ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

ゲランの新しい香水、その名は「人種差別」。

2010-10-26 19:57:59 | 社会
『ミツコ』、『夜間飛行』、『シャンゼリゼ』、『ヴォワイヤージュ』、『チェリー・ブロッサム』・・・こうした香水や、さまざまなスキンケア商品、エステティックサロンなどでおなじみの有名ブランド、ゲラン(Guerlain)。創設は、1828年に遡ります。調香師のピエール=フランソワ=パスカル・ゲラン(Pierre-François-Pascal Guerlain)が、パリに自分の香水の店を開いたのが始まり。ナポレオン3世の皇后ウジェニーのために作った香水が大好評で、その名がヨーロッパ中の王侯貴族の間で評判となりました。この初代から数えて4代目、ジャン=ポール・ゲラン(Jean-Paul Guerlain)氏の発言が、大いなる顰蹙を買っている・・・その失言と騒ぎを、23日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ジャン=ポール・ゲラン氏は昨年、ゲラン調香師のポストをティエリー・ワッサー(Thierry Wasser)氏に譲ったようで、先代調香師という肩書で紹介されていますが、何しろゲラン家の出。今でもマスコミに注目される存在であるようで、問題の発言は、先々週、テレビ局・France2の午後1時のニュースに出演した際のもの。何と言ったかというと・・・一生懸命、それこそ黒人(un nègre)のように仕事に取り組み始めたところなんです。これほど黒人(les nègres)が仕事に励んでいるのかどうかは知りませんが、まあ、とにかく、一生懸命です。

73歳のジャン=ポール・ゲラン氏、さすがにまずいと思ったのか、私の発言が傷つけたかもしれないすべての人々にお詫びをします、と言葉を継いだそうですが、一度発してしまったコトバは取り返しのしようがない。永田町では、発言の撤回や前言を翻すことが簡単にできるようですが、一般的には後悔先に立たず。失言の咎は甘んじて受けざるを得ない。

ゲラン家出身のジャン=ポール・ゲラン氏の失言だけに、ゲラン社としても無視はできず、ジャン=ポール・ゲラン氏の発言は決して許容できるものではないと公表。また、ゲラン・ブランドは1994年からLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)の傘下に入っており、LVMHグループも、どのような表現であれ、人種差別に関する言動は厳に取り締まっている、と述べています。

しかし、差別の対象になったと感じた人々の怒りは、こうした弁明の言葉だけでは収まりません。さっそく、“Boycottez Guerlain”(ゲラン商品ボイコット)という団体ができ、23日の午後、シャンゼリゼにあるゲランの旗艦店前で抗議運動を展開しました。100人以上の人々が集まり、臨時に閉じられてしまった店の入口前にゲラン商品を並べ、抗議の意を表しました。

“Boycottez Guerlain”のスポークス・パーソン、ンザンバ(Michaël Mouity-Nzamba)氏は、ジャン=ポール・ゲラン氏の発言が我々を傷つけたのと同じくらいの激しさで、LVMHグループが彼をメディアを通して糾弾することを期待すると述べ、単なる通り一遍の非難では怒りの矛を納めないと表明。

また、ゲランの店前での抗議運動に参加した人たちが持っていたプラカードには、次のように書かれていました。「わたしだって、もう黒人のようには働きたくない」、「黒人側こそ、あなたにはうんざりだ」・・・ンザンバ氏は、必要なら、毎週土曜日、この店の前で抗議運動を行う、と述べています。さあ、いつまで続くのでしょうか。決着や、いかに・・・

意思表示は、我慢せず、明確に行う。しかも、暴力によらず、言葉やアイディアある行動で示す。フランス社会にはしっかり根付いているようです。不満は、我慢せず、堂々と表明する・・・ガス抜きを上手にした方が、個人も国家も、暴発せずに済むのかもしれませんね。