、現代史の場合には、「実際問題としては、データが完全に出切っていない可能性があ」る、というより、出切っていないと諦めた方がいいのだろう。

そこで、「私たちはみんなまさにその時代を生きてきた」という点に足を置いて、記述されているから、本書は前作の『昭和史 1926~1945』とは、幾分色合いが変わってきている。

とは言え、「忘れられ勝ちになっている〈教訓〉としての歴史」を明らかにするという問題意識に変わりはない。
そして、残念ながら、戦後でも、戦前の『教訓』が、生かされていないことも。
「政治的指導者も軍事的指導者も、日本をリードしてきた人びとは、なんと根拠なき自己過信に陥っていたことか(中略)そして、その結果まずくいった時の底知れぬ無責任です。今日の日本人にも同じことが多く見られて、別に昭和史、戦前史というだけでなく、現代の教訓でもあるようですが」(『昭和史 1926~1945』)
「根拠なき自己過信をもち、実に驕慢なる無知であり、底知れぬ無責任であるということです。バブルがはじけてから十年間で私たちがみたのは、政・官・財のまったくの無責任でした。」(『昭和史 戦後篇』)

果して現在の政治指導者に、その『教訓』がわかっているかどうか。

最後に、これから大きな問題となるであろう、この国の外交に関する著者のことばを引いておこう。
「昭和八年(一九三三)の国際連盟脱退以来、日本はなんら外交で苦労もせず、戦後も占領下にありましたし、独立後も一所懸命働くばかりで危険な外交問題を抱えているわけでもない。外交で必死に汗をかいたことがない、というわけで、いまの日本人は外交下手としか思えない。(中略)現在もまた、小泉さんの靖国参拝をめぐって中国や韓国とまずくなり、それがアジア全体に波及しつつある。どうにも手の打ちようのない外交の状態がつづくのを見ますと、国際連盟脱退以降、日本はあまりにも世界情勢について無関心で、そして何かというとどこかの国におんぶにだっこで、修練不足で、不勉強にすぎたのはたしかなことじゃないかと思いますね。」

半藤一利
『昭和史 戦後篇―1945~1989』
平凡社
定価:本体1,800円(税別)
ISBN4582454348

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