遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

Great wall kinase

2012-10-02 21:29:49 | BIONEWS
細胞分裂の引き金となるMPFの分子実体はCdk1に加え「Gwl」だった -東工大(マイナビニュース) - goo ニュース
細胞分裂周期を動かす『エンジン』、サイクリンとcdkのお話です。僕はこのタンパク質リン酸化酵素とその制御サブユニットの話しをする時に「セルサイクルエンジン」という言葉を使うのが大嫌いです。だからあっしの講義では使わない言葉であります。え? どうでもいいですか?? そうですね・・・。ま、ちょっとつき合え♪
記事本文ではトロント大学名誉教授増井禎夫のMPFの業績が紹介されています。きっと記事を書いた人に思い入れがあるのかもね。サイクリン/cdkでのノーベル賞はハントさん、ナースさん、ハートウェルさんが受賞されました。残念。でも、ノーベル賞共同受賞は3人までだし、"maturation promoting factor"と名付けたフラクションにはサイクリン/cdk以外にもアディショナルな因子が必要だったことを今回のGwlの発見が証明してしまいました。
Gwlは2A型タンパク質脱リン酸化酵素を不活性化します。このサイクリンとcdkはいろんな調節機構で活性を制御されているのですが、リン酸化と脱リン酸化による調節はとても重要なものです。このシステムはわりとクイックに活性を抑えたり活性化したりできるしくみです。ユビキチンくっつけて分解してしまうシステムは。分解へ持っていくわけで、これは不可逆な訳ですね。他にも阻害タンパク質による結合とか、細胞核から排出とかいろんなからくりがあるのですが、リン酸化はとっても大切。問題はリン酸基を付けたり外したりする酵素を特定するのが以外とたいへん。今さら新たな酵素が出てくるなんて、おっちゃんびっくりっすよ。w でも、まあ、Gwlの発見は2004年まで遡れるみたい。8年かかってその重要な機能がはっきりしてきたわけでんな。基礎研究ってそんだけ時間かかるし、分からず時の流れとともに消えていく遺伝子やタンパク質は多いのです。だから、研究者はつい機能的意味の分かったものに飛びつきがちなんですな。でも、分からないものに挑戦していかないと大きな仕事には繋がらないのです。
この記事の最も重要な部分は「岸本教授らは、MPFとCdk1を同義とすることについては、機能的あるいは定量的解析に基づいて、従来から疑問を呈していた。すなわち、細胞から核を除いた場合、Cdk1は正常に活性化するにも関わらずMPFが出現しないこと、あるいはCdk1だけで分裂期を引き起こすには、MPF中のCdk1よりも1桁高い活性を必要とすることを、以前に見出していたからである。」に凝縮されています。増井先生の大きな発見に疑問を呈してさらに新しい発見に結びつけていったわけですね。科学を発展させていく方法のひとつです。けっこう冒険ですが。
Great wall kinase研究のとっかかりは、ショウジョウバエの研究者ゴールドバーグ博士のグループです。染色体凝縮が上手くいかずに幼虫(ウジ虫ね)の神経芽細胞の発達遅延が起こる突然変異greatwallの研究から、greatwall遺伝子のコードしているタンパク質リン酸化酵素が細胞周期のG2後期からM期への移行に必要なサイクリン/cdkの新たな制御因子だったわけです。

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コメント
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