細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『イマジン』見えない恋の、心を探る洞察。

2015年03月12日 | Weblog

3月5日(木)13-00 <築地>松竹映画本社試写室

M-026『イマジン』" Imagine " (2012) Zjednoczenie Artystow sp. z.o.o. KMBO production/ ポーランド

監督・アンジェイ・ヤキモフスキー 主演・エドワード・ホッグ <105分> 配給・マーメイドフィルムズ

ジョン・レノンの名曲「イマジン」とは全く関係のないポーランドの異色作で、今年のアカデミー外国語部門賞を受賞した「イーダ」同様に、まったくユニークな映像の才能だ。

ポルトガルのリスボンにある、全盲患者のための視覚障害者施設に、教師として赴任してきたエドワードは、自身も全盲だが、白い杖を使わない<反響定位>という方法で移動する。

患者たちは、施設の塀の中だけで行動して、白い杖によって自分の位置や他の施設の状況や位置関係を察知して、同じ盲人たちとの人間関係も正常に保っている。

しかしエドワードは周囲の音を肌で認知したり、手を叩いての反響などで自分の位置を察知しながら、施設の外にも普通に出かけて、カフェでコーヒーをオーダーしたりする。

路面電車が狭い湾曲した石畳の道を走るリスボンの街は、独特の旅情を持っていて人気の高い観光地で、最近もジェレミー・アイアンズ主演の「リスボンに誘われて」で紹介された。

冒頭のタイトルシーンは暗いスクリーンに、犬のハアハアいう呼吸する音だけが聞こえていて、少しずつ周囲が明るく見えて来て、それが老犬なのが判るという演出になっている。

つまり監督の意図は、あくまで盲人の鋭い音感を通じて、周囲の風景や位置関係、そして人間たちの姿が見え出してくるという計算になっているが、あくまで盲人の感覚を先導する。

だから、見ている我々は、その異常な体感にまごつき乍らも、このユニークな映画の鋭い聴覚に先導されて、体感していくという不思議な気分で映画の進行に惑わされる。

エドワードの部屋の近くには自室に閉じこもっている若い女性盲人のエヴァがいるが、窓辺に来る鳥たちのさえずりを心の支えにしているが、エドワードの言動には魅力を感じていた。

そして、まさに<手探り>の接近が始まり、行動力のあるエドワードは彼女を施設から、そとの世界に連れ出す様になる。しかし目の見えないふたりの行動は非常に危険でもある。

映画はその目の見えないふたりの危なっかしいデイトを、思わず注視してしまうのだが、このことが、そのまま目の見えるわれわれと、そうではないふたりを見るという<映画的な関係>となる。

だから、カフェの離れたベンチにいる彼らの恋が、非常に盲目的な脆い関係なのを、ただひたすら注視せざるを得ない、というモドカしい感情に幻惑されていくだけなのだ。

これもまた、映画という、視覚聴覚芸術の表現手段なのである。

 

■投手の投げるボールの音でカーブを察知してセンター前にヒット。 ★★★☆☆

●4月、渋谷、(シアター)イメージフォーラムでロードショー