細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットが魅せる天国と地獄。

2014年01月31日 | Weblog

1月30日(木)15-30 東銀座<松竹本社3F試写室>

M-012『ブルー ジャスミン』Blue Jasmine (2013) graver pro. / period pro./ sony pictures classics

監督・ウディ・アレン 主演・ケイト・ブランシェット <98分> 配給・ロングライド ★★★★☆

これもまた実話の映画化というが、ウディの奥さんが友人から聞いた話を、巧みな話術で作り上げる才能と技能は、77歳でも老け知らず。

マンハッタンのアッパー・イーストで優雅な生活をしていたケイトが、夫の浮気から発覚した自己破産で、あっという間にホームレスになったという。

サンフランシスコに住む義理の妹のアパートに仮住まいして、どうにかクリニックの受付などで生活を取り戻そうとするが、泥沼は底なしだ。

というのも、それまでのブルジョワ生活の感覚が身に付いていて、そのブランド志向の浪費癖は、そう簡単には治りっこない。悲惨な現実は深刻となる。

この生活感覚の下方修正で、彼女はノイローゼ気味になり、ついついウォッカ・マテー二のグラスも増える。まさに「米民難民」状態だ。

それをさすがにウディ・アレンは、相変わらずのジョークで皮肉る。どう見ても悲惨な現実を、こともなげに冷たい笑いで誤摩化して行くのだ。

悲惨な現実とカットバックで、過去の優雅な暮らしむきを見せて、まさに悲劇の筈の喜劇を語って行くテクニックは、ニール・サイモンより苦笑する。

素晴らしいのは、今年のアカデミー主演女優賞にもノミネートされているケイトの軽妙の演技。ことの重大さを苦笑で逃げ回る独演は絶品。

ま、文句なしのオスカー演技だが、これも50年代のバーバラ・スタンウィックや、ジョーン・クロフォードの名演技を彷彿とさせるような魅力。

とくに、次第に正常な神経が少しずつ冒されて、ラストでの独り言には唸ってしまう。実に久しぶりに見た大女優の風格なのだ。

ウディ・アレンの多くの作品でも、これはベスト・スリーの興行成績に迫っているというが、これからの日本でのヒットも間違いないだろう。

ジョーン・クロフォード主演、ノワールの名作「失われた心」のようだが、表面的にはコメディのタッチなだけに、この作品の深みは、いかにも現代の格差社会も皮肉っているようだ。

 

■軽く初球を叩いたライト・スタンドへの呆れたホームラン。

●5月10日より、新宿ピカデリー他でロードショー