ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

シャークスキンのスーツ

2010-05-22 04:00:00 | 白井さん


 冒頭からいきなり私事で恐縮ですが(ま、私のブログですので当たり前といえば当たり前なんですが・汗)、今週は突然の体調不良に遭遇し難渋しました。現在は快方に向いつつありますが、明日の撮影に差し支えるとそれこそ“本末転倒”になるので、今日のアップも無理をしないようにしたいと思います。



 またこの日は、誠に有難くも白井さんから『大丈夫?』とお声をかけていただき恐縮しきりでした。そしてきっと私の体調を考慮して下さってのことでしょう、白井さん自ら『よし!今日のテーマは“こだわり”だな!』と仰って盛り上げてくださり、普段にも増して有意義なお話をたくさん伺うことができました。

 

 『まず、“自分が好きなもの、良いと思うもの”を身に着けたい、というのがあるね。同時に人にも出来る限り“自分が好きなもの、良いと思うもの”を薦める、まぁこれは売り手としてのこだわりかな(笑)。男性はある程度“こだわり”がないといけないね。昔はそれこそ下着一つにも拘っていたものだよ。もちろん今もだけどね。』

 私も実は以前から“やっぱり白井さんは下着にもこだわりがあるのかなぁ?”と思っていたのですが、なにぶん事がコトなだけに正面切って伺うのはかなり憚られる話題。千載一遇のチャンスにメモを取る私の手には緊張が走りました。

  

 『PX(アメリカ軍の基地内の売店=post exchange)で買ってきてもらってさ。BVDから始まってジョッキー、ステッドマン、フルーツ・オブ・ザ・ルームと変遷していったなぁ。そうそう、PX流れといえば煙草。キャメルとかチェスターフィールド、フィリップモリス、ラッキーストライク、当時の煙草はフィルターなんて無いのが当たり前。パッケージのデザインも今なんかと比べものにならないくらいカッコ良かったなぁ。』

 そう仰って白井さんは懐かしそうに思い出され、その後は信濃屋さんで扱っていた舶来品(当時は雑貨が中心だったそうで未だ紳士服の扱いは無かったそうです)の名前が矢継ぎ早に登場してきました!固有名詞だけでも、ジレットの剃刀、パーカーやシェーファーの万年筆、ロンソンのライター、ジャンセンの水着、丸善のべーラム、ヤードレーのシェービングマグ、ブルジョアのオーデコロン、“ケルン水”4711、オールドスパイスやキングスメンのローション、と驚くほど多彩で、実にバラエティーに富んだ内容でした。でも時々お話が横道に逸れていって、その都度『あれ?なんか話がおかしな方向にいってるぞ(苦笑)。そうそう“こだわり”についてだったっけ。』と軌道修正されていました(笑)。

  

 かつて信濃屋さんを訪れていた、白井さんの思い出の中に居られる明治・大正・昭和の洒落者は、それぞれが御自身の“こだわり”を持った“強者”ばかりだったそうです。

 『今までで一番“この人はすごい”と思った洒落者は“Nさん”という方。歳?30年前で既に白髪だったからずっと年上の方(笑)。背が小さくて確か46とかその位だったかなぁ、履いている靴もやっぱり小さいから“英国にあるジョッキー(騎手)御用達の靴屋で買うんだ”なんて言ってたよ。その人のこだわりはたったの2つ、上着の“袖幅”と“内ポケット”。袖幅の数字ははっきり憶えてないんだけど確か平置きで13cm、内ポケットは『浅くしてくれ』っていう注文だったよ。普通は物が入れやすいように深くするよう注文されることが多いんだけど多分上着のシルエットを気にされてのことだろうね。その2点以外のことは一切何も言わなかった。いつもカッコよくて、でも結局最後まで何の仕事をされているか教えてはくれなかったよ(苦笑)。』

 『何に、どの程度、“こだわる”かは人それぞれ。値段が高ければそれが“こだわり”とは思わない。ただ一流を目指すのならばそれなりのものを選ばなければならない。“投資”をしなくてはならない。それは服だけに限ったことではなく、身につけるもの、食べるもの、観るもの、聴くものなど身の周りのこと全てについて云えること。底辺が広くなければ高く積み上げることはできないんじゃないかな。』

 

 今日、白井さんがお召しのスーツの生地はこのブログ初登場の“シャークスキン”。信濃屋さんでルチアーノ・バルベラ(伊)の製品を扱うようになった初期の頃のものだそうです。『これは良い生地だね。古くなってだいぶ焼けてきているけどね。』そう仰っていましたが、その焼け具合がとても良い色艶を放っていて独特な渋さがありました。

 シャンブレー織りのボディにラウンドカラーのクレリックシャツはフライ(伊)。ず~っと長い間出番が無く御自宅で眠っていたそうで、白井さん御自身もその存在を忘れていたそうですが最近ひょんなことから再発見されたそうです。また、他にも同時に何枚かのシャツが見つかり『(ワードローブの)シャツが都合90枚程度になったよ。』とちょっぴり喜ばれていました(笑)。ネクタイは白井さん好みのクラシカルなペイズリー柄(E・ゼニア)。

 『服(スーツ、ジャケット類)は大して持って無くてもいいからシャツやネクタイなどの類をなるべく多めに持っていた方がいいよ。組み合わせがより楽しめるからね。』(もちろん白井さん談)

 靴はジョンストン&マーフィー(米)。詳しいお話は伺いそびれましたが、その形、色、輝きは名品と呼ぶに相応しい佇まいでした。